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2021.12.01

下田悠太「折り紙の幾何学から考える建築とファッションの架橋」

ファッションデザインは新たな出会いを求め、異分野とのコラボレーションは新たな化学反応を引き起こす。特に建築分野とのコラボレーションは、新たな構造や素材の可能性を提示してくれる。
建築構造エンジニアの下田悠太さんは、折紙の幾何学と構造力学を研究する傍ら、ファッションブランド noir kei ninomiya とコラボレーション作品を発表している。今回は、下田さんが取り組むコンパクトに折り畳める構造や、軽量な膜テンセグリティ構造といった建築のアイディアをファッションに応用していくことへの可能性について、お話を伺った。
PROFILE|プロフィール
下田悠太
下田悠太

建築構造エンジニア。東京大学大学院修了。
受賞歴に「コロキウム構造形態の解析と創生2020」形態創生コンテスト 最優秀作品など。研究に、舘知宏准教授との共同研究「Flat-Foldable Rigid Origami with Uniform-Thickness Panels」(AAG2020)など。
折紙の幾何学と構造力学を背景に、コンパクトに折りたためる構造や軽量な膜テンセグリティ構造など建築の新たな形態に関する研究・制作を行っている。
Webページ

Image Credit:濱田晋 / Shin hamada

折り紙から着想した構造の探究

まず、下田さんの研究の概要、関心について教えてください
研究の専攻は、建築の構造力学と呼ばれるもので、建築の形や材料、力学を考える分野です。大きい建築をつくるという問題を解くときもあれば、複雑な形をどう作るかを探求することもあります。それに加えて、私は折紙の幾何学というものに興味を持っています。大学院では、建築構造と折り紙の幾何学をどう融合できるかについて、研究を行っていました。
折り紙と一括りに言っても色々な側面があり、大きく分けると、ひとつは紙を折ると強くなるという性質です。折り紙の工学としてよく利用される、折板構造と呼ばれるものです。そしてもうひとつが、平面を追って立体に変形できるという特徴です。平面だと作業がしやすく、材料としても手に入りやすいため、そこから立体物ができるというのはメリットが大きいのです。こういったものが、折紙の幾何学を工学的に応用可能な部分となります。
特に私の場合は、平面から立体を作るであったり、立体を折ったうえで動かすという部分に興味があり、研究をしていました。
こういった折り紙に興味を持たれたきっかけを教えてください
もともと折り紙が小さい頃から好きで、よく動物などをつくっていました。そして大学に入って建築の専攻に進んだときに、折り紙と建築を融合させるような分野があることを知り、興味を持ち始めました。
最初のきっかけは、服をつくるという建築の授業課題でした。その課題で、折り紙のような服を作ったんですよ。そこで初めて、折り紙の幾何学的なパターンみたいなものをつくることに取り組みました。なので、入り口は実は、ファッションだったのかもしれないです。
建築とファッションに関わるときに、それぞれに感覚や価値観の違いを感じますか
私の興味があるのは、形とか材料っていう部分なんですよね。こういう形だったら、こういう性質があるといったところに関心があって、スケールを大きくして建築にしてもいいし、逆に小さくしてファッションやプロダクトにしてもいいと考えています。
折り紙は人工衛星のようなすごく大きな構造物に応用されることもあれば、医療用のロボットのようにミクロのものに応用されることもあり、形のスケールの自由さが魅力のひとつです。なので、私のなかで区別はあまりなく、建築でもファッションやプロダクトでも同じような考えでつくっています。

折り紙の幾何学をファッションへ応用

ファッションでの作品も発表されていますが、ファッションに関わるプロジェクトに取り組まれたきっかけは何だったのでしょうか?
折り紙の特徴のひとつである、小さく畳めるところ、また幾何学のパキパキっとしたところは身に纏っても素敵だし、機能としても良いのではないかなと考えました。いくらでもファッションに応用できそうな幾何学や折り紙があるのに、まだあまり使われてないなと思いついて。そういったなかで、私が考えた構造物のひとつに「膜テンセグリティ」と呼ばれるものがあるのですが、これをSNSで発信したところnoir kei ninomiyaのパタンナーの方に見つけていただき、コラボレーションのプロジェクトが始まりました。
ファッション領域で本格的に作品をつくることは初めてでしたが、ファッションデザイナーとのコラボレーションが面白いかもしれないというのは考え始めていました。というのも、私自身は建築の構造のエンジニアとして働いており、建築では材料や形をデザイナーとエンジニアが組んで共に考えていくというのは普通のことです。これと同じようなことが、ファッションでもできそうだなと思いましたね。
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#Smart Textile
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