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2022.11.22

南極観測隊のダウンを手がけるZANTER JAPAN(ザンタージャパン)の−60°に耐えられるものづくり

南極昭和基地で活動する南極観測隊のダウンは日本の企業が製造している。そんな噂を聞きつけ、とある工場へと向かった。過酷な環境で使用されるダウンの提供の歴史や、そのノウハウを存分に注ぎ込んだオリジナルブランド『ZANTER JAPAN(ザンタージャパン)』について(株)ザンター営業課長 比多賀 尚也さんに話を訊いた。

きっかけは日本のマナスル登山隊と共同制作したダウンウェア

自然の驚異と共にある南極観測隊へダウンウェアを提供するというのは、並大抵の事ではない。提供のきっかけは、とある日本の登山隊が起こした快挙だった。
「1956年当時は『羽毛装備』と呼んでいたダウンウェアを南極観測隊に提供し始め、現在でも続いています。
 
きっかけは、まず世界で8番目に高いマナスルという山に登る、日本のマナスル登山隊に羽毛装備を作りました。そして登山の過酷さは世界一と言われるマナスルの登頂に成功して、その装備を作ったノウハウが南極観測隊への提供のきっかけになったと聞いています」
ザンター社が保有している南極観測隊の写真。古い物だが年代は不明との事
ザンター社が保有している南極観測隊の写真。古い物だが年代は不明との事

ダウンジャケットが産声を上げた1950年代から現在までのダウンウェアの進化

技術の進歩や、経験の積み重ねによって進化してきたザンターのダウン。日本で初めて作られた1着のダウンから、そんな歴史を継ぐオリジナルブランドのアイテムまでをその移り変わりと共に解説して頂いた。
「弊社は、1951年に日本で1番最初にダウンジャケットを作りました。当時を知る者はもう居ないのですが、親会社が羽毛布団の東洋羽毛工業なので、羽毛に関しては背景があり、そこからダウンジャケット作りに着手して行ったと考えられます。
南極観測隊に1番最初に提供したダウンジャケットはアイテムも写真も残ってはいないのですが、最初に提供したマナスル登山隊の頃は、雨に弱い羽毛を守るために傘で使う生地『傘地』でダウンジャケットを作って、さらにヤッケみたいなものをダウンの上から着て登山していたようです。更にその当時は『ダウンパック[1]』という概念も無く、生地と生地の間に直接羽毛を入れていた時代があったようです。
弊社にはZANTER JAPAN というオリジナルブランドがあります。そこでリリースされている『VINTAGE MODEL DOWN JACKET』通称『ヴィンテージ』というモデルがあるのですが、その当時のダウンジャケットが原型となっています。
今は製品にする為に最上のクォリティに仕上げ『 Ventile(ベンタイル)[2]』というコットンなどを使っていますが、 デザイン自体はほぼ同じ物になります」
ダウンのクォリティが上がれば、それはそのまま極寒地作業のパフォーマンス向上に繋がるだろう。徹底的な品質へのこだわりで世界基準までになったダウンのスペックはどのようにして生み出されるようになったのだろうか。
「当時と今で大きく変わったのはダウンそのものだと思います。羽毛のクォリティは、昔はかさ高と呼んでいましたが『フィルパワー[3]』という言葉で表現します。フィルパワーの高いダウンを作るには羽毛を洗う工程が大事になってくるのですが、昔は世界的にその技術が今ほど優れてはいなかったと思います。
当社では『エコテックス®[4]』という規格に沿ってしっかり洗い、不純物を取る事でフィルパワーを上げています。不純物の無い精度の高いダウンは、少ない量でも暖かく、世界基準のクォリティに仕上がるということなのです。
羽毛は国内外の契約農家から入ってきて、まず選別という作業があります。風を送って軽い羽毛だけが飛んで、ほこりなどの不純物は下に下がって行くという機械で調整してから最後に洗浄する事で品質の高いダウンが出来上がります。
例えば100kgの羽毛を仕入れたら、30kgぐらいは不純物として出てきます。福島県阿武桑川のキレイな水で洗って、使った水はまた自社でキレイにして川に戻すという循環をしながら洗毛しています」
精毛されダウンジャケット中に入れられる直前の羽毛
精毛されダウンジャケット中に入れられる直前の羽毛
変わることと変わらないこと。今も南極観測隊で実際に使っているダウンジャケットにはそんな技術と想いが詰まっている。
「南極観測隊で実際に使っている物と全く同じモデルがそのまま製品になった『JP ORIGINAL DOWN』という商品があります。ダウンの性能はもちろん最高のものになっていて、表生地は透湿性と撥水性に富んだ3層構造の東レ『ブリザテック[5]』という生地を使っています。 
以前はナイロンも分厚いものを使っていましたが、3年前から使用しているブリザテックは軽く、だいぶ軽量化出来ていると思います。素材は進化して変わっても、基本的なデザインはもう何年も大きく変わっていないのも特徴かもしれません」
現在も南極観測隊が使用している下の装備ダウンパンツ。上着同様-60°Cまで耐えられる本格的な設計。国内精毛の800フィルパワーダウンを使用している
現在も南極観測隊が使用している下の装備ダウンパンツ。上着同様-60°Cまで耐えられる本格的な設計。国内精毛の800フィルパワーダウンを使用している
今現在ザンター社に残っている、上下が揃っている最も古い羽毛装備。おそらく80年代後半から90年代初頭の装備と思われ、現行の装備と比べると進化が分かる
今現在ザンター社に残っている、上下が揃っている最も古い羽毛装備。おそらく80年代後半から90年代初頭の装備と思われ、現行の装備と比べると進化が分かる
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