2021.10.27

【リレーコラム】​​インフルエンサーによる通信教育とファッション人生(杉山昂平)

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PROFILE|プロフィール
杉山昂平
杉山昂平

東京大学大学院情報学環特任研究員。専門は学習科学、余暇研究、メディア研究の学際領域。趣味学習や興味駆動学習と、それを取り巻く社会・メディア環境に関心がある。共編著に『「趣味に生きる」の文化論――シリアスレジャーから考える』(ナカニシヤ出版、2021年)。

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私が高校生の頃、岩波ジュニア新書から『ファッション・ライフのはじめ方』という本が出た。ファッションというものに漠然と興味を持ち始めたけれども、何をしたらよいのか分からなかった当時の自分にとって、この本はまさしく「教科書」だった。そもそも服は様々なアイテムに分類されること、スニーカーの定番はコンバースであること、流行のスタイルが移り変わること。それまでの人生でも毎日服を着ていたはずなのに、服は自分で選び、組み合わせるものだということを初めて教えられた。

その後、本に従ってABCマートでコンバースのオールスターを買い、GLOBAL WORKでチノパンやカーディガンを買った。たまたま私服で遠足に行く機会があったのでそれらを着ていったら、同級生から「大学生みたいやん」と言われて妙に満足した。DIESELが欲しいとしゃべっていた連中の言っていることがやっと分かった…全く見えていなかったファッションという世界がどんどん開けていく感覚があった。

服を着ることの専門性を身につける

「服を着ること」は、生活文化の一部であると同時に趣味としても追求される。シャツを身に纏うことはボタンのかけ方さえ知っていれば誰でもできるように思える。『ファッション・ライフのはじめ方』を読む前の自分でも、それならば知っていた。

だが、何らかのスタイルを表現し、自分の身の丈に合ったシャツを纏おうとすると、それなりの経験や知識が必要になる。審美眼を共有しない人にとって「ただの服」「変な服」に見えるものが、審美眼を共有する人にとっては「お洒落な服」「モードな服」として評価される。「ファッション」という言葉は、どちらかと言えば「服を着ること」の趣味的な側面に光を当てている。

趣味としてのファッションは、専門分化した特殊な服の選び方や着方である(1)。だから、日常生活の中で自然に身につくとは限らない。ファッション界との接点をもち、そこで教育されたり、学んだりした結果として、はじめてファッションとして服を着ることができるようになる。

では、服の着方を学べるような、ファッション界との接点はどこにあるのだろうか。

アパレルショップやストリートなど様々な場が考えられるが、メディアもまた大きな役割を果たしている。ファッション雑誌、テレビの情報番組、ソーシャルメディア…と、各々の時代に応じた技術が活用され、ファッションは「通信教育」されてきた。私も『ファッション・ライフのはじめ方』によってファッションの基礎を通信教育されたと言える。さらにファッション誌になると、内容はより専門分化する。雑誌によって学べる内容が異なり、読者層は○○系というスタイルに分かれる(2)。

インフルエンサーという通信教育者

通信教育は担い手がいなければ成り立たない。ファッションを楽しむ人々は、どこかで「通信教育者」の恩恵を受けている。時に広告・宣伝とも混ざり合った教育活動によって、ファッション界への参入口は保たれている。

『ファッション・ライフのはじめ方』の場合、著者はファッションイラストレーターの高村是州さんだった。文化学園大学服装学部の教授である彼は、比喩的な意味ではなく、誰がどう見ても「専門家」であり「教師」である。だが、ファッションの通信教育は、いわゆる専門家・教師とは異なる人々によっても担われている。

例えば、SNS時代には「インフルエンサー」と呼ばれる人々がいる。個人の生活の一部(のように見えるもの)として、アイテムの情報や着こなし方をSNSに投稿し、それが多くのフォロワーに読まれる人々である。フォロワーは投稿内容をハウツーや指南書として活用することができる。

インフルエンサーは、しばしば「身近さ」によって特徴づけられる(3)。彼・彼女らの投稿内容は、遠く新しいファッション界に関する講義ではない。「安くても高級感があるコーディネートをするにはどうすればよいか?」といった、私たちと共通の課題に対する実用的な助言である。だから、インフルエンサーは「教師」というよりは「先達・先輩」のように見える。

「普通の主婦」のファッション経歴

インフルエンサーは「身近」な存在である。だが、その身近さは「簡単になれる」という意味ではない。教師よりも先輩の方が身近だからといって、先輩と初学者に経験や専門性の差が無いわけではない。

例えば、Ayaさんというインフルエンサーがいる(4)。彼女の経歴を取材した2つの記事を比べてみたい。

まず「普通の主婦が“オシャレのチカラ”でインフルエンサーになるまで」という記事では、彼女がインフルエンサーになるまでの経緯が次のように語られている(5)。

「2人の子育てが一段落して30代になった頃、体のラインも崩れてきて、自分のオシャレがわからなくなった時期がありました。そんな時、友達に教えてもらったインスタグラムが私の人生を変えました。 見よう見真似で、自分の姿を撮って、インスタにあげて、いいねをもらう。自分はどんなスタイルが似合うのか、改めて考えるきっかけになりまし た。もっと素敵なコーディネートがしたい、もっと素敵な写真を撮りたい。もともと研究熱心な性格なので、気がついたら、今になっていたんです(笑)」

この記事では、Ayaさんはもともと「普通の主婦」であり、普通の主婦が趣味としてInstagramを試行錯誤した結果として、インフルエンサーになれたという経歴が語られている。だとすると、Ayaさんは趣味を究めた人だと言える。

一方、「インフルエンサー Ayaさんインタビュー 「“キャッチする”という感覚はすごく大切にしています」」という記事では、少し異なる経歴が語られている(6)。

「上京して、美容部員の仕事をずっとしていたのですが、結婚と出産を機に退職。30代前半まではずっと子育てをしていました。もともとファッションが好きだったこともあり、2014、15年頃から私服のコーディネートをインスタでアップするようになったら、それが今のお仕事につながってきたという感じですね。まだ、インスタをみんながやっている時ではなかったので、自分だけの趣味みたいな感じで始めていました。Amebaのブログも始めると、だんだんと反響が大きくなってきて。洋服のコーディネートに関してだけでなく、もともとエステの仕事をしていたので美容の情報も発信し始めると、インスタグラムやAmebaブログでお仕事のお誘いを受けるようになりました。そのうちにインスタグラムやブログの仕事がメインになり、現在に至ります」

こちらの記事では、Instagramへの投稿は趣味であったが、同時にその趣味には美容部員やエステの仕事経験が活かされていたと語られている。こうした仕事経験のある人は果たして「普通の主婦」なのだろうか、という疑問も沸いてくる。Ayaさんは趣味を追求したのに加えて、仕事の専門知識を趣味に「輸入」した人なのである(7)。

メディアの背後にあるファッション人生

ファッションとして服を着ることは専門的な営みである。だからこそ、それを学ぶ人が現れる。それを教える人は、専門家でなかったとしても、どこかで人よりも発展した専門性を身につけてきている。

SNSをはじめとする参加型のメディアやプラットフォームは、投稿するだけで誰でも平等に表現者になれるような気にさせてくれる。だが、そこに集う人々の専門性は実際のところ様々である(8)。

専門性はその人がどのようにしてファッション界と関わり、どんな経験をしてきたかで変わってくる。必ずしも所属や肩書きとしては残らない「経歴」かもしれないが、その人の身体には刻み込まれている。

私が高校生の頃に『ファッション・ライフのはじめ方』を読んだことや、Ayaさんが美容部員やエステの仕事をしていたことは、ふだんはわざわざ口にされることはない。だが、メディアで教え、メディアで学ぶどんな人にも、それぞれのファッション人生が存在しているのである。Fashion / Technologyの面白さは、そうした人生との交差点に現れると思う。

(1)余暇研究における「シリアスレジャー」概念に基づいた考え方である。宮入恭平・杉山昂平 (編) (2021)『「趣味に生きる」の文化論――シリアスレジャーから考える』ナカニシヤ出版
(2)難波功士 (2007)『族の系譜学――ユース・サブカルチャーズの戦後史』 青弓社
(3)藤嶋陽子 (2018)「着こなしの手本を示す――読者モデルからインフルエンサーへ」岡本健・松井広志 (編)『ポスト情報メディア論』 ナカニシヤ出版, pp.107-120
(4)Aya@aya_green1010
(5)https://storyweb.jp/fashion/97939/
(6)https://numero.jp/20200828-happynewbeauty01-aya/
(7)仕事から趣味へ専門知識を輸入するという表現は次の論文に基づく。Jeppesen, L. B., & Frederiksen, L. (2006) Why Do Users Contribute to Firm-Hosted User Communities? The Case of Computer-Controlled Music Instruments. Organization Science, 17(1): 45–63
(8)杉山昂平・執行治平 (2021)「メディアはアマチュアをつくるか?――学習に注目するアプローチの提案」『マス・コミュニケーション研究』 99: 97–114

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