2022.10.26

【連載】ものと人のための補助線 #03:パリコレの”PLAnet”

#ものと人のための補助線
PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
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先月、パリに行ってきた。2020年の春に世界的なパンデミックが起きてから、初めての国外出張。長距離フライトのとてつもない疲労感は、シベリア周りのせいか、知らぬ間に衰えた身体のせいかはわからないけれど、9月24日の夜にシャルル・ド・ゴールに着いた。

目的は、パリファッションウィーク。いわゆる、パリコレである。これまでさまざまなデザインウィークには顔を出してきたけれど、ファッションは領域がやや違うので、ほとんど別世界の話だった。しかし、なかなか見られない世界だからこそ、このタイミングで無理してでも行きたい理由があった。

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理由の一つは、CFCLというブランドのショーである。元イッセイ ミヤケ メンのデザイナーだった高橋悠介さんが2020年に立ち上げたこのブランドが、パリで初めてとなるショーを開催した。光栄なことに、わたしはブランド立ち上げ時からコピーライターとして一緒に仕事をさせてもらっている。今回のコレクションにも関わっていたので、ある意味では(ほんの一部ではあるけれど)自分の仕事を見に来たとも言える……かもしれない。

CFCLは “Clothing For Contemporary Life”の頭文字で、訳せば「現代生活のための衣服」である。積極的にペットボトル等の再生素材を使ったり、一着あたりのLCA(ライフサイクルアセスメント。ある製品の生産から廃棄までの環境負荷を定量的に評価する手法)を実施したり、その結果、日本のアパレルブランドで初めてB Corpの認証(B Corporation:社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度)を取得したりと、サステナブルなファッションを突き進んでいることで多方面から有名だが、「ニットのモードなドレス」という新しい領域を切り開いている存在でもある。

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そして洗練されたデザインながらも、ほぼすべてのアイテムが自宅で洗濯できて、速乾性があり、さらに環境配慮というバックグラウンドがあることが、まさに「現代生活」に求められた衣服だと、実際に日々着るなかで実感している。コース料理のレストランにも行けるし、子どもの泥遊びにも思い切り付き合えるワンピースは、なかなかない。

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CFCLの今季のコレクションテーマは“Knit-ware: Blueprint”。ニットの可能性を含め、衣服の未来予想を語るような題目である。そして、そのテーマを表現したプレゼンテーションのコンセプトは “PLAnet” で、「プラスチックに覆われた惑星」が舞台のSFチックな設定だった。アーティストのナイル・ケティングさんとのコラボレーションで、真っ青な床のパレ・ド・トーキョーで、機械音声がナレーションを読み上げた。

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ファッションモデルだけでなく、さまざまなパフォーマーがCFCLの衣服を身に着け、ジャグリングしたり、ダンスをしたりしている。床には「ペットボトルの化石」であるレジンの塊と、透明の球体がいくつも転がっている。人々が想像するいわゆるパリコレのショーとは全く異なるが、強いインパクトを残すだけでなく、パリで求められるエレガンスにもきちんと応えた構成だったのが、ブランドのたくましさを感じた。

CFCL以外では、Mame Kurogouchiとイッセイ ミヤケのショーを拝見したほか、いくつかのブランドのショールームやプレゼンテーションを回った。

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Mame Kurogouchiのテーマは、”Bamboo Groove”で、古来より日本人と深い関わりのある竹籠とその周辺文化をリサーチして生まれたコレクションである。まさに籠編みのような工芸感と、赤みのあるブラウンと春らしいグリーンが印象的だった。展示会で間近で拝見したけれども、統一感があるように見えた色彩も多様な素材や製法でコントラストがあり、その繊細な仕事と視点はずっと変わらないMameの魅力だった。

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イッセイ ミヤケのショーは、見られたことがこの上ない幸運だったと思える時間だった。三宅一生さんという偉大なデザイナーのなき後、初めてのパリのコレクションで、ものづくりの精神を受け継いだメンバーたちの強い前向きな意思と、彼らのまぶしい自由さの表現に、気づけば泣いてしまっていた(イッセイ ミヤケに関しては、別の媒体でも詳細にレポートする予定である)。

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ちなみに、イッセイ ミヤケの会場でばったり再会した田根 剛さんのアトリエに、ショーの後に図々しくもついて行かせてもらった。大型の駐車場を改装した建物の最上階にある、まるでガラスの温室のような明るい空間が、田根さんの率いるATTAのアトリエだった。

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進行中のさまざまなプロジェクトを見せていただき、誰も見たことのない新しい空間や場所が、これから日本や世界のあちこちに生まれるのだなと胸が踊った。ファッションウィークとは関係ないものの、誰かに話したくて仕方のない楽しい時間だったので、ここに書いてしまう。

売れっ子ファッションジャーナリストたちは、毎日パリ中を駆け巡り、スピード勝負のレポート記事のために次々と記事を執筆していたが、わたしのパリ滞在中のスケジュールはあまりにのんきなものだった。しかし、そんなヒマと言ってよいほどの日々だったおかげで、現地での出会いや偶然に任せた予定を組めたのは幸いだった。

アパレルは、環境汚染産業の第二位(一位は石油産業)というデータもあり、さまざまな問題を抱えているのは間違いない。半年に一回というコレクションのサイクルも、決してサステナブルには見えない。しかし衣服という人間の生活に不可欠な存在は、常に時代を反映する鏡であり、不思議なことに、確実に着る人と周りの人の気持ちを変える力も持っている。

ファッション業界にあらためて触れて、そのパワフルなスピード感と影響力は、他の分野とは全くことなるものだと強く感じた。もはややり尽くしたかとも思えてしまうかもしれないけれど、ファッションはこれからも、まだまだおもしろい。

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