Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo

【連載】上海ファッションシーンにおけるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #002

PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

Instagram / Twitter / Web

前回の連載でまとめた2010年初頭にロンドンから世界へと起きた「ゲームチェンジ」をベースに、今回は上海を中心に2015年頃に中国から世界へと今も更新し続けている「ゲームチェンジ」について書いていく。
ファッションにおける中国の立ち位置を考えたときに、「パチモン」や「大量生産/消費」といったキーワードを想像する人は少ないだろう。そのイメージを塗り替えたのは、ここ5年程のことである。
わたしが初めて中国・上海に訪れたのは、2016年頃。当時の合同展示会「MODE SHANGHAI」の雰囲気としては、前日まで工事が入り、会場中に砂埃が立っているような光景にびっくりしたことを覚えている。といっても、その段階ですでに世界の名目GDPではアメリカに次ぐ2位に位置し、2015年に108.2兆元、2016年に157.6兆元、2017年には202.9兆元と年間のモバイル決済額の急激な成長とともに、キャッシュレスを中心としたライフラインを獲得していた。
経済成長に伴う新しいライフラインの構築、そして全世界的に価値観の変化をもたらしているZ世代の動向などあらゆる社会的な要因が背景にあったとしても、5年間ほどで起きた上海のファッションシーンにおけるゲームチェンジのキーは一体なんだったのだろうか?

プラットフォームの拡大

独自のプラットフォーム

2016年当時、初めての上海ファッションウィークにさまざまな驚きや楽しさを感じつつも、片一方で同時期の上海ファッションウィーク期間中に「LABELHOOD」の開催がスタートしている。
「LABELHOOD」は、これまでもインタビューやコレクションレポートで伝えてきているので、以下リンクを参考にしてほしいが、前回の連載で紹介したロンドンでいう所の「NEWGEN」「FASHION EAST」のような役割として中国のファッションシーンに新しい息吹を吹き込んだ重要なプラットフォームだ。
彼らのここ4~5年で広がる影響力は、これまでに輩出したブランドから明確に感じ取れる。Netflixの「Next in Fashion」に出演したAngel Chen、LVMH Prize2019のショートリストにノミネートしたSusan Fang、LVMH Prize2021にはRuiがファイナリストにノミネート、ミラノと東京のファッションウィークに参加したSHUSHU/TONG、ロンドンファッションウィークに参加するFeng Chen Wang、Guccifestで映像作品が選ばれたYueqi Qiなど多種多様なブランドが「LABELHOOD」でデビューを果たし、世界へと飛び立っている。

オーディエンスを巻き込むフラットさ

「LABELHOOD」の自国の若手ブランドを育成・輩出する仕組み自体は、前回連載で取り上げた「NEWGEN」「FASHION EAST」と重なる部分があるが、ネット普及以降に立ち上げられたことによるロンドンのそれとは違うポイントが2つある。
ひとつめは、従来のファッションウィークで守られてきた「エクスクルーシブ」という価値観をフラットにしたこと。
本来ファッションショーは、上流階級向けに行われるオートクチュールから始まっているため、ブランドから選ばれた者のみがインビテーションを片手に入れる世界だ。その「エクスクルーシブ」さは、ある意味ファッション独自の価値としてハイエンドなファッションブランドのプレミア感を保っているとも言える。いわゆるその「エクスクルーシブ」の最上級を担うパリファッションウィークにおいて、2015年頃にGosha RubchinskiyやVETEMENTSなどが登場したことは価値を激震する「ゲームチェンジ」だった。
そうして2020年パンデミック後の現在においては、それが全世界的にオンラインで配信されるようになったからこそ、ハイブランド側はデジタル上で感じさせる「エクスクルーシブさ」を模索している。
1 / 4 ページ
この記事をシェアする