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【連載】ビジュアルコミュニケーションをめぐるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #003

PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

Instagram / Twitter / Web

2010年以降、企業からファッションブランドまで規模に問わず、Instagramやtiktokなどビジュアルを通したオーディエンスとのコミュニケーションは欠かせないものになった。むしろ、その一瞬でオーディエンスが共鳴するか否か決まるといってもいいほどの影響力をもっている。
そのある種の依存関係のようなブランドもしくはデザイナーとSNSの密着度は、2021年にBottega VenettaのInstagramが閉鎖したニュースへの反響からも窺いしれるだろう。この一件は、ケリングの表明によれば、SNSはアンバサダーやコミュニティに託すものだと語り、一方でブランド側からはデジタルジャーナル「Issue」を刊行することで、雑誌をめくるようなインタラクティブな仕掛けがSNSの規定のフォーマットを超えたブランドの世界観を表現できる最適なツールとして導入し始めている。それは、SNSのスピーディーな競争とは逆行しながらも、ブランドのペースに合わせて独自のコミュニティを形成するようにも感じられ、その新たなビジュアルコミュニケーションの力は、しっかりと売り上げの数字にも反映されている。
さまざまなデジタルツールが飽和状態になった2020年のいま、全世界がオンラインを通してファッションショーを見ることも解放される中、SNSの2Dの世界で試行錯誤するブランドもいれば、PRADAやBottega Venettaのようにアプローチごと変えるブランドも出てきた。
2010年から今に至るまで、一体ビジュアルコミュニケーションにおけるゲームチェンジはどのように変容してきたのだろうか?

フィルム回帰がもたらしたもの

連載の第1弾で少し触れたように、2010年以降のファッションのコンテクストにおいて「ジェンダーレス」「多様性」などのキーワードの源流のひとつには、2013年に発表したJ.W.Andersonのコレクションがあった。
そして第1弾では触れられなかったが、アメリカではストリートからHood by Airも、その源流をさまざまなコラボレーターと一緒に広げていっていた1人であることを忘れてはならない。
彼らが大きな反響をもたらすまで、いわゆるハイブランドから提示されてきた美意識は、背が高く細いモデルとフォトショップで艶やかに加工された写真。それは、まだSNSが普及する前の雑誌→オーディエンス / 広告→オーディエンス という一方向でのコミュニケーションだからこそ可能とするものでもあったが、2010年以降SNSでオーディエンスが多様に自己表現をするようになってから、その美意識は憧れではなくなった。SNSに広がる「PR」のハッシュタグによるリコメンドや過剰にまで加工した美しさよりも、ありのままの自分でも等身大に感じられるものへの共感が強まっていったのだ。
その潮流の後押しのひとつには、フィルム写真の回帰と同時にストリートキャスティングが影響してきている。
例えば、J.W.Andersonは2013年に発表したショーのあとに、クリエイティブディレクターにBenjamin Brunoを起用し、当時無名に近かったフォトグラファー・Jamie Hawksworthとともに3年以上にわたってキャンペーンフォトを打ち出してきた。そこには、日常的なモデルが身体の動きやプロップを使って奇妙なフォーム描く姿が映し出される。
同時期に登場したフォトグラファー・Harley Weirも、現在はより身体の造形にフォーカスをおいているが、活動初期にはStella McCartneyやBALENCIAGAのキャンペーンでいびつなポージングをするモデルたちを捉え、Jamieと同時期に活躍し始めたフォトグラファーとして注目を集めることになった。
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