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“あのちゃん”ことanoの武道館衣装を手がけたAMNI──“感情を纏う”衣装表現の舞台裏

2025.12.02
ステージに立つアーティストを彩る衣装を、AMNI(アムニ)は“着るもの”ではなく“表現そのもの”として立ち上げる。デザイナー・Fukaさんが率いる彼らのクリエイションは、ファッションとアートの狭間で、アーティストの内なる衝動を形と質感で描き出す。それはまるで一瞬の感情を彫刻するかのようだ。
9月に開催された、ano 日本武道館公演『呪いをかけて、まぼろしをといて。』の衣装に象徴されるように、繊細さと力強さ、現実と幻想が共存する造形は、ステージに新たなリアリティを与える。
AMNIの誕生、創作過程、そして「衣装表現」の可能性について話を伺った。

PROFILE

Fuka Otsuka

取締役CBO / AMNI Designer

1997年大阪府生まれ。幼少期から絵や立体造形に触れ、13歳から制作活動を本格始動。大阪市立工芸高等学校でビジュアルデザインを学んだ後、大阪文化服装学院へ入学。2019年に映像ディレクターUma Otsukaと共にファションブランドAMNIを設立。同年春夏よりコレクションの制作をスタート。現在はコレクション制作やグラフィックデザイン、アーティスト衣装制作を行う。

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原点となったアンリアレイジのショー

Fukaさんが初めて“ものづくり”に心を動かされたのは、どんな瞬間だったのだろうか。
「幼い頃からずっと“作ること”が身近にありました。両親がともにフラワーデザイナーで、家の中にはいつもお花の材料や資材があふれていて。いわゆる“綺麗なお花屋さん”というよりは、雑多で創作のにおいがする空間でした。
そんな環境で自然と手を動かし、中高生の頃には自分の作った小物を雑貨屋さんに置いてもらって販売するようになっていました」
ものづくりが日常にあったFukaさんは、自然な流れでデザイン系の高校へ進学。ビジュアルデザインを学んだ後、ファッションの道へ進んだ。
高校時代に出会ったファッション雑誌や、アメ村の古着文化の独特なスタイルに触れ、「自分もファッションで創作する側に立ちたい」と思うようになったという。
何より驚かされるのは、Fukaさんが小学生の頃から“ファッションデザイナーになりたい”という夢を明確に描いていたことだ。「いつかレディー・ガガの衣装を手がけたい」と本気で思い、“ガガのデザインノート”を作っていたという。
「もともと絵を描くことが一番好きで、“絵を仕事にしたい”という思いが強かったんです。でも、ただ絵を描くだけでなく、それを立体として形にすることにも興味があった。だから、“絵を仕事にするために服を作る”という感覚で、表現の幅を広げていきました。
小さい頃から、自分の好きなことをどう掛け合わせれば新しいクリエイティブが生まれるのかを考えていて、それが今の自分のベースになっていると思います。“好き”を軸に表現していきたいという気持ちはずっと変わらなかったですね」
その後、FukaさんはUmaさんと共に2019年に「AMNI」を設立。さらに2023年には、クリエイティブスタジオ・AMNI Center Studioを立ち上げた。
ブランド名であるAMNIは英語の「amniotic fluid(羊水)」に由来し、ファッションや映像といった枠を超え、新しいクリエイティブを育む“プラットフォーム”をつくりたいという願いが込められている。
「AMNIが生まれたきっかけは、パートナーであり、映像チームのリーダーでもあるUmaの存在が大きいです。彼とは高校の同級生で、デザイン系の学校で出会いました。私はグラフィック、彼はプロダクトデザインを学んでいて、当時からよく一緒に作品づくりについて語り合っていました。
当時、アンリアレイジのショーでサカナクションの山口一郎さんが音楽を手がけていて、ファッション・音楽・映像が一体となったその表現に衝撃を受けたんです。『ジャンルを超えて、こんなにも融合できるんだ』と感動し、『いつか自分たちもこんな表現をしたいね』と話していました。
それから数年後、それぞれがファッションと映像の道へ進み、『そろそろ一緒に作品を作ってみようか』と動き出したのが、AMNIの原点です」

武道館に降臨した、あのちゃんを体現した衣装

ano初の武道館公演『呪いをかけて まぼろしをといて。』で、AMNIが手がけた衣装が大きな話題を呼んだ。
感動と熱狂に包まれたステージで観客の視線を奪ったのは、AMNIの衣装をまとったあのちゃんの姿。まるで神話の登場人物かのように神格化された“あのちゃん”そのものだった。
「武道館の衣装は、スタイリストの神田百実さんからオファーをいただきました。あのちゃんの衣装を担当するのは今回で4着目くらいになります。もともとはAMNIのブランドアイテムをテレビ衣装としてリースしていただいたのがきっかけで、特別なタイミングで衣装制作も依頼していただくようになりました」
神田さんからのオーダーは「一番目立つ衣装を」というシンプルな一言だった。その信頼に応えたい一心で、Fukaさんは思い切り振り切ったデザインに挑んだという。
「あのちゃんは、ビジュアルだけ見ると本当に現実離れした可愛さがあるキャラクター。でも、彼女の音楽や言葉を聞いていると、そこにすごく深い葛藤や苦しみがあって、それをちゃんと自分の表現として昇華している。その姿が本当に素晴らしいなと。
自分自身もあまりいい記憶がない学生時代を過ごしたので、そういう部分にすごく共感するんです。だから、可愛いだけじゃ表せない、にじみ出てくるような“悪玉”みたいな要素にシンパシーを感じていて。
今回は、そういった“可愛い”と“歪み”の共存を表現したかった。一見すると嘘みたいに完璧なシルエットですが、モチーフには“錆”や“歪み”など、内側からにじみ出るような感情を込めてデザインしています」
青と赤のコントラストが目を引く衣装は、生地にシリコンをプリントした新技法で制作。表面には“錆び”のような質感が浮かび、完璧な美しさの中にある歪みやノイズを、あえてデザインとして織り込んでいる。
もうひとつ強く印象に残るのが、大きな骨の羽だ。円形ステージに立つあのちゃんの存在感を際立たせ、まるで天使が舞い降りたかのような雰囲気を生み出している。
AMNIのブランドで象徴的に用いられる骨のモチーフには、誰もが内側に秘める“ありのままの自分”を表現し、それを自信に変えて生きてほしいという思いが込められている。
「骨の羽は、“壊れたキューピッド”というモチーフをもとにデザインしました。可愛らしいキューピッドの裏にある壊れた部分や歪み、絵に描いたような理想の存在に見えても、内側では壊れている──そんな人間らしさを込めています。
実は骨の羽は重く、本番4日前のリハでは翼が折れるほどでした。素材は軽くても鉄パイプの芯が入っていて遠心力で後ろに引っ張られるため、見た目以上に重いんです。そこで特殊造形のMukai Nobutakaさんに骨組みを作り直してもらい、修正版を初めて着けたのは本番当日のリハーサルでした。
本番であのちゃんが羽を着けて踊ったのはその日が初めて。私たちはずっと祈るように見守っていました。中はコルセットのように締めつけられる構造で呼吸もしづらく、翼を無くそうという意見もある中、あのちゃんは最後まで諦めず、ギリギリまで調整を続けてくれました。
ステージが成立したのは、みんなの『絶対にやり切る』という気持ちのおかげだと思います」
撮影/横山マサト

AMNIの挑戦と、世界に向けたクリエイション

アイドルやアーティストから絶え間なくオファーが舞い込む一方、AMNIはオンラインショップでアパレルラインも展開している。アパレルラインでは、日常にさりげない違和感や刺激を添えつつ自然に馴染み、アート作品のように楽しめる服づくりを目指しているという。
ファッションから映像まで、幅広いクリエイティブで刺激を与え続けるAMNI。今後挑戦したいこととは何だろうか。
「まずブランドを海外に向けて発信したいと考えています。その経験を通し、よりアートでコンセプチュアルな部分を楽しんでくれる層に、自分たちの作品を届けたいと思うようになりました。
最近は初めてパリやロンドンにリサーチに行き、街の人々に触れたり、ファッション業界の方々に作品を見てもらったりしました。
また、武道館の衣装を一緒に制作した特殊造形のMukai Nobutakaさんとも手を組み、今のアトリエ兼映像スタジオを思い切り世界観の炸裂した空間にしたいと考えています。大きな木や岩肌などを取り入れ、まるで別世界に迷い込んだかのような造形空間をつくりたいですね」
羊水が命を包み、新たな存在を生み出すように、AMNIは“新しい表現が生まれる場所”として、常に変化しながらこれからも創造を続けていく。

ヘッダーキャプション:撮影/横山マサト

Text by Tajimax

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