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猛暑日時代のシャツ生地に新提案:日清紡テキスタイル「クールメソッドAT」の高通気設計とは

2026.05.19
酷暑日が当たり前になった今、衣服の快適性をどう高めるかは、アパレル業界にとって重要なテーマとなっている。そこで注目したいのが、日清紡テキスタイル株式会社が開発した新素材「クールメソッドAT」だ。2025年に紳士シャツに採用され、大ヒットを記録したことで注目を集めた。その最大の特徴である通気量100ccを超える高い機能性は、10年以上にわたる研究開発の集大成といえる。
今回、同社のシャツ事業部の藤谷正史さんとマーケティング推進室の田中大輔さんに、本素材の開発背景と技術的な革新性について話を伺った。

PROFILE

藤谷 正史(ふじたに まさし)

日清紡テキスタイル株式会社

シャツ事業部

シャツ営業課 課長代理

PROFILE

田中 大輔(たなか だいすけ)

日清紡テキスタイル株式会社 

マーケティング推進室 専門課長

新しい高通気素材の誕生

夏の快適性を高める――。これは日清紡テキスタイルが長年にわたり探求してきたテーマだった。特に近年の酷暑は、熱中症対策という観点からも、素材開発の現場にとって新たな挑戦を要するものとなっている。こうした背景のもと、織り組織の工夫によって圧倒的な通気性を実現したのが「クールメソッドAT」だ。
この素材の最大の特徴は、蜂の巣のような六角形が並んだハニカム構造の織り組織にある。この特殊構造により、一般的な高通気のシャツ生地の通気量60〜80cc/cm2/sec程度を大きく上回る、100cc/cm2/secを超える数値を達成できた。そのおかげで、生地内の空気を効率的に循環させ、蒸れを大幅に軽減できるという。
昨年「クールメソッドAT」を取り入れた紳士シャツが大ヒット
藤谷さんは「通気性向上のテーマには、10年以上にわたりこだわり続けてきました」と話してくれた。実際に同社内では、これまでにいくつもの高通気織物が開発されてきたという。
従来、通気性を高めるには、糸の打ち込み本数を減らし、生地の密度を下げる手法が一般的だった。しかし、この手法では透け感が増し、生地としての品位を損なうという欠点もある。
これに対し、「クールメソッドAT」は密度を維持しつつ、織り組織の技術のみでこの高い通気性を実現した。この技術への評価は社内でも高く、藤谷さんは「織り組織の技術だけで通気度100ccを達成できたことは、従来の素材とは達成感が異なる」と、その意義を強調する。
織り構造を工夫したことで、一般素材と比較して通気性が約5倍に

絡み織りに着想を得た独自構造の織組織をドビー織機で実現

「クールメソッドAT」のハニカム構造は、古くから夏用の生地に使われてきた「絡み織り」という技法に着想を得ている。絡み織りは、2本の経糸を互いに絡ませながら緯糸を打ち込む特殊な製法で、糸の間に隙間が生まれやすく、通気性の高い生地を作ることができる。
しかし、この絡み織りには大きな課題があった。製造には専用の特殊な織機が必要で、それを保有するメーカーは業界でもごく少数。さらに、複雑な構造ゆえに織るスピードが遅く、生地の生産コストが高騰してしまう。夏に用途が限定される素材に多額の設備投資を行うことは、メーカーにとってリスクが高いのが実情だった。
そこで日清紡テキスタイルが試みたのは、一般的な「ドビー織機」を用いて、絡み織りのような風合いと機能性を再現するというものだ。ドビー織機は柄を織るために広く普及している設備であり、これを使えれば大幅なコストダウンと生産性の向上が見込める。
ドビー織機を使って、コストを抑えながら絡み織りのような織組織を実現
藤谷さんは「既存の弊社の設備で、絡み織りに似たものを作れないかと試みました」と振り返る。その結果、絡み織りの特徴であるシャリ感のある風合いや高い通気性を再現しつつ、生産効率を大幅に改善した「クールメソッドAT」が誕生した。

透け感と柄崩れの壁を克服した、緻密な設計

しかしながら、この技術の応用にもいくつもの壁があったようだ。高通気織物はその構造上どうしても生地に隙間ができるため、着用時の透け感が強くなるというデメリットを伴ってしまう。
また、ハニカム構造の凹凸が影響し、ストライプやチェックといった柄を表現しようとすると、組織に引っ張られて柄が崩れてしまうという問題もあった。
しかし、これらの問題についてはすでに想定済みだった。同社はこれまで並行して研究してきた「柄のカモフラージュ効果」の知見を応用することで、課題への解決を図った。これは、特定の柄が持つ視覚効果を利用して、透けやシワを目立ちにくくする技術であり、「クールメソッドAT」では、組織そのものが縦縞のように見える設計を施すことで、透け感を巧みに軽減することができた。
さらに、特殊な織り組織であるために、縫い目に力がかかると生地の織糸が滑って縫い目が開くことで起こる滑脱や、摩擦によって毛玉が発生するピリングといった物性面の課題も浮上した。
これらの難題を解決するため、開発チームは膨大な数の試作を繰り返し、過去10年以上にわたって蓄積された高通気素材のデータを徹底的に分析してきた。糸の太さや張力、織りのバランスを微調整しながら、トータルバランスとして最適な設計を模索する地道な作業が続けられた。

凹凸構造がもたらす肌離れ性と快適性

「クールメソッドAT」がもたらす快適性は、通気性だけではない。ハニカム風構造が生み出す生地表面の細かな凹凸が、もうひとつの重要な機能である「肌離れ性」を実現している。
凹凸のある生地は、肌に触れる面積が点接触となる。これにより、汗をかいても生地が肌に張り付きにくく、サラリとした感触が持続する。この肌離れの良さは、夏の不快なベタつきを抑える上で極めて効果的だ。
ハニカム風構造によって、通気量の向上と点接触による肌離れ性を実現
藤谷さんによれば、この凹凸は高通気性を追求した結果として生まれた副次的な形状であったという。しかし、夏の素材開発において肌離れ性は常に意識してきた重要な要素であり、結果的に複数の快適性を備える理想的な構造となった。
さらに同社のこだわりとして、綿100%での展開を推奨している。綿はポリエステルに比べて吸湿性が高く蒸れにくく、天然繊維ならではの風合いの良さが、着用時の満足度を高めてくれる。
もちろん、素材を限定しない織りの技術であるため、顧客の要望に応じて吸水速乾性のあるポリエステルと組み合わせたり、後加工でさまざまな機能を付与したりすることも可能だ。
さらに、その快適性は客観的なデータによっても裏付けられている。社内試験では、一般的なビジネスシャツと比較して、「クールメソッドAT」を着用した際の衣服内温度が約2℃低いという結果も出ているという。
客観的なデータで、涼しさが得られることを確認できた

ワークウエアやルームウエアへの新たな展開

「クールメソッドAT」は昨年、紳士用のビジネスシャツに採用され、高い評価を獲得した。ビジネスシーンに適した上品な生地感でありながら、カジュアルなスタイリングにも対応できる汎用性の高さが消費者に支持されている。
「クールメソッドAT」は織りの技術であるため、顧客の要望に応じて多様な展開が可能
日清紡テキスタイルでマーケティングを推進する田中さんによると、このビジネスシャツでの成功を皮切りに、現在では活用の場をより多様なシーンへと広げていく可能性があるという。
活用先のひとつとして期待されるのが、ワークウエアの領域だ。建設現場など屋外での作業において、熱中症対策は喫緊の課題となっている。高い通気性と肌離れの良さを持つこの素材は、過酷な環境下で働く人々の安全と快適性を支える上で大きな貢献が期待される。
また、ルームウエアやリラックスウエアといった分野も有望だろう。就寝中の汗による不快感を軽減し、快適な睡眠をサポートする素材として、その独自の風合いと機能性が生かされる。
田中さんは「いわゆるルームウエアやリラックスウエアといったところにも、親和性が期待できるというお声を頂いています」と、市場からの反応に手応えを感じているようだ。
もちろん、ビジネスシャツから派生したカジュアルシャツやデイリーウエアへの展開も加速していく。田中さんは「コットンで革新性のある素材を出せるように、このビジネスシャツだけでなく、いろいろな素材と組み合わせながら価値を持つものを作り上げていくのがゴールだと思っています」と語ってくれた。
伝統的な製織技術を基盤に、現代のニーズに応える革新を続ける「クールメソッドAT」。今後はさらに多様なシーンで、人々の快適な暮らしを支える素材として広がっていきそうだ。

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