
愛着界隈
原宿から無人島まで、どこでも“編む”! 広がる“ピクニック界隈”の正体
今回の愛着界隈は、“編み物”を愛する人々のコミュニティへ。手編みをはじめるには、かぎ針か棒針を買い、お気に入りの毛糸を選ぶだけでいい。お金は1,000円もあれば十分だし、何より自分の手で作り出したアイテムは、いとおしくてたまらない「愛着」のある一品になるだろう。
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そして、編み物は家の中でなくても楽しめる。ニットの道具をバッグに入れておけば、通勤電車の中から旅先まで編み物をする場所になる。
このように毛糸を持ち歩いて家の外で編むことを、界隈では“モバ編み”(モバイル編み物)、なかでもちょっと遠出して編んでみるのが好きな人たちを“ピクニック界隈”と呼ぶ。手編みのファンたちはどこで、誰と編んでいるのか? ふたりの編み物ファンに取材した。
PROFILE
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Rachel Bedolla(レイチェル・ベドーラ)
アメリカ生まれ、2016年から日本に移住。デザインフェスタギャラリー原宿を中心に都内各地で編み会をオープン。ハンドメイドニットブランド「Veggie Crochet」オーナー。2019年頃に編み物と出会う。
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PROFILE
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yuka matsuo(ゆか まつお)
編み物との出会いは2024年。編み会「ami ami club」を主催。編み物ファンが集まるLINEオープンチャットのメンバーは580名(取材時)。ハンドメイドニットブランド「que_sera.sera.」オーナー。
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“編み会”って、何をするところ?
3月1日、立川の国営昭和記念公園にて“ピクニック編み会”が開かれた。10名ほどの参加者が芝生の上にレジャーシートを広げ、暖かい日差しの下でシュシュや編みぐるみなどの制作を楽しんでいた。主催のyuka matsuoさんは、編み物ワークショップをはじめて今回で67回目になる。

「『ami ami club』という編み会を2024年10月から続けています。初めて会う人でも、同じ趣味だと仲良くなれるんです。毛糸を持ち寄ったり、編み方を教えあったりしています」(yukaさん)
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参加費はドリンク・お菓子つきで1,000円で、参加者の募集は主にSNSだ。開催場所は都内のカフェやギャラリー、または今回のように屋外にピクニックに行くこともある。
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ところ変わって、“Kawaii”の聖地である原宿。「デザインフェスタギャラリー原宿」の一室では編み会「コラージュ編み物クラブ」が開催されていた。面白いのは、参加者の作品がギャラリー敷地内の木に飾られていることだ。主催はギャラリーのスタッフでもあるレイチェル・ベドーラさんだ。
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「みんなが編んだものをコラージュして飾ったこの木は、デザインフェスタギャラリーの一部として愛されています。編み物初心者の方も、国外からの参加者の方が編んだものもミックスされていますよ」(レイチェルさん)
とてもピースフルな光景だ。ニットにはひとり静かに楽しむイメージがあるが、「編み会」のようにたくさんの人の時間や想いがつながっていくカルチャーもある。
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そして編み物への入り口はとても身近なところにある。yukaさんとレイチェルさんのふたりが、いつ手編みに惹かれ、なぜ編み会をはじめたのか聞いてみよう。
毛糸と針を持って「モバ編み」は世界中へ
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レイチェルさんの編み物スタートは2020年。
「実は、精神的にとても落ち込んでいる時期でした。心配した友達が『辛いときは、なにか手を動かす趣味を持つといいよ』と教えてくれて、思い出したのが編み物でした。アメリカで過ごしていた中学生時代に、学校で基礎を習ったんです」(レイチェルさん)
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ジョギングや料理など、無心になれる趣味は沈んだ心をケアしてくれる。レイチェルさんの場合はそれが編み物だった。
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「自分が集中できる編み方が見つかると、いつまでも編めるんですよ(笑)。バッグに毛糸と針を入れて、どこにでも持っていきました」(レイチェルさん)
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通勤中のバスや電車、近所の公園......。“モバ編み”は、自然と生活の一部になっていった。
「旅行先の山の中で編んでみたこともあります。川の音や空の色に囲まれて、瞑想しているみたいな落ち着く感覚がありました。手編みはすごく人間らしい営みだと思います」とレイチェルさんは話す。
一方、yukaさんが編み物に出会ったのは、2024年のはじめだ。
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「ちょうど仕事を辞めてフリーランスになりたての頃でした。自分を見つめ直していたとき、Instagramで『LE SSERAFIM』のSAKURAさんがネコ耳の帽子を編んでいるポストを見かけたんです。
デザインがすごくかわいくて驚きました。毛糸もキラキラ・フワフワして、色鮮やかで......。これまでイメージしていた手芸とは全然違ったんです」(yukaさん)
2023年冬に編み物をはじめたというSAKURAさんは、いまの手芸ブームの火付け役のひとりだ。世界的なK-POPスター『LE SSERAFIM』のメンバーであり、自分の舞台衣装を編んでしまうほどの編み物ファンでもある。
SAKURAさんの登場によって、ささやかな大人の趣味であった手芸は一気にZ世代にまで広がり、ファッショントレンドになった。
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「SAKURAさんほど忙しい人が楽しんでいるなら、私にもやれるかもと思ったんです。ネットショップAmazonで激安の編み物キットを買って編みはじめたらハマってしまって、知り合いからオーダーを受けてアイテムを作ったり、マルシェにポップアップを出したりするようになりました」(yukaさん)
yukaさんに“モバ編み”で行った印象的な場所を聞いてみると、「横須賀の猿島という無人島です」と笑う。編み物好きの友人と訪れたという。

異なる時期と理由で編み物に惹かれたふたり。しかし、それぞれ“編み会”を立ち上げて現在に至るまでには共通の出来事があった。
編み物の“界隈”がつながった、最初のピクニック

2024年3月 、レイチェルさんは何気なく自分の日常をInstagramでポストしてみた。「私はバスや電車で編み物をします。外を眺めながら、とても楽しいです」──。映像はバスの車窓と、毛糸を編む指先だ。そこに次々とリプライがついた。
「片道1時間の大学への電車の時間を編み物に当てています」
「電車や車の中、子どもたちの習い事の待ち時間、病院の待ち時間などでやってます」
「私は父の病院の付き添いのときに編み物をしています。大きな病院は携帯の電波を遮断していて使えません。毛糸と編み棒があれば何時間でも待てます」
寄せられた“編み物界隈”からのコメントを読んで、レイチェルさんは「私みたいな人がこんなにたくさんいるんだ」と驚いたという。そのポストは、yukaさんのタイムラインにも届いていた。

ポストを通じてふたりはフォロワーになり、DMでやりとりをして、都内で会うことになった。

レイチェルさんは「日本に来てから、初めて一緒に編んだ人がyukaさんです」と振り返る。場所は新宿御苑だ。紫陽花がきれいに咲いている6月、レイチェルさんは紫陽花モチーフのトップスを編み、それを着て出かけた。
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編み物をしながらおしゃべりをしたり、シャボン玉を吹いたりして過ごした。yukaさんはこの日に、“編み会”のアイディアを思いついたという。
「私にも何人か編み物好きの友達がいて、その子とレイチェルさんをつなぐイベントがしたいと思ったんです。会場を公園にすれば、お金をかけずに集まれます」
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2024年10月、新宿御苑の芝生に広げたレジャ―シートの上に集まった参加者は13人。同年代の人も、編み物がはじめての男性もいた。yukaさんは「初回からこんなに人が来てくれるなんて思いませんでした」と話す。
この日の集まりが、いまでは60回以上も続く「ami ami club」に成長していった。LINEオープンチャットのメンバーは500人以上、編み物以外のハンドメイド作家とコラボするほど活発だ。
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レイチェルさんもまた、ニットを通して人と人がつながる「コラージュ編み物クラブ」を立ち上げた。最近は、羊毛から毛糸を手で“紡ぐ”ワークショップを企画するなど、編むだけではないハンドメイドニットの深い楽しみを伝えようとしている。レイチェルさんとyukaさんの“編み会”はこれからどんなコミュニティに育っていくのだろうか……。
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ひとりの時間で楽しめる「編み物」という趣味が、毛糸を持ち出し、公園や旅先で編むという小さな行動を通して、界隈を生んだ。
流行の裏側にあるのは、離れた誰かが意外な形で出会い、コミュニティが自由に育っていく連鎖反応だ。ピクニック界隈は、その静かな証明なのかもしれない。
Text by GANTAN













