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【日本未上陸】“纏う彫刻”と呼ばれるバッグ:ロンドン発「Noirgaze(ノワールゲイズ)」の哲学

2025.09.26
「実用的であることは大前提。でも、それだけではない。“意味”のある美しさに触れたかったのです」
そう語るのは、バッグを中心としたアクセサリーブランド「Noirgaze(ノワールゲイズ)」の設立者、Vingi(ヴィンチ)だ。香港で育ち、ヨーロッパの名門校やファッションメゾンで経験を重ねた彼女は、感性と構築性、クラフトとコンセプトが交差する地点から、“纏う彫刻”とも言うべきバッグを生み出す。
「Noirgaze」は、時代に流されず、記憶に残るものを作りたいという純粋な思いから始まった。静かにラグジュアリーの定義を問い直すそのブランド哲学について、彼女の原体験やクラフトへの情熱を紐解いていく。

PROFILE

Vingi(ヴィンチ)

Noirgaze 設立者

“自己の美学”を形にするということ

混沌と色彩、スピードと静寂が交錯する都市、香港で育ったヴィンチ。彼女のファッションへの原体験は、80〜90年代の香港映画と、母が大切にしていたヴィンテージジュエリーにある。「真珠やバッグで遊びながら、自分だけのスタイルを探っていました」と回想するように、その出発点は極めて感覚的でパーソナルなものだった。
ファッションへの情熱を胸に、イギリスの名門セントラル・セント・マーチンズへ進学。その後、ヨーロッパの一流メゾンで研鑽を積むなかで、「創造性と実用性を両立させる」という視点を養っていく。
「何十回も徹夜し、限界まで追い込まれましたが、その経験が私の創造力と規律を鍛えてくれました」と彼女は語る。卒業後は、名だたるファッションハウスに籍を置き、「市場で通用するプロダクトを作る責任」と「部門を横断したコラボレーションの複雑さ」を肌で学んだ。
「自分のブランドを持つ」という目標が形になったのは、業界で8年のキャリアを積んだ後だった。経験を重ねたからこそ、「自身の価値観や哲学をプロダクトに落とし込めると確信できた」という。
設立当初はプレタポルテ(既製服)も視野に入れていたが、「時を超えて愛されるものを作りたい」という思いが強まり、現在のバッグを中心としたブランドという形に辿り着いた。
トレンドに迎合するのでもなく、いたずらに背を向けるのでもない。「Noirgaze」が目指すのは、個人の価値観と、時代を超える造形美が交わる場所なのだ。

彫刻のように、建築のように。形に込めた思想

「Noirgaze」のデザインには、ミッドセンチュリーの建築やモダニズム彫刻が通奏低音のように流れている。コンスタンティン・ブランクーシ、イサム・ノグチ、ヘンリー・ムーアといった20世紀を代表する芸術家たちからインスピレーションを受けたという。
「彼らの作品には、静けさの中に圧倒的な力が宿っています。それは、私がNoirgazeで表現したい美意識そのものです」
線と曲面、空間の余白、そして思わず触れたくなるような質感。それらを一つひとつ丁寧にすくい上げるように、彼女は“身に纏うアート”としてのバッグを形づくる。そのプロセスは、常に手を動かすことから始まる。
「まずドローイングから始め、試作しては壊し、また作る。その繰り返しです」
彼女にとってデザインとは、流動的で彫刻的な、まるで素材との対話のような行為なのだ。「実験的なフォルムであっても、最終的に“使える”ことが大前提」と語るように、実用性にも一切妥協しない。
「美しさだけで終わらせたくない。日常で機能してこそ、真に意味のあるプロダクトになるのです」
着想源がアートピースであっても、完成品はあくまで日常に根ざした道具として成立していなければならない。視覚的な美しさと実用性の完璧なバランスを探るなかで、「Noirgaze」は“静けさの中にある強さ”を使い手に届けている。

「時間」とともに育つプロダクト

「Noirgaze」の信条は、クラフトへの敬意と、作り手との継続的な関係性にも表れている。製造を託すのは、イタリアやスペインで家族経営を続ける熟練のアトリエだ。
15以上の工房を自らの足で訪ね歩き、ブランドの哲学に共鳴してくれるパートナーを探し当てた。「顔の見える関係性の中でしか、生まれないものがある」と彼女は語る。その信頼に基づいたものづくりが、プロダクトの背後にあるストーリーをより豊かにしている。彼らとの関係は、単なる製造委託ではなく「共に物語を紡ぐコラボレーション」なのだ。
「Noirgaze」が生み出すのは、消費されるファッションではなく、記憶として残るプロダクト。それは、時代に左右されない造形であると同時に、世代を超えて受け継がれる美意識をも体現する。今後はファッションの枠を超えたクリエイションにも挑戦したいと、ヴィンチは未来を見据える。
「美しいものは、“意味がある”と感じられた瞬間に、その真価を発揮します」
そう語る彼女の言葉には、ものづくりを通して、時間と記憶に働きかけるという静かな覚悟が滲んでいた。

Text by ELIE INOUE

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