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【日本未上陸】オスロ発バッグブランド「Cala Jade(カラ ジェイド)」が語る、時を重ねて育てるレザーの美学
レザーバッグに刻まれた傷は、単なる「欠陥」か、それとも尊ぶべき「日常の痕跡」か。 ノルウェー・オスロ発のブランド「Cala Jade(カラ ジェイド)」は、それを“時間の物語”という美しさとして捉える。
北欧の静謐な自然と建築美に息づく造形は、時間を味方につけ、革の表情一つひとつに記憶を刻んでいく──。今回は設立者のひとりであるティナ・セシリエ・スカーが、ブランド誕生の秘話からデザイン哲学、そして日本の美意識への愛について語ってくれた。
PROFILE
ティナ・セシリエ・スカー(Tina Cecilie Skaar)
Cala Jade 共同設立者・クリエイティブディレクター
光の少ない街で生まれた、ブランドの物語

オスロの冬は長く、日照時間は短い。けれども、その限られた光の中でこそ「Cala Jade」は産声を上げた。
物語の始まりは、デザインスクールの初日。地下鉄の車内でエリーセとティナが偶然出会った瞬間に遡る。そこから育まれた友情が、やがてひとつのブランドとして結実した。
2007年、共同設立者のエリーセ・クレイヴァ・ウグランドとティナによってオスロで誕生した「Cala Jade」。彼女たちが掲げるのは、手仕事の温もりと経年変化(エイジング)を讃えるデザイン哲学だ。使い手の人生とともに育ち、味わいを深めていくバッグやアクセサリーを、彼女たちは丁寧に生み出し続けている。
ものづくりへの想いは、2人が出会うずっと以前から、それぞれの内側で養われていたものだという。「子どもの頃から工芸作品に惹かれていました」と、ティナは穏やかに語り始める。
「素材の質感、手の感覚、そして“作る”という行為そのものに、魔法のような魅力を感じていたんです。学生時代はマクラメや織りなどの手仕事に夢中で、自然素材をどう生かすかを常に考えていました。そんな中でレザーという素材に出会ったとき、その柔軟さと耐久性、そして時間とともに変化していく表情に心を奪われたのです」

彼女が人生で初めて作ったのは、家族から譲り受けた古いレザーの断片をアップサイクルしたバッグだった。長い年月を経て柔らかくなった革には、手の跡や記憶が刻まれていたという。ティナはその革をカットし、編み、縫い合わせながら、素材が語る“時間の物語”に耳を澄ませた。
「バッグは単なる機能的な道具ではなく、人生をともにする相棒のような存在。使う人の体温を吸い込み、時間とともに表情を変えていく。それこそが、私たちが愛してやまないレザーの美しさなのです」
クラフトの温かさと、ミニマリズムの精度を織り込んで
工芸とレザーへの情熱を共有することで生まれた「Cala Jade」。そのブランド名の由来について尋ねると、彼女は「ある意味、偶然の産物なんです」と微笑んだ。「まるで子どもやペットに名付けるように、直感で見つけたものです。“Cala”は静けさや清らかさを意味し、“Jade”はロンドン旅行で見つけた翡翠(ひすい)のネックレスからとりました。2つの言葉を繋げたとき、穏やかでありながら個性的な響きが生まれたんです。タイムレスでありながら、どこか新鮮な息吹を感じさせる名前でした」
その響きはまさに、彼女たちのデザイン哲学そのものと言えるだろう。直感的かつ対照的な美が交わる場所に、「Cala Jade」独自の造形は現れる。使用するレザーは、イタリア、ポルトガル、スペインのサステナブルなタンナーから厳選。インドにあるレザー編み込み専門の工房で、熟練の職人たちが一つひとつ手仕事で仕上げている。

北欧の自然や建築、アートからインスピレーションを受けたデザインは、構築的でありながらどこか有機的な表情を見せ、直線と曲線の調和が特徴だ。こうした素材や技術へのこだわりは、デザイナーが自然の色や質感から受け取る感覚にも表れている。
「山や海辺で石を集めるのが好きなんです。自然が作り出す色やテクスチャーには、言葉では表現しきれない深みがあります。その静かな美しさが、私たちのデザインの中に息づいているのかもしれません」
彼女たちが何よりも大切にしているのは、“使うほどに育まれる美しさ”だ。「スカンジナビアの風景には、時間を受け入れる美しさがあります。白樺の樹皮、風に削られた石、長い冬の光。どれもが経年の中で完成されていくのです」
ブランドの代表作であるバッグ「Misu(ミス)」は、その哲学の結晶だ。スカンジナビアの伝統的な白樺細工から着想を得た手編みのデザインは、職人の手のリズムと呼吸を映し出す。

「手で編む作業には、特別な静けさがあります。集中と呼吸、そして時間の流れ。ひとつのバッグに、職人の人生そのものが宿るのです」
クラフトの温かさとミニマリズムの精度。その間にある心地よい緊張と調和こそが、「Cala Jade」の本質なのだ。
日本酒を飲みながら、アイディアを語り合う
「Cala Jade」の根底に流れるのは、“時間を味方につける”という思想だ。彼女たちにとってサステナビリティとは、トレンドや義務ではなく、美の選択に伴うものであり自らの哲学である。「長く愛されるものを作ること。それが、私たちにとってもっとも誠実なサステナビリティです」

耐久性のある素材を選び、必要以上に作らず、修理できることを大切にする。流行を追うのではなく、時間とともに成熟していくバッグを作る──ティナはそれを「スローな進化」と表現した。
その思想はやがて、遠く離れた日本の文化とも響き合った。「日本の美には、深く共鳴するものがあります。素材への敬意、手仕事への情熱、そして静けさに宿る美しさ。実は私たち、オスロの居酒屋で日本酒を飲みながら、コレクションのアイディアを語り合ったこともあるんですよ」
いつか家族とともに日本を旅し、地方の建築や工芸を肌で感じることがティナの夢だという。彼女にとって日本は、ものづくりの精神と詩的な静寂が共存する理想の場所。近い将来の日本市場への進出も視野に入れつつ、「焦らず、誠実に、時間をかけてブランドを育てていきたい」と瞳を輝かせる。
「私たちは、変わることと、変わらないことの間で成長してきました。経験や失敗から学びながら、ブランドの核となる精神、つまり素材への敬意と手仕事への愛を守り続けています」

インタビューの最後を、ティナはそう結んだ。革が手に馴染み、色が深まり、光を抱き込むように変化していくバッグ。その変化を欠点ではなく「詩」として讃えるところにこそ、「Cala Jade」が信じる“経年が生む美しさ”が生まれる。
静寂の中で呼吸するように生まれたバッグは、やがて持ち主の人生とともにひとつの風景を描く。手の温もりが刻まれたその記憶は、未来へと受け継がれ、また新たな物語を紡いでいくのだ。
Text by ELIE INOUE












