

Articles
ミュージアムTを超える表現力「NOT OEM」が生み出す、アーティスティックTシャツの現在地
バンドTシャツや映画Tシャツに続き、アートTシャツも人気を集める昨今、ミュージアムショップに並ぶアイテム以上にアーティスティックな表現を追求するブランドがある。それが、「NOT OEM(ノット オーイーエム)」だ。
このブランドを手がけているのは、それぞれが会社代表やフリーランスとして、アパレルのOEM[1]を生業としている4人のメンバーだ。デザイン、生産、セールス、ディレクションなどを分担し、チームとして活動しているが、その素性についてはあえて明かしていないという。
そんなNOT OEMのチームに、ブランドに込めた思いやものづくりの背景について話を聞いた。
ブランド誕生のきっかけとなった偶然の再会
ここからは、NOT OEMというブランドが誕生したきっかけについて、詳しく話を聞いていく。「2024年の秋頃、前から仕事で交流のあった方と偶然再会したことがきっかけでした。その方は現在アジア圏で『Pablo Ruiz Picasso(パブロ・ルイス・ピカソ)』[2]の版元よりアートブランドとして許諾されたインスパイアデザインを保有し、その権利・管理運営を任されていました。
また一緒にお仕事できたらいいですね、なんて流れからアパレル商品を企画することになりました。ピカソの絵のモチーフについては、ある程度アレンジしてもよいという約束も交わしており、「どうせやるならとことんこだわったモノづくりをしたい」、そんな想いからグラフィックを担当してくれるデザイナーや、Tシャツやスウェットシャツなどを一からオリジナルで製作してくれる生産担当者も集まりました。
こだわりのアイテムづくりを進めていくなかで、価格や納期に制限のある一般的なOEM思考では難しいと感じるようになり、ブランド名を『NOT OEM』としました。
少しカウンター的で、ある種否定にも聞こえるかもしれませんが、私たちはOEMで培われた生産スキルを持つ人材が集まっているからこそ、OEMへのリスペクトも強く持っています」
“ミュージアムTとは違う”NOT OEM流アート表現
ミュージアムショップで販売されているアイテムとは、明らかに異なるアプローチを感じる点が、NOT OEMの魅力だといえる。なかでも、パブロ・ピカソの作品というモチーフを、どのようにTシャツへと落とし込んでいるのかは非常に興味深いポイントだ。その表現方法や製作背景について、詳しく話を聞いていきたい。
「ピカソの作品(原画)を自由に使用することは、基本的にはできません。それでもピカソの世界観を広めていくために彼らは、インスパイアデザインというかたちで原画をモチーフにしたアート作品を保有しています。それらを知的財産としてライセンス提供してもらい、その素材を使用しています。
私たちが配色や構図などに手を加えたデザインについても、すべて事前に申請を行い、版元から正式な許可を得たものだけが製品化されています。
そして、ブランドの個性として大きく反映されているのは、メンバー4人それぞれのバックボーンです。過去にスケートボードをしていたり、アメリカに住んでいた経験があったりと、それぞれの人生や好きなものが少しずつ重なり合っています。
それらがアートと融合することで、NOT OEMならではの世界観が生まれているのではないでしょうか」

1980年代アメリカTシャツを再構築したオリジナルボディ
続いて、服づくりへのこだわりについても話を聞いていきたい。NOT OEMは、グラフィックを載せるベースとなるTシャツやスウェットシャツなど、いわゆる“ボディ”にも強いこだわりを持ち、すべてオリジナルで一から開発している。
「グラフィックは、ビンテージ調のもののほうが相性がいいと考えているので、すべて一から作っています。ただ、“ザ・古着”のようになりすぎてしまうというよりは、古着らしさの中に現代的な要素も取り入れ、大人がきちんと着られる雰囲気を大切にしています。
ボディを作る際には、特に黒の表現に苦労しました。何度もサンプルを作り直し、スミクロほど濃くならず、かといって抜けすぎない、絶妙な色味を出すのは非常に大変でした。
現在、古着市場に多く出回っているTシャツやスウェットは、1980~1990年代のものが中心だと思いますが、私たちはその時代の雰囲気こそがもっともかっこいいと感じています。
アメリカは乾燥機文化なので、反応染料で染めたコットンTシャツを日常的に洗濯・タンブラー乾燥することで、自然なフェードが生まれます。その風合いは、ピグメント(顔料)染による加工では再現しきれず、どうしても“ビンテージ風”になってしまいます。
そこで、最初から反応染によってフェード感のあるボディを作るというアプローチに取り組み始めました。古着調に寄せすぎると、生地が柔らかくなりすぎてしまうため、そこも意識しています。そのため、米綿(アメリカ産コットン)のしっかりとした素材を使用し、重厚感のある製品に仕上げることにも強いこだわりがあります。
さらに白の表現も難しく、あえてオフホワイトで生地を作り、そこからフェードさせていく方法を採用しました」


経年変化を前提にしたプリントへのこだわり
デザインやボディにここまでこだわっているからこそ、当然ながらプリントにも強いこだわりが込められている。NOT OEMでは、「どの手法を選べば、よりかっこよく仕上がるのか」という点を徹底的に突き詰めながら、一つひとつのアイテムを作り上げているという。「フェード感のあるボディに、発色の強い鮮やかなプリントを入れてしまうと、雰囲気が合わないと感じています。そのため、プリントにもあえてフェード感を持たせ、経年変化したような風合いのある表現を採用しています。
これは、プリント後にビンテージ加工を施しているのではなく、最初から着古したような雰囲気のプリントを施しているのが特徴です。この技法や調整には、かなりの難しさがありました。
総じていえるのは、単に着古した風合いを再現したいのではなく、その時代ならではの空気感や雰囲気を表現したいということです」

名作「Guernica」を再解釈したスウェットシャツ
ここからは、アイテムを順に紹介していく。はじめに取り上げるのは、NOT OEMが手がけた、ピカソの代表作「Guernica(ゲルニカ)」をモチーフにしたスウェットシャツだ。まずは、この一着から詳しく見ていこう。
「Guernicaは、1937年に発表された戦争をテーマにした作品です。その際、ピカソは『Art is not made to decorate rooms. It is an offensive weapon.(芸術作品は部屋を飾るためにつくられたのではない。敵から守るための攻撃的な武器なのだ)』という言葉を残しています。
Guernicaをモチーフにアイテムをデザインするにあたり、この思想を象徴する『ART IS WEAPON』という言葉は、ぜひ取り入れたいと考えました。
また、Guernicaの原画には色がありません。もともとアパレルに落とし込むことを前提とした作品ではないからです。今回はあえてそれをフルカラーのように表現している点にも注目していただきたいです」



ピカソとDora MaarをモチーフにしたTシャツ
続いて紹介するのは、ピカソがもっとも愛した存在として知られるドラ・マール(Dora Maar)を描いた作品をモチーフにしたTシャツだ。ここからは、この一着についても詳しく見ていこう。「ピカソはスーパープレイボーイとして知られていましたが、数多くの愛人の中でも、ドラ・マールという女性は、ピカソがもっとも愛した人物のひとりとして語り継がれています。背中には、2人の関係性を象徴するイニシャル『P/D』のグラフィックが入っています。
またこの絵には“キュビズム”といい、対象を幾何学的な形に分解し複数の視点から描くことを特徴とし画法が用いられているといわれている。
このキュビズムはピカソと同じ時代に活躍した画家で盟友のジョルジュ・ブラックとともに生み出された美術の革新的なスタイルとして言い伝えられている。
Tシャツのボディは6.5オンスほどのヘビーウェイトで、1980年代を感じさせるボックスシルエットに仕上げています」



セザンヌ作品を落とし込んだアートTシャツ
さらに、NOT OEMは、ピカソ以外のアーティストをモチーフにしたTシャツも展開している。そのひとりがポール・セザンヌ(Paul Cézanne)[3]だ。ここからは、彼の作品を落とし込んだアイテムについても見ていこう。
「ピカソとは時代が少し異なりますが、ポール・セザンヌはピカソが影響を受けた画家としても知られています。そんなポール・セザンヌはリンゴをモチーフにした作品を数多く残しており、そのリンゴもまた複数の視点から描かれておりキュビズム誕生の重要な前触れとなる画家といわれています。
プリントされているタイポグラフィにはそういった内容が書かれていて、フロントには『BRAKE THE CONCEPT(概念をぶち壊す)』というメッセージが刺繍されています」


NOT OEMは、大量生産を行わず、ブランドの活動や思想に共感してくれる人たちとともに、現在のスタンスを大切にしながら展開していきたいと考えているという。
先ほど紹介したポール・セザンヌのTシャツのように、既存のアートTシャツの概念を更新していく存在になっていく可能性も十分に感じられる。
この春には、取り扱うアーティストもさらに増えていく予定とのことで、今後の展開がますます楽しみなブランドだ。
[1]OEMは(Original Equipment Manufacturer)の略で、他社ブランド製品の委託を受けて製造すること、またはその受託メーカーのこと。日本語では「受託製造」にあたる。
[2]Pablo Ruiz Picasso(パブロ・ルイス・ピカソ/1881年-1973年)
スペイン・マラガ生まれ。フランスで制作活動を行った世界的な画家。
[3]Paul Cézanne(ポール・セザンヌ/1839年―1906年)
ポスト印象派といわれ、後のキュビズム(立体派)へとつながる新しい絵画の扉を開いたフランスの画家。
PROFILE
NOT OEM(ノット オーイーエム)
会社代表やフリーランスとしてファッション業界で活動する4人組で構成されたチームで、ブランド運営をしている。デザイン、生産、セールス、ディレクションなどそれぞれの分野の経験者が担当し、アイテムが展開されているが、それ以上の素性は明かされていない。

















.jpg?w=328&fm=webp)


.jpg?w=328&fm=webp)