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【日本未上陸】戦渦のキーウから発信するファッションの力:建築を服に変える、ウクライナ発「PODYH(ポディ)」

2025.03.05
ウクライナの建築遺産を称え、後世へ伝えていく——。キーウを拠点とする建築とファッションを融合させたウィメンズウエアブランド「PODYH(ポディ)」は、この崇高な使命の実現に向けて歩みを進めている。
設立者兼デザイナーのダリア・プラクシューク(Daria Plaksyuk)は、2020年に希望に満ちた思いで自身のブランドを立ち上げた。しかし、その翌々年に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、ブランドの活動停止を余儀なくされ、日常生活さえも脅かされる困難な状況に直面することとなった。
「激動の日々が転機となり、ブランドは変貌を遂げた」。そう語る彼女は、現在もキーウでコレクション制作に打ち込んでいる。ファッションを通して自国の文化遺産の保存と継承に全身全霊を捧げる彼女に、その想いと歩みを詳しく聞いた。

PROFILE

ダリア・プラクシューク(Daria Plaksyuk)

PODYH 設立者兼デザイナー
ウクライナ出身

建築物の延長線上で完成する「PODYH」の作品

ファッションと建築のデザイン哲学に共通項を見出し、建築物からインスピレーションを得るファッションデザイナーは多い。しかし、ウクライナ・キーウ発「PODYH」は、インスピレーションを得るだけでなく、建築を文化遺産と捉えてブランドの核とする。
「ウクライナの遺産である歴史的建築物の多くは、ロシアからの侵攻により現在はひどく荒廃しているか、破壊されています」と、ダリアはやや伏し目がちで話を始めた。
「建築物にはその時代を生きた複雑な歴史が反映されており、私たちを祖先と結びつける素晴らしい遺産です。この遺産を掘り下げていくと、ウクライナ国民の計り知れない文化的奥深さと多面的な才能を感じることができたのです。『PODYH』は単なるブランドではありません。人々を建築の世界に結びつけ、その文化的および芸術的価値を強調することが使命なのです」
過去に発表したコレクションは、ウクライナの特定の建築様式や歴史的背景を探究することによって生み出された。
たとえば、“ドランカ ケープ”は、侵入不可能な木の板で覆われた防衛前哨基地を再解釈したもの。
ドランカ ケープ
伝統的なウクライナの木製風車の形を反映させた“ヴィトリャク バッグ” や、ウクライナ語で“グロモヴィク”と呼ばれる、6枚の花びらを持つ花を彫刻した御守りから着想を得て、生地をカットアウトしてモチーフを描く。
ヴィトリャク バッグ
グロモヴィクをモチーフにしたトップス
ダリアは、クリエイションの過程において建築物のリサーチに多くの時間を費やすという。
「特定の建築物に魅力を感じたら、まずその建築様式、素材、そして配色について詳しく調べていきます。それらがなぜ選ばれたのか、その理由を探究することで、建築物を生み出した建築家や職人たちの想いに触れていくのです。
このプロセスは、コレクションの雰囲気を捉え、時代の精神を再現する上で重要な役割を果たします。建築職人たちの技術をファッションの言語に置き換え、その構成、形状、素材、色彩についてそれぞれの要素を取り入れながら、新しいコレクションを創り上げていきます」
ウクライナの代表的な建造物
「PODYH」の作品を特徴づけるのは、シャープなライン、多彩な質感、静かな優雅さ。ウクライナの建築物と洋服が見事に融合し、その延長線上に「PODYH」の作品が生まれる。カラーパレットは建築物の厳格さを引き立てつつも、落ち着いた色彩で仕上げることで、作品の記念碑的な性質を保っている。
「ファッションと建築を融合させることで、物語を伝え、会話を生むウエアラブルアートを目指しています」とダリアは語る。彼女の作品は全てウクライナで生産され、地元キーウの工房や職人との協働によって実現している。
少量生産による廃棄物の最小化や、余剰素材を活用したアップサイクルにも取り組み、高品質と持続可能性の両立を追求する姿勢は、ブランド設立以来の変わらぬ理念となっている。

ファッションと建築が交わるまでの道のり

ダリアとPODYHの服を着たモデル
ダリアの原点は、5歳の頃に祖母と過ごした縫製工場での思い出にある。「祖母は編み物と刺繍、裁縫を教えてくれました。その時すでに、自分の進むべき道を無意識のうちに理解していたように思います」と振り返る。
大学では建築を専攻し、卒業後はキーウのインテリアデザイン会社で経験を積んだ。仕事の疲れを癒やすために始めた趣味が、祖母から教わった編み物だった。家族や友人へのプレゼントとして編んだセーターが好評を博し、さらなる技術を求めてファッションスクールへと進学する。
「2020年にブランドを立ち上げましたが、何かが足りないと感じていました。同時に、建築からファッションへの転身が正しかったのかという迷いもありました」
しかし、新作バックパックの開発中、そのデザインがキーウの名建築“サルーテ ホテル”を彷彿とさせた瞬間に、全てが繋がった。
「建築かファッションか、どちらかを選ぶ必要はないと気づいたのです。この2つの情熱を融合させることこそが、私の進むべき道でした」
この気づきは、1960〜80年代のウクライナのモダニズム建築から着想を得た“キーウ モダニズム”コレクションへと結実する。
建築で培った構成力や歴史的知識は、「PODYH」の創造的基盤となり、独自の美学を形作っている。それは彼女にとって、点と点が線で結ばれ、新たな道が照らし出された瞬間だった。

戦渦で服づくりを続ける理由

欧州を中心にビジネスが発展し、ブランドの成長を感じ始めていたが、2022年2月に始まったロシアによる軍事侵攻によって、彼女の平穏な日常は奪われることとなった。
同年3月に発表予定だったコレクションをキャンセルした彼女は、「もう『PODYH』を再開させることはない」と、絶望していたという。長く暗い、出口の見えないトンネルの中を彷徨うかのような経験。そこから少しずつ這い上がり、前を向けるようになったのは、ウクライナの独自のアイデンティティを再認識したからだと話す。
「激動の日々を乗り越えていくなかで、ウクライナの歴史、私たちの祖先、そして彼らの苦悩を深く見つめ直すようになりました。そして数ヶ月後、私はウクライナの建築、その美しさ、そして文化的価値に焦点を当てたいという強い思いに駆られたのです。これが『PODYH』の転機となり、ファッションを通じてウクライナの建築遺産を称え、後世へと伝えていくことを心に誓いました」
多くの国民が難民として祖国を離れるなか、ダリアは迷いなくキーウに留まる決意を示した。
「ウクライナは、独自のアイデンティティ、豊かな歴史、多様な文化、そして素晴らしい自然景観を持つ国です。伝統的な価値観と現代の革新が共存し、戦争下にあっても、国民は自国の遺産に誇りを持ち、未来を信じています。
私は母国を愛しています。故郷であり、創造の源であるこの地に住み続け、自然、建築、文化を探求していきたいのです」
精力的に活動する彼女は、シーズンごとのコレクションに加え、建築彫刻からインスピレーションを得た木製のキャンドルホルダーなど、新たなオブジェラインも展開している。
「戦争という困難に直面していても、『PODYH』は先人から受け継いだ文化遺産を再解釈し、守り、称えることを決して止めません」。その言葉には、揺るぎない決意が込められていた。
今なお空襲警報が鳴り響くキーウの街で、彼女は今日もコレクション制作に尽力している。

Text by ELIE INOUE

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