JA/EN

AI検索

関連ハッシュタグ

Articles

ジュエリーは“小さな建築物”:コペンハーゲン発「RAGBAG(ラグバッグ)」が紡ぐ、新しい美のかたち

2025.11.19
相反するものをひとつに繋ぎ合わせることで、新しい美が生まれる──。その思想をジュエリーという小さな建築物に落とし込むのが、デンマーク・コペンハーゲン発のブランド「RAGBAG(ラグバッグ)」である。
幾何学的でありながらも柔らかさを宿し、金属の硬質さと天然石の有機的な輝きを調和させる。そんなコレクションを手にすれば、まるで対立する2つの世界が共鳴し合うかのような感覚に包まれるのだ。
「RAGBAG」のヘッド・オブ・デザイン、レベッカ・C・ニールセンに、その創造の哲学と背景、揺るぎない美学について聞いた。

PROFILE

レベッカ・C・ニールセン(Rebekka C. Nielsen)

RAGBAG デザイナー

5人のクリエイターによる「異なる要素の融合」

2020年、デンマーク・コペンハーゲンで創設されたジュエリーブランド「RAGBAG」。ファッション業界出身の5人のクリエイターが集まり、それぞれのバックグラウンドを生かして生まれたブランドは、その名が象徴するように“異なる要素の融合”を出発点としている。
伝統的な工芸技法と現代的な技術、そしてミニマリズムな北欧デザインを融合させ、構造物の中に柔らかさを宿し、伝統を重んじながら実験性のあるアプローチを施すといった相容れないコントラストを調和させることで、独自の美学を確立している。
ヘッド・オブ・デザインを務めるニールセンはこう語る。
「一見すると結びつかないような要素を組み合わせることで、強さと独自性を持つものが生まれる。私たちは多様性を受け入れつつも、常に明確なクリエイティブ・ヴィジョンに忠実でありたいのです」
彼女のデザインは幾何学的かつ建築的な美学に貫かれている。その背景には、アートや建築、そしてミニマルな視覚言語から得た着想がある。
主に自然を題材にした抽象的表現で知られるGeorgia O'Keeffe(ジョージア・オキーフ)、彫刻的フォルムを追求したBarbara Hepworth(バーバラ・ヘップワース)、静謐なグリッド作品で知られるAgnes Martin(アグネス・マーティン)、そして色彩理論の探求で名高いJosef Albers(ヨーゼフ・アルバース)といったアーティストの存在は大きいという。
「彼らは抽象を通じて、形や反復、そして感情の共鳴を探究しました。私にとって幾何学は、『動き』『二元性』『バランス』を表現する枠組みでもあります」
その枠組みを素材に落とし込むとき、スターリングシルバー(シルバー925)や18Kゴールドプレーティングといった耐久性と美しさを備えた金属が選ばれ、そこにブラックオニキスやレッドタイガーアイといった天然石、淡水パールなどが添えられる。
「天然石は見た目の美しさだけではなく、触感や象徴的なエネルギーを持っています。素材の選択は直感的でありながら、とても深く考え抜かれたものなのです」
彼女が率いるデザインチームによって描かれたスケッチは、CAD設計やプロトタイプの開発を経て、熟練の職人たちが石留めや研磨、最終的な組み立てを担う。ニールセンは「最終工程に宿る手仕事が、ジュエリーに微細な揺らぎと生命を吹き込む」と語る。その仕上げに込められる職人の感覚こそ、「RAGBAG」が纏う温度の源泉である。

身につける人の内面を映し出すデザイン

コレクションの名前にもブランドの思想が映し出される。たとえば“Emberly”はレッドタイガーアイの炎のような色合いと大地のエネルギーから生まれたもので、「静かな強さと内なる力」を象徴する。
一方、“Dualism”はブラックオニキスと淡水パールによる対話を通じて、光と闇、柔と剛といった二元性を形にしている。
その根底には常に「身につける人にどんな感覚をもたらすか」という問いがある。「ジュエリーを通じて人が力を感じつつ、静かに自己表現できるように」。その作品は、感情を代弁し、身につける人の内奥に眠る明晰さや好奇心を呼び覚ます小さな建築物のようである。
同時に、「RAGBAG」はサステナビリティを不可欠の要素として掲げる。責任ある原料調達と高水準のクラフトマンシップを軸に、過剰生産を避ける小規模コレクションを展開。製品ポーチにはリサイクル素材を使用し、環境配慮を徹底している。
「サステナビリティとは感情的な持続性でもある」とニールセンは語る。ジュエリーを一時的な流行ではなく、世代を超えて受け継がれる存在とする、その思想がブランドを支えている。

時を超えるジュエリー、その未来へ

ブランドが従来のシーズン制をメイン手法としていないことも特徴のひとつである。
「春夏や秋冬といった枠組みを意識はしますが、流行には左右されません。私たちはモダンであること、そして長く愛されることを重視しています」
季節ごとの発表に加え、小規模なカプセルコレクションを一年を通して展開する柔軟なスタイルは、創造性と一貫性を両立させている。ジュエリーはカレンダーやトレンドに縛られるものではなく、「直感的に身につけ、大切にコレクションしていくもの」であるという彼女の哲学がそこにある。
2020年に創設されて以来、有機的に成長を遂げてきた「RAGBAG」。未来に向け、ニールセンが描くのは、素材と建築的構造を融合させ、ジュエリーという存在そのものの可能性を拡張するヴィジョンである。
「石と金属の関係を、より建築的に探求していきたい」と語る彼女は、ブランドの規模拡大とクリエイションの親密さを両立させる挑戦にも意欲的である。
ファッションやアート、インテリアといった異分野とのコラボレーションを通じ、「RAGBAG」はコントラストの美学をさらに深め、身につける人々の心に、静かで鮮烈な余韻を長く刻み続けるだろう──小さな建築物のように、時を超えて存在するジュエリーとして。

Text by ELIE INOUE

Tags

この記事はいかがでしたか?

シェアリンクをコピーしました

Related Articles

Related Database