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カリモク家具がコペンハーゲンで仕掛けた2つの展示
カリモク家具が2026年6月、デンマーク・コペンハーゲンで開催された「3daysofdesign」にて、建築家との協業ブランド「Karimoku Case」と針葉樹を中心とした国産木材を活用するブランド「MAS」を異なる会場で同時出展した。
家具を単体で見せるのではなく、音響機器や他分野の工芸ブランドと空間を共にする展示手法は、なぜこの北欧の地で選ばれたのか。
同社事業開発部でPRを担当する木許良咲氏と、MASのブランドマネージャーを務める芳賀鞠佳氏に話を聞き、木工家具を通じた新しい空間づくりのアプローチについて伺った。

音と家具が溶け合う「Karimoku Case」の空間
コペンハーゲンのMøntergade 19に位置する、オーディオブランド「Dynaudio」の欧州初となる常設フラッグシップストア。ここがKarimoku Caseの展示会場として選ばれた。2019年にスタートしたKarimoku Caseは、デンマークのデザインスタジオNorm Architectsをデザインディレクターに、そして建築家の芦沢啓治氏、Norman Foster氏をデザイナーに迎え、「空間から考える家具」をテーマに掲げているカリモク家具のブランドの一つだ。今回は実際の商業店舗という空間の中で、音と素材がいかに呼応するかに焦点が定められた。会場は3つのフロアからなる没入感のある空間体験として設計され、中田由美氏によるスタイリングが施されていた。空間の中心には、カリモク家具の職人が精緻な手仕事で木製パーツを製作した、Dynaudioの高性能サウンドシステム「Opus One」が鎮座し、スモークドオーク仕上げの階段が各フロアを繋いでいる。
木許氏は、空間づくりにおいて視覚と聴覚の境界をなくす工夫について次のように語る。
「壁面の大きなパネルは、額装されたアートピースでありながら、ファブリックにKvadrat社のウールを使用することで吸音効果も兼ね備えています」
音響を最適化するための機能的な吸音パネルでさえも、空間の静謐な美しさを損なわない意匠として壁面に組み込まれている。来場者は、大スクリーンを備えたシネマティックルームなどで、耳だけでなく全身で音を味わう体験へと誘われていた。
では、こうした徹底した空間構築は、実際に訪れた人々にどのような感情を引き起こしたのだろうか。

視覚と触覚に訴えかける家具への反応
Karimoku Caseの展示においてこれまでと一線を画しているのは、期間限定の特設会場ではなく、そのまま常設店舗として機能する場所で展示を開催した点だ。この試みは、家具を目的に来た人々だけでなく、Dynaudioの音響機器に関心を持つ層にも新鮮な驚きを与えていた。オーディオ機器の無機質な印象を、木という素材の温もりが中和し、静謐なデザインが交差することで、予期せぬ化学反応が起きていたのだ。現地での来場者の様子について、木許氏はこう振り返る。
「音を目的に聞きに来てくださった方が、Dynaudioさんのスピーカーとカリモク家具の木の表情を見て、『これはすごい』と驚かれていました。家具に触れながらずっと座って聴いていたくなるような、音の良さはもちろんのこと、視覚的、触覚的にも落ち着ける空間だという感想をいただきました」
家具が単なる生活の道具ではなく、音を体験するための時間を豊かにし、空間の質を高める装置として機能していたことが窺える。
一方、コペンハーゲンのNordhavn地区に位置するDampfærgevej 2では、カリモク家具のもう一つの顔である「MAS」が、まったく異なるアプローチで木材の可能性を提示していた。

国産材を活用する「MAS」の哲学
MASは、日本の森林面積の多くを占める針葉樹を中心に、国産材を積極的に活用するブランドだ。デザインディレクターに熊野亘氏を迎えて開発が進められた。OEO Studioが会場デザインとキュレーションを手がけた合同展示『Japanmade Vol.1』の一角で、MASはヒノキの美しさを前面に押し出したプロダクトを展開した。戦後の復興需要で植林され、現在伐採期を迎えている日本の針葉樹は、輸入材との競合などの理由から十分に活用されていない。しかもヒノキは素材が柔らかく傷がつきやすいため、高い強度が求められる家具には不向きとされてきた。オークなどの広葉樹が家具材としては主流となるなかで、MASはあえてその柔らかさや色合い、手触りといったヒノキの特性に着目し、カリモク家具の高度な技術によって課題を克服している。
MASのブランドマネージャーを務める芳賀氏は、ブランドの根底にある木材への向き合い方をこう説明する。
「カリモク家具は、木にまつわることには常に誠実に向き合っていきたいという思いがあります。人間の都合で特定の木だけを使って産業にしていては、森林との持続的な共生関係を維持することは難しいと考えています。だからこそ、使われていない木も取りこぼさずに、形にしてあげられるような会社になりたいのです」
酒器や秤の「枡」と「マスプロダクション」に由来するブランド名が示す通り、この言葉からは木材の特性をありのままに受け入れ、量産型のプロダクトにすることで素材の価値を高め、林業の持続可能性に寄与しようとする強い意志が読み取れる。
では、このヒノキという素材の持つ繊細な魅力は、展示を通じてどのように表現されたのだろうか。

素材の心地よさと北欧の共鳴
MASの展示空間には、熊野氏が日本の座布団から着想を得てデザインした「WK Sofa 01」や、藤城成貴氏によるヒノキのフレームを用いた「SF Basket 01」が並んだ。さらに、Daniel Rybakkenによる照明「DR Light 01 Series」の光がヒノキの木肌を柔らかく照らし出し、Naowashiの和紙を用いた照明やsheepのキャンドルといった他ブランドのアイテムと共鳴することで、「素材に宿る知性」というテーマが空間全体で体現されていた。芳賀氏は、北欧の来場者がヒノキの家具に触れた際の反応に、確かな手応えを感じたという。
「ぜひ触ってみていただきたいです。今までの家具にはないような柔らかい触り心地や、人なじみのいい優しい形といったところにアプローチしています。昔の日本人は、近くに生えている木をそのままものづくりに取り入れて暮らしていました。その本質的な心地よさを、現代に提供したいと思っています」
サステナビリティや森林環境への配慮に対して高いリテラシーを持つ北欧の人々は、MASが発信する国産材活用のストーリーを瞬時に理解し、深い共感を示していた。
木許氏と芳賀氏が語ったように、Karimoku CaseとMASの2つの展示は、それぞれ異なるアプローチでありながら、日本のものづくりが持つ豊かな表現力を北欧の地で力強く証明することとなった。
カリモク家具が「3daysofdesign」に持ち込んだのは、完成された家具という「モノ」ではなく、空間と素材が織りなす「体験」だった。Dynaudioの店舗に溶け込み、音と静寂を形にしたKarimoku Caseと、日本の森林課題に向き合い、国産材の温もりを提示したMAS。この2つのブランドはアプローチこそ違えど、木と暮らしの豊かな関係性を築くという同社の揺るぎない信念を共有している。国境や分野を越えた協業を通じて、家具が日常にどのような心地よさをもたらすことができるのか。カリモク家具の探求は、これからも新しい景色を描き出し続ける。
PROFILE
木許 良咲(きもと らさ)
カリモク家具 事業開発本部 プロモーション課。SNSでの発信やPR業務を担当。
PROFILE
芳賀 鞠佳(はが まりか)
カリモク家具 事業開発本部 ブランド推進課。国産材を活用したブランド「MAS」を担当する。













