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2021.06.28

香りを言語化するAIシステム「KAORIUM」

コロナ禍でお家時間が増えるなか、リラックスやリフレッシュの方法を求めている人も多いのではないだろうか。そういったなかで、生活の質を高めるために重要なもののひとつが「香り」だ。
ただ、自分の好きな香りを探すには、これまでは店頭でひとつひとつ、テスターを香ってみるしかなかった。そんな香り選びをAIを使ってナビゲーションするのが、様々な香りを「感性言葉」に変換すると同時に、言葉から香りを選び出すことができるシステム「KAORIUM(カオリウム)」だ。今回は、SCENTMATIC株式会社(以下、セントマティック)代表取締役・栗栖 俊治氏に「KAORIUM」の開発背景をめぐるお話を伺った。

「豊か」な暮らしのために

セントマティックの「香り」に着目したビジネスは、栗栖さんの「様々に登場するサービスや機能によって、人々の暮らしは本当に『豊か』になっているのか?」という違和感をきっかけに作り上げられたという。もともとはNTTドコモにて、サービス企画PMとして、様々な利便性や課題解決を提供する新サービス・新機能の企画・立ち上げに携わっていた経験から、このような疑問を抱いたという。
「『豊か』とは何かが多くある状態。『豊かな暮らし』とは何が多くある暮らしなのか?と考えてゆくと、『嬉しい』『楽しい』『気持ち良い』『おいしい』などポジティブに感じられる瞬間が多くあることであろう、と考えました。この前提に立つと、課題解決や利便性がもたらす価値とは、『つらい』『めんどくさい』『悲しい』など、ネガティブに感じる時間をなくす・減らす(マイナスをゼロにする)ことにあり、これだけではポジティブな時間を増やす(ゼロをプラスにする)ことにはつながりにくいものです。」
このような考えのもとで、課題解決や利便性ではなく、ポジティブな瞬間にあふれる暮らしを実現する価値を作りたい、と志したときに注目したのが「香り」だったそうだ。香りは私たちにとって、心地よい感覚を与えてくれるもの。実際に身の回りの生活には、フレグランスをはじめ、実に様々な香りに囲まれている。
一方で、「普段の生活において、これらの香りは見過ごされがちですし、また、香りあるものを買おう、選ぼうとしたときに、自分が「これだ!」と納得できる好きな香りを探すことや、そのような香りに出会うことが難しいものでもあります」という。そこで、AIが香りをわかりやすく言葉で表現し、自分の好きな香りに出会い、より楽しめる体験を提供するのがセントマティックの提供する「KAORIUM」だ。
「KAORIUM」はAIを活用し、様々な香りを「感性言葉」に変換すると同時に、言葉から香りを選び出すことができるシステム。現在は香りの成分分析はセンサーなどの機械を使ったものではなく、香りや日本酒のプロ(ソムリエ)と一般消費者が感じた言葉やその分布などのデータをもとにインターネットや文学の言語表現を学習したAIがより多くの一般消費者がわかりやすい・共感しやすい表現に変換しているとのことだ。
学習している言葉のデータソースは、インターネット上にある様々な言語表現や、文学の言語表現データとのことだ。ここに香りに対してプロや消費者が感じた言葉やその分布を融合させることで、「KAORIUM」はそれぞれの香りを言語で表現している。例えば、ある香りに対してプロや一般消費者が「すっきり」「涼しい」と感じていた場合には、「さわやか」「清潔感」「透明感」「みずみずしい」といった形だ。特にプロが出した言葉が一般消費者に伝わりにくい場合(ウッディー・バルサムなど)には、分かりやすい言葉に変換し、また「初夏新緑のせせらぎ」などの情景表現は、体験中にユーザーが選んだ言葉や香りを一言で表現する際にイメージしやすいよう活用しているという。
特に香りの感じ方は、嗅覚受容体が異なることによって人それぞれ異なり、誰かが「この香りはこういう感じ方である」と定義しても共感できる人が極めて限られてしまったり、宣伝のための表現として受け止められてしまうこともあるという。そのため、プロや一般消費者の香りの感じ方に基づき、香りを様々な言葉で表現するとともに、実店舗で一般消費者が「KAORIUM」を使って感じた言葉をフィードバックとして学習することで、より精度の高い・より多くの共感を得られる言葉の表現を出せるようにしているそうだ。
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#RetailTech
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