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2023.04.21

アプリ不要で没入感を実現する「バーチャル試着サービス」で、ECの課題を解決:株式会社Sally127

アパレル系ECにおいて、「購入してみたらイメージと違った」「サイズが思っていたものと違う」といった消費者の課題を解決するとともに、販売促進ツールとしても注目されている技術「バーチャル試着」。
各社がさまざまな取り組みをしているなかで、アプリ不要でECサイトに直接埋め込む形のバーチャル試着サービスを開発したのが、株式会社Sally127(サリーワンツーセブン)だ。
同社のサービスは、AIとARを活用することにより、スマホ上で没入感が高いバーチャル試着を体験することができる。ECサイトを持つ企業は、同サービスのコードを埋め込むだけで利用可能になるため、専用アプリやシステムを開発する必要がない。
そこで今回、この画期的なバーチャル試着サービスを開発した同社の代表取締役を務める鳥巣彩乃さんと、取締役CTOの小野沢敦さんに、サービスを開発することになったきっかけ、技術的な特徴、今後の展開などについて聞いた。

アパレル業界の課題解決を目指す

同社は、鳥巣さんが学生時代から抱いていた「アパレル業界の課題を解決して役に立ちたい」という想いから創業されたという。そのなかで、鳥巣さんはなぜバーチャル試着のサービスを提供したいと思ったのだろうか。
「バーチャル試着に取り組もうと思ったのは、『消費者目線』と『クライアント目線』の2つにあります。
消費者目線としては、ECサイトで世界中の洋服が試着できたら、ものすごく楽しい体験になるという想いがありました。
そしてクライアント目線としては、この十数年でたくさんのブランドが倒産したり、なくなったりしたなかで、もっとECで洋服が売れる状態を作れたら、アパレル業界が盛り上がるはずだという想いがありました。
また、私は大学生のときにアパレル志望で販売員のインターンをしていたのですが、当時の会社が試着をKPIに置いていたことで、試着してもらうかどうかで、購入率がまったく変わることを学びました。
売り上げにとって一番大事なポイントは試着してもらうこと。その時の経験が今につながっています」

アプリではなくウェブである理由

鳥巣さんは就活をした結果、アパレル業界にそのまま進むのではなく「アパレル業界の役に立つ事業を生み出す力をつけたい」と考えるようになり、進路を変更してリクルート社に入社。そこで小野沢さんと出会い、2人で会社員をしながら開発したのが今回のバーチャル試着サービスだ。
最大の特徴はアプリではなくウェブでARを追従させていることだが、なぜこの仕様での運用となったのだろうか。
「やはりクライアントや消費者にとって、使い勝手の悪いものは浸透しないと考えたことが一番です。リクルートの業務の中で学んだことのひとつです。
クライアントからすると、業務の中で新しいアプリを導入するとなると、システム開発などの費用やノウハウも必要でハードルが高い。また、消費者からしても、今までさまざまな試着アプリが生まれましたが、結局馴染んだものはありません。そのため、開発当初からアプリは一切考えていませんでした」
それでは、今回のバーチャル試着サービスの開発は、どのような点に苦労したのだろうか。外注せずに1人で開発を担当した小野沢さんは次のように語る。
「一番苦労したところは、WebでARを高い精度で体に追従させることです。
たとえば、僕たちのAR技術は、スカートをはいている状態で右足を上げると、足の動きに合わせてスカートが持ち上がります。そして、持ち上がったスカートと持ち上がっていないスカートの間の布が、きちんと伸びます。
こうした点に関して、日本で表現ができているのは僕たちだけなので、本当に試行錯誤してたどり着きました。
また、ARで表示された洋服は360度、体に追従するようになっており、後ろ姿を確認できることも特徴です。
今回の開発は、『ウェブ上で洋服を着たい』というイメージだけでスタートしており、プロダクトの詳細を定義せずに、プロトタイプを作っては壊しを繰り返した結果、リアルさと没入感を追求することになりました。開発期間は約4年で、会社員時代に経験した『要件定義をしっかり行ってからシステムを開発する』とは真逆の手法で取り組みました。自分たちが納得するような、芸術作品を作るのに近い感覚だったかもしれません」
バーチャル試着はエンターテインメントではなく、あくまでもリアルで没入感がなければいけないと考えた背景には、鳥巣さんの販売員としての経験も反映されている。
「なぜ没入感が大事かというと、洋服を店舗で買うお客さまは、試着室に入って『私かわいいじゃん!』『私って素敵じゃん!』と感じるような楽しくワクワクする体験がなければ購入につながらないと、販売員時代に実感したからです。
だからこそ、アバター型の試着や写真の合成ではなく、没入感のあるARである必要がありました」
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#Virtual Fitting
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