スケートボードの技術を大きく左右するスケートボードシューズ(以下、スケシュー)。日本人特有の甲高幅広の足型のスケーターは自分の足にフィットするスケシューを探すのに苦労していた。
そんな中、アシックスからスケートボードラインが立ち上がった。今回はアシックススケートボーディングプロチームでプロデューサーを務める岡田晋さんと、アシックススケートボーディングプロチームのライダーである榊原佳耶さんにアシックススケートボーディングのテクノロジーの高さと今後の展開を語ってもらった。
2020年にアシックススケートボードラインが立ち上がるまで、スケシュー業界は海外ブランドがイニシアティブを握っていた。そんな状況を岡田さんは客観的に見ていたという。
「当時はそれが常識。そういうもんだという認識でした。そんな中90年代後半に当時のレジェンドスケーター、江川芳文さんが『ミズノ』から共同開発でシグネチャーモデルを出したのが、日本メーカーが作るスケシューのはしりになっていました。
しかし、その流れも国内流通だけでした。そこから時を経て、今回アシックススケートボードラインが立ち上がり、世界を見据えて動いているのは、本当に新しいカタチだと思います」
アシックススケートボーディングプロチームでライダーとして活躍する榊原佳耶さんは、アシックスのイメージについてこう語ってくれた。
「アシックスのイメージは、申し訳ないですけど学校で使っていた“体育館履き”(笑)。だけど、実際にアシックスから話が来てシューズを履いてみたら、本当に日本人の足にフィットするんだな、というのが第一印象でした。
自分は足型が扁平足で幅広なので、海外ブランドのスケシューだと少し幅が狭くて、窮屈なのですが、アシックススケートボーディングのスケシューは、しっかり幅も合うしフィットするんですよ」
サイズ感や足型に関しては多くの日本人ランナーたちの足を支えてきたアシックスの実績や経験値が生きている。岡田さんもアシックスのスケシューに足を通したときの最初の感動をこう語る。
「これまでさまざまなスケシューを履いてきましたし、それぞれの良さも知っていますが、忖度抜き、お世辞抜きにして、アシックスのスケシューは断トツで履きやすかったです。自分が思っていた“履きやすさ”の基準を根底から覆されるぐらいの衝撃でした」
アシックススケートボーディングのスケシューは、かかと部にGELテクノロジーを内蔵し、クッション性を備えるなど、一般的なシューズにも搭載されるテクノロジーを使っているが、そのテクノロジーに関しても、岡田さんには思うところがあるという。
「アシックススケートボーディングのスケシューは、そこまでテクノロジー感を押し出していないけれど、しっかり考えて作られていることがすスゴイと思います。
グリッチョ(スケーターの間では足首の捻挫を“グリッチョ”と呼ぶ)が起こりにくいように、ソールの角度が平らではなく少し内側に傾いていたり、シュータンがズレないようにシューズ本体とゴムで繋がっていたり」
アシックススケートボーディングプロチームのライダー、榊原さんはソールの柔らかさが絶妙だと絶賛するとともに、新たな試みを始めているそう。
「これまでのスケシューは、最初にレンジでチンしてソールを柔らかくしてから履いていましたが、この『CLASSIC TEMPO PRO(クラシック テンポ プロ)』は最初からソールが柔らかいので、レンチンせずに履けるのがスゴイです。
最近はスケシューではない、アシックスのスニーカーで滑ることに挑戦しています。調子が良かったのがアシックスのフットサルシューズ。SNSなどで海外のライダーがランニングシューズで滑っていたのを見て、今度はそれも試してみたいと思いました」
実際に履いたライダーの意見は、貴重なデータとなる。榊原さんのような斬新な挑戦が、チームにフィードバックされ、次のシューズの開発ですぐに生かされるというスピード感も日本ブランドならではの良さだろう。
ソールのデザインに関して、榊原さんはこう語る。
「アシックススケートボーディングのスケシューは、アウトソールの溝がボードのグリップテープをしっかり噛むようにデザインされているのも驚きでした。スケシューじゃないシューズを履いたときはほぼグリップを感じられず、技をトライする時にすっぽ抜けてしまうのですが、アシックススケートボーディングのスケシューはしっかりグリップを感じられます」
岡田さんは続ける。
「スポーツブランドなので、とにかく“怪我をしないように”という部分が第一にあります。だからこそ、スケーターの敵である“グリッチョ”が起こらないような細かい工夫が施されているんです」
履く人のことを考えて、細部のデザインにまでこだわる。これこそがアシックススケートボーディングならではのモノづくりの矜持といえるだろう。
今回の撮影で、二人が履いていたのは2月9日に発売となったアシックススケートボーディングの新モデル「VIC NBD」だ。岡田さんはニューモデルのシューズに関してこう語る。
「アッパーは内側がメッシュで、外側がスウェードになっています。アシックスのアーカイブにあった既存のアウトソールをスケシューに取り入れて、スケートボード用に改良したところが特徴ですが、履き心地の良さは、言わずもがな抜群です」
榊原さんもこう続ける。
「初見では少し厚底かなと思いましたが、実際に履いたらまったく気にならない履き心地。不思議な感覚なのですが、履くとすぐに足に馴染むのがアシックスの凄さだと思います。これは履いた人にしかわからない」
アッパーからソールまでこだわり満載のニューモデルは、海外でも評判のようだ。岡田さんによると、アシックスSBのグローバル展開が今年の6月から始まるという。それに向け新たなモデルも登場する予定とか。
「アメリカから始まって、順次ヨーロッパへという流れになると思いますが、アメリカでの反応は好評のようです。アメリカ人は“体育館履き”といった偏見がない分、『ジャパンクオリティ』『アシックス、イケてる』という好意的な目で見てくれるので、もっとシューズをカッコよく見せるべく、(榊原)佳耶たちと撮影を頑張っていきたいと思います」
榊原さんもその意気込みを語る。
「今までは日本人が履いているアシックススケートボーディングのスケシューしか見たことがなかったので、海外のスケーターが履いたそのスケシューを見て“まったく別物だな”と思いました。
スケーターのマインドとして、自分たちが新しいと思うブランドやスタイルを見つけだして、シーンに浸透させていくことが新しいしカッコいいと思うのでそれは続けていきたいです。また、ゆくゆくは自分でスケシューをデザインすることにも挑戦していきたいですね」
スケートボードシーンの黎明期から活躍してきた、岡田晋が紡ぐ物語は、アシックスというジャパンブランドを巻き込んで、次世代へと受け継がれていく。そのバトンを受け取った榊原伽耶といった新世代のライダーたちが、その価値観やジャパンクオリティを日本から世界へと発信していく。
スケートボードシーンの未来を見据えた、アシックススケートボーディングの活動にこれからも注目していきたい。
アシックススケートボーディングプロチーム
プロデューサー
日本人として初めてアメリカのスケートボードカンパニーにオフィシャルにフックアップされ世界デビューを果たしたプロスケートボーダー。日本と世界とのレベルを縮め、日本スケートボードシーンの進化と構築に貢献したパイオニア的存在。現在はアシックスSBプロチームのプロデューサーとして、ライダーの契約やチームの撮影など精力的に活動中。コラム執筆などもふくめ、多岐にわたりスケートボードの普及活動に尽力している。
アシックススケートボーディングプロチーム
ライダー
2001年生まれ。新横浜ローカルを中心に結成されたスケートボードチームNewsideの一員で、海外ブランドからもサポートを受けていたほどの実力派。東京オリンピックの閉会式では、スケートボードのパフォーマンスを披露するなど。現在はアシックスSBプロチームのライダーとして活動しながら、俳優としても活動するなど、活躍の場を広げている。
撮影協力:Pretty Solid
神奈川県横浜市港北区新羽町180-1
https://www.prettysolidskateschool.com/
Photo by Hiroyuki “Lily” Suzuki(STUDIO LOG)
Text by Yasuyuki Ushijima(NO-TECH)