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2022.09.30

「いけないのファッション展」は問いかけるーーどこがいけないのか、本当にいけないのか

ファッションの歴史を振り返ると、その当時は好ましいファッションとして流行したが、価値観の変化や新たな知識や技術の更新によって「環境に悪い」「差別的である」「健康被害がある」など、様々な理由から「身につけるべきではない」とされたものが多数存在する。
そうした、現代の価値観では忌避されがちなファッションに関する素材から資料までを集めた展示で、注目を集めているのがアクセサリーミュージアムで開催中の「いけないのファッション展」だ。
同展は、「毒で光るガラス、人型のアクセサリー、生き物たちの毛皮。みんなみんな文化的でオシャレだった。」というフライヤーのメッセージに象徴されるように、現代的な視点で「いけないのファッション」を単に否定するのではなく、来場者自身に考えてもらうことを促す展示となっている。
今回、同展を担当した同館の学芸員・北村理沙子さんに、企画の成り立ちから展示に込めた想いまで聞いた。
今回、「いけないのファッション展」を開催することになった経緯について教えてください。
当館は、常設展や企画展を行うとともに、修理工房で「コスチュームジュエリー」の修理やリメイクをお受けしています。その際、現代では使えない素材が含まれているケースがあるんですね。
たとえば、素材の入手自体が難しくなったものや、現在採取できないもの、なかには鉛のように体に影響があると考えられるものまであります。その場合は、今後も使えるように素材の変更などをご提案しています。
こうしたものがお客様から持ち込まれるたび、当館館長と私たちスタッフの間で「この素材は今はもう使えないのよ、最近の若い子は知らないわよね」「本当ですか、初めて聞きました」といった会話が積み重なっていきました。
そうしたなか、「それならば、若い世代に向けて、現代では使えなくなったものをテーマに企画展をしましょう」という館長の鶴の一声で、企画がスタートしました。
最初は、展示に関して当館所蔵の象牙などの素材を中心に検討を始めました。でも、素材だけではインパクトが弱いと感じたんです。また、「この素材は今は使えません」「ダメなものです」と説明する展示は簡単ですが、そういう単純な見せ方をしたくありませんでした。
そこで思い出したのが、ヴィクトリア&アルバート(V&A)博物館の「Fashioned from Nature」展でした。ドレスの横に使われた素材である蚕や染料の草花、動物の剥製などを展示し、人々の意識を喚起し、ファッションと自然を結びつけるにはどうするべきかを問いかける展示を行ったそうです。
また、コスチュームジュエリーを常設展示し、修理工房を持つ当館としては、ファッションに関する企画展をする以上、来場者の方々に対して「ファッションの入り口になりたい」「デザインの力にじかに触れてほしい」と考えました。
たとえば、リアルファーに関して単に素材として並べておらず、スタイリストがコーディネートした形での展示となっているのが印象的です。
私は世代的に、リアルファーについて「カッコいいものである」という認識はありませんでしたし、周囲でも「悪いもの」とみなす人は多いと思います。
それに対して館長は、「今の時代に良いとか悪いとか色んな目で見られる素材であっても、まずは知ること、その上で選択することが大事である」という想いがありました。
そこで私も今回の企画展において、現代の観点では一般的に「悪いもの」であっても、その時代のファッションであり、生活の中に確かに存在しており、愛されていたことだってあるのだ、という視点で展示をしたいと思いました。
また、今回の企画展スタイリストである高橋紀子さんと、どんな見せかたをするか相談した際、当館の役割について「来館した人に対して、おしゃれをしてみたいという気持ちにさせることが一番ではないか」とおっしゃっていて、確かにその通りだと思ったんです。そこで今回はファーやレザーを高橋さんにカッコよくコーディネートしていただき展示しました。
あえて詳細な説明はしていませんが、一つひとつ30年代イメージ、90年代イメージなど、当時のファッションとしてお見せしています。
リアルファーとフェイクファーのコーディネート
リアルファーとフェイクファーのコーディネート
また、ここでは来場者の方々から人気の高い、フライヤーにも掲載しているアルマジロのバスケットも展示しています。「どこで作られたんですか?」と聞かれることが多いですね。
アルマジロにまつわるファッション産業は1900年頃から始まり、珍品やお土産品として人気となり世界中に流通しました。このバスケットもその際に制作されたものと考えられますが、明確ではありません。
アルマジロはブラジルなどでは普通に食されていますし、そうした地域の民芸品でもあり、ファッションとして展開されている場所もあるんです。
アペルト・アルマジロ・カンパニー(テキサス州)で製作されたと考えられるココノオビアルマジロのバスケット<br>20世紀前半(推定)本館蔵
アペルト・アルマジロ・カンパニー(テキサス州)で製作されたと考えられるココノオビアルマジロのバスケット
20世紀前半(推定)本館蔵
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