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2023.05.16

京都の老舗下着メーカーが、トランス女性のお悩みに対応する下着を販売開始。「Alper®/オパール」立ち上げのきっかけとは?

女性用下着やファンデーションの製造・卸売・販売を展開する、株式会社エレーヌ。1966年に設立した老舗下着メーカーが、インナーウェアブランド「Alper®/オパール」を起ち上げ、トランス女性の悩み解決を目指すブラジャーとショーツの販売をスタートした。今後はトランス男性向けのハーフトップやインナーなどの開発も予定している。

なぜ今回トランスジェンダーの方々もターゲットに含めたブランドを立ち上げたのだろうか?株式会社エレーヌについて、プロジェクト立ち上げの経緯やコンセプト、商品の特徴や今後について、Alper®/オパールブランド担当の藤井さんにお伺いした。

PROFILE|プロフィール
藤井幹也(ふじいみきや)
藤井幹也(ふじいみきや)

株式会社エレーヌ 代表取締役専務
1978年生まれ。大学卒業後、システムエンジニア業を得て入社。
入社後は生産管理、企画、営業を担当。2018年に現職に。

トランス女性の話や悩みを聞き、プロジェクト立ち上げを決意

最初に、株式会社エレーヌで展開している事業やサービスや特徴を伺った。

「私たちは京都で婦人用下着の製造・卸売・販売を生業として、50年目を迎える企業です。Make The Beauty “Fits You”を理念に、お客様のお悩み・問題に寄り添いながら改善に真摯に向き合うメーカーとして、共に成長するブランドを目指しております。

弊社では企画からデザイン・パターン・生産・出荷まで一貫して行っております。下着という直接お客様の肌に触れるものだからこそ、ご安心・ご満足して着けていただけるような商品開発や製品づくりを心がけております」

今回なぜ「Alper®」を起ち上げることになったのだろうか。きっかけやコンセプトについて伺った。

「Alper®のコンセプトは『なりたい自分になるために、制限なんていらない』です。見る角度によって色を変える『オパール』の石のように、『もっと自由に輝ける』『すべての人にオパールのような輝きを』というメッセージを込めたブランド名を付けました。

見せたい自分・なりたい自分に近づくことを目指した、トランス女性やトランス男性を含むインクルーシブ(包括的)なインナーウェアブランドです。私たちは見せたい自分、なりたい自分になれるためのアイテムとしてブラジャー等の開発に取り組むなかで、多くの方のコンプレックスに向き合ってきました。

どんな人にもコンプレックスがある、生きづらさを抱えていると考えていくなかでトランス女性のお悩みを知り、話をを聞いていくうちに『課題を解決しなければいけない』という考えに至りAlper®の立ち上げを決意しました」

「骨格が合わない」「カップの上辺が浮く」というお悩みに対応した下着を開発

Alper®の商品ラインナップにはどのようなものがあるのだろうか。

「2023年5月現在の時点では、トランス女性向けのブラジャーとショーツがあります。今後はトランス男性向けのハーフトップやインナーなどの展開を予定しております」

株式会社エレーヌのホームページには「開発段階でも当事者を始め多くの皆様にご協力を頂き、ご意見やお悩みをたくさん聞かせていただきました」と記載されている。開発にあたって、調査はどのように実施されたのだろうか?また、具体的にどんな声や悩みが挙がっていたのだろうか?

「開発にあたってはLGBTQ+のコミュニティへの参加や下着についての座談会などを開き、当事者のフィッティング(試着検証)や商品に対するご意見、ご感想などをお伺いしました。また下着のお悩みだけではなく、学校生活や職場での悩みもお伺いすることができました。

お悩みの中で特に多かったのは、ご自身に合う下着のサイズが分からず、自身の体型に合わないものを無理やり着用されているという現状がありました。下着の具体的なお悩みとしては、『骨格が合わない』『カップの上辺が浮いてしまい合わない』というものが多くありました」

ヒアリングで「骨格が合わない」などの悩みがあったとのことだが、そのようなお悩みを解消するために、Alper®を起ち上げるにあたってどのような課題があったのだろうか。商品化で意識的に工夫している点などはあるのだろうか。

「トランス女性にとって、既存の女性用ブラジャーは骨格に合わず着用が困難でした。また胸の膨らみが無い方はカップの上辺が浮いてしまい、隙間ができてしまいます。これらを改善するために胴回りの距離を考え、前中心(真ん中の部分)を広く設計し窮屈さを軽減しました。

骨格の厚みを考えブラジャーのストラップは長めに設定し、3枚接ぎポケットに取り外しができる細長いパッドを入れて、カップの厚みをご自身で調整できるようにしました。胸との隙間を極力なくすことで、フィット感をアップできるようになります。

カップの上辺が浮いてしまう問題については、上辺を2重にして厚めに設定することで体との隙間を改善し、フィット感をアップさせました。着用時の問題に向き合うことで、これらの構造は特許出願も行うことができました」

「ボディラインを美しく整える」役割を重視し、ユーザーからは「とてもフィットして普段使いに適していると感じた」という反響が

昨今ジェンダーレスなアイテムを販売するメーカーが増えてきている。他のブランドとの差別化はどのように図っているのだろうか。

「既存の品は胸の膨らみに沿わない、またはおさえるデザイン(装飾)を重視するものなど、着用時に窮屈さがある商品が多いように感じました。『Alper®/オパール』はブラジャー本来の目的であるボディラインを美しく整えるという役割を重視しております。

『Alper®/オパール』の開発した新しい構造は、バストが無い方でも胸の膨らみをブラジャーが担ってくれるものです。よって、違和感の無い自然な膨らみを作り出すことができます。少し胸の膨らみがある方でも、パッドによる調整が可能ですので過剰な盛り感が出ることはありません。さまざまな体型の方がおられ、さまざまなお悩みがあるなかで、下着を着用する視点からどのようにすれば問題や課題が解決できるのかを考え、商品企画・開発を行っております」

現在「Alper®/オパール」の商品はオンラインサイトで販売している。他のECサイトとは異なり「お悩みで探す」など、特徴のあるユーザーインターフェイスといえる。他にも工夫していることはあるのだろうか。

「下着や下着に関わるお悩みを解決することが私たちの存在意義だと思っております。それをEC上でも可能にできればと思い、このような見せ方になりました。お悩みの種類がまだまだ少なく、探しにくい問題点などもありますが、今後の改善も予定しております。下着にまつわるコラムなど商品以外の発信も行っており、楽しんでいただけるサイト作りを心掛けております」

「Alper®/オパール」はInstagramでも情報発信をしている。センシティブな内容を取り扱うこともあると思うが、情報発信において気をつけていることはあるのだろうか。

「Instagramを運営してはおりますが、正直に申しましてアプリ自体にあまり慣れておらず投稿もままならない状況でございます。慣れない中でもSNSを運営する理由は、我々の取り組みを少しでも知っていただき、当事者の方と接点を持つことができれば、お悩み解決に少しでも役立つのではと考えているからです。

内容については、私たちもさまざまな事柄に対して見解を深めているところです。人権問題を研究し、GID(性同一性障害)学会に所属されている大学講師の西田彩さんから文言監修についてご意見を頂戴しながら、発信をしております。」

実際に商品を手にした方からの感想や反響は、どのようなものがあるのだろうか。

「『とてもフィットして普段使いに適していると強く感じました』
『これからも購入していきたいものに出会えたと強く思っています』
『発売していただきありがとうございます』
『先日購入したブラジャーを着けてみて、気づいたことがありましたらメールさせていただきます。私のような意見が参考になれば幸いです』

などのご意見を多数頂戴いたしました。また、着用の感想やコメントも頂き、私たちだけではなく、当事者の方々と一緒に作り上げているような気持ちです。本当に励みになっております」

今後もさまざまな業種の人々と、社会課題に向けた取り組みを目指す

近年メディアでもジェンダーレスの課題について取り上げられることが増えてきた。株式会社エレーヌは、ジェンダーレスに対しての課題をどう感じているのだろうか?

「『下着』という視点からジェンダーレスについての想いやお悩み解決の一端を担うことができればと考えております。しかし、私たちだけでは情報量も少なく当事者の抱える課題に対して解決できる領域に限界を感じております。そこで同じような課題解決をされている企業様と共に取り組むことで、より社会課題の解決に近づくと考えております。さまざまな事業領域の企業様や団体様と共同した取り組みが重要ではないかと感じております」

今後挑戦していきたい領域はあるのだろうか?
「以前は乳がんの患者様向けのブラジャーを共同開発いたしました。ジェンダーレス、男性・女性に関係なく、多くの方々に満足いただける下着を開発・販売していくことが、さまざまな課題解決につながることだと信じております。また、上記でも述べさせていただきましたが、下着・衣料業界だけではなく、他業種の方々と社会課題に向けた取り組みができればと考えております」

「下着を通してより多くの方々との出会いを大事にしています。少しでも寄り添える存在になれるように、皆様からの下着に関するご意見やご希望を共有できればありがたく思います」

Text by Asami Tanaka

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