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2024.03.29

「生地」から覗くモードの舞台裏 最高峰のランウェイを支えるテキスタイルの表現と技術とは?【株式会社BVLAK】

世界は、今年もファッションにとってもっともエキサイティングな時期を乗り越えた。1月のパリ・メンズ。2月のNY、ロンドン、ミラノ。そして3月のパリ・ウィメンズ。2024AWコレクションのことだ。
ファッションウィークは半年先から1年後までの流行を支配する。たとえメゾンブランドを手に取らない人でも、街角やパーティで、映画やMVのワンシーンで、SNSの中で、このランウェイを行き交った服とメイクをさまざまな形で見かけることになる。少なくとも、6月頃にSSコレクションが始まるまでは。
ブランドの世界観と最高峰の品質を支えているのは、デザイナーと職人たち。しかしそれだけではない。彼らに選び抜かれた「素材」を提供している人々がいる。
その一社が「BVLAK(ブラック)」。国内/海外ブランドと「生地」を取引する日本のテキスタイル企業だ。2016年設立、社員数8名のベンチャーながら、そのオフィスの壁は世界のトップメゾンからのオーダーシートで埋めつくされている。本記事では代表の正面雄一郎氏に取材。知られざる「生地企画」の仕事からファッションウィークの裏側を覗いてみよう。
PROFILE|プロフィール
正面 雄一郎(しょうめん ゆういちろう)
正面 雄一郎(しょうめん ゆういちろう)

株式会社BVLAK 代表取締役
12歳~23歳までイギリスで過ごし、現地の大学で学位(B.A.)を取得し卒業。帰国後はプロミュージシャンとして活躍、31歳で音楽の世界からファッション業界へ転身。複数の老舗生地メーカーで高級生地の企画、製造、輸出販売に携わり、2016年にBVLAKを設立。欧州の高級ファッションブランドと直接取引を行い、デザイン、製造した素材が毎シーズン、パリ/ミラノコレクション等で使用されている。

「生地を企画する」とは?

BVLAKの業務内容について教えてください。
当社の主業は「テキスタイルデザイン」。カットソーなどのニット生地を中心に企画しています。
BVLAK代表・正面雄一郎氏
BVLAK代表・正面雄一郎氏
売上の約70%はフランス、イタリアのファッションブランドで、日本の丸編ニット工場・染色工場でカットソー素材を製造し輸出します。
「生地を企画する」という仕事は馴染みの薄いものです。「製造」とは異なるのですか。
「企画」と「製造」を兼ねている生地メーカーもありますが、私たちは工場を持っていません。生地を求めるブランドと工場の間に立ち、オリジナル生地を開発する役割です。
あらゆる創作物と同じように、生地づくりも最初はインスピレーションから始まります。「こんな生地はまだ世の中に存在しないのではないか」というアイディアを、工場が実際に製造できる設計に落とし込む作業が「企画」にあたります。
アイディア段階から仕様を設計するイメージでしょうか。服づくりの現場では、ブランドが直接工場に生地を発注していると思っていましたが。
直接発注するケースも多いですし、商社やエージェント会社が関わる場合もあります。たしかに海外大手のブランドと直接取引しているBVLAKはレアケースだと言えますね。しかしながら、私たちが多く関わっているファッションウィークを含むメゾンブランドのクリエイションは、きわめてハイレベルであり、前例がないものばかりです。「〇〇と××を何%ずつ混紡する」などの具体的な発注はまず来ません。そのため彼らの意図を翻訳するような仕事が必要になるのです。

超ハイレベル・超短納期のモードの現場

メゾンの服に使用される生地はどのように開発され、決定するのでしょうか。
主に2パターンあります。ブランドのオーダーを具現化する場合と、私たちのオリジナル生地が採用される場合です。
ブランドからオーダーをいただくケースでは、求められる強いイメージこそ固まっていても、生地の製造方法はまったく不明である場合が多い。デザイナーの私物の服や、何十年も着続けた古着の切れ端を渡され「これを再現してほしい」というオーダー。一枚の古い写真に写っているドレスの生地を要望されたこともありました。あるいは最新のコレクションのコンセプトだけで「どんな生地が合うと思う?」など。
こうした要望から、ブランドはどんな服を作ろうとしていて、その服を実現できる生地はどういったものなのか。そして、その生地はどうすれば工場で製造できるのかをブランドの世界観から解釈し、仕様を考えます。3つから4つの生地のサンプルを作り、提案して方針を決め、ブラッシュアップしていく繰り返しがショーの当日まで続きます。
きわめて抽象的です。
48時間でオリジナル生地を納品したこともありました。金曜日にフランスからオーダーが届き、工場に直行して昼までに編みたててもらい、染色工場に泊まり込みで染めの作業。そして土曜日にミラノへ発送。ショーやイベントの直前には、こうした短納期の進行になることも珍しくありません。
なぜ、このような超過密スケジュールに?
ブランドにとって「その生地が必要になったから」それだけです。もちろん製造業者にとっては「ドS」なクライアントです(笑)。けれども、モードはこうしたインスピレーションのぶつかり合いの中からしか生まれない、という側面がある。私はかつて、音楽の世界にいました。だから表現者として共感できるのかもしれません。
自分自身の感性を問われるような場面にこそ生地企画の醍醐味を感じます。困難なテーマをクリアするほど評価が高まり、より難しいテーマが来る。同時に安定性のある定番生地の注文ももらえます。一丸となって生地を開発してくれた工場に大きな案件を持って帰れる。当社にとって工場は家族以上の存在ですから。 
彼らの想いが生地に宿り、それらを販売できる仕事は我々にとってこのうえない喜びであり、光栄です。
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