Fashion Tech News symbol
Fashion Tech News logo
2023.11.17

リンパ浮腫に悩む人々を支える、新世代の医療用ストッキング:encyclo

2020年5月、ポーラ・オルビスグループのビューティー事業として株式会社encyclo(エンサイクロ)が誕生した。同社は、「すべての人の、美しくありたい想いを解放する。」というミッションを掲げている。
コロナ禍による生活様式の変化や健康への関心の高まりにより、在宅時間の増加や運動不足からくる「むくみ」の問題が2020年から増加傾向にある。特に、がん治療後の後遺症である「リンパ浮腫」のケア用品には、使用する人の視点が十分に反映されていないことに課題感を抱いた同社は、医療用のストッキングの開発・販売をスタートした。
今回、同社の取締役である齋藤さんに、この企業の背後にあるストーリーを伺った。
PROFILE|プロフィール
齋藤 明子(さいとう あきこ)
齋藤 明子(さいとう あきこ)

株式会社encyclo 共同創業者/取締役
東京生まれ。
自動車、建築、IT、マスコミなど、複数社を経験し、2003年に株式会社ポーラに入社。人事、IR、CSRでキャリアを積む。関連会社のマーケティング担当 取締役も経験。
2018年株式会社ポーラにて がん治療と就労の両立支援策などを盛り込んだ「がん共生プログラム」を立ち上げ、がん治療後のQOL向上に課題を見出す。

あきらめなくて良い選択肢を提供

まず、encycloが立ち上がった経緯について教えてください。
立ち上げメンバーである水田と私は異なる経緯から「がん治療後も自分らしく生きる」ことに関心を持っておりまして、社内のベンチャー制度に応募し、選考を経て事業化が承認されました。
私は、長らくポーラ・オルビスグループという美を提供する企業に在籍するなか、美とは何だろうか、と深く考えることが多かったのです。
年齢を重ねるにつれ、「美」の深淵と多様性に気づき、多くのメーカーが提供する美が画一的であり、多くの人が取り残されていることに気づきました。
特に、病気になった際のケア用品は、ケアや治療に重点が置かれ、使う人の生活環境や使いやすさ、好みや価値観にフィットするケア商材が不足しています。人生100年ともいわれる長い人生、何が起こるかわからないのに、美の文化や哲学が育っていないことに愕然としました。
誰もが人生のあらゆる段階で「こうありたい」という願いを持っているはずだと思い、それらの想いを形にし「アンメットビューティーニーズ」と名付け、これをミッションにencycloを立ち上げました。
(左から)encyclo立ち上げメンバーの水田さん、齋藤さん
(左から)encyclo立ち上げメンバーの水田さん、齋藤さん
最初のプロジェクトとして、なぜ脚のリンパ浮腫を抱える方々の課題に焦点を当てたのでしょうか?
水田自身が当事者であったことが大きな理由のひとつです。
がんという大きな病気を乗り越えたにも関わらず、リンパ浮腫という「生涯続く」「常に悪化のリスクがある」「ケアに手間がかかり負担が大きい」後遺症のせいで、気持ちや行動まで後ろ向きになってしまう経験を目の当たりにしたことが背景にあります。
ビューティーのもつ「人を内側からエンパワーする力」で、もう一度前を向くきっかけをつくりたいと思い、医療用弾性ストッキングの開発プロジェクトを立ち上げました。
医療用弾性ストッキングを開発するにあたり、高い機能性と美しさの両立について詳しくお話しいただけますか?
医療用弾性ストッキングは、リンパ浮腫患者にとって毎日、あるいは生涯、身近に使うものなのに、治療機能ばかりに重きが置かれ、見た目や使い心地は二の次になっていました。また、患者の自宅が近くに専門病院がなく、治療のためのストッキングを買うのもかなり負担がかかるという状況で、購買プロセスも患者視点ではかなったのです。
そんなストッキングを、もっと愛着を持って、楽しく、心地よく使えるものにしたいと考えました。
そのためにまずは、治療用の機能と品質を重視する一方で、使い心地や気持ちへの効果も重視する私たちの考えに共感してくれる製造メーカーを探しました。また、リンパ浮腫当事者の方へのインタビューや試作品モニターを重ね、患者が医療用弾性ストッキングに感じている不満や要望(アンメットビューティーニーズ)とは何なのか、数多くのインタビューと試作を重ねました。
その結果、圧迫効果と透明感を両立する糸の選定や、立ったり座ったりしても苦しくならない糸や編立、手術の傷跡にあたらないように縫い目をずらすなどの工夫を施した商品の開発に至りました。
この商品によって、生涯治らない後遺症のために「美しくありたい」という想いをあきらめてしまいがちな状況の方にも、あきらめなくて良い選択肢を提供できると考えています。
また、2023年からは、がん治療後などのリンパ浮腫だけでなく、広く女性が悩んでいるむくみにも対応するテーマに広げています。
リンパ浮腫患者向けの商品を開発する中で、体のしくみや医学的なリンパのケアについて学ぶにつれて、各種メディアで取り上げられているむくみのケアは、十分ではないことに気づきました。
同時に、リンパ浮腫患者以外からも、むくみに関するお悩みが届くようになりました。むくみは、リンパ浮腫のみならず、さまざまな原因で起こるものです。
私たちは、治療用品の開発で蓄積した本格的なケアを、リンパ浮腫患者以外の慢性的なむくみに悩んでいるような方にも取り入れやすい形で届けることで、多くの方がより快適で健康的な日々を送れるようになると考えています。
1 / 2 ページ
この記事をシェアする