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2023.05.26

ヨーロッパでは知らない人はいないアウトドアブランド「Jack Wolfskin(ジャック・ウルフスキン)」の「ジャーマンエンジニアリング」

サステナブル先進国であるヨーロッパに拠点を置き、常に高いレベルでサステナビリティに取り組むアウトドアブランド「Jack Wolfskin(ジャック・ウルフスキン)」。そのサステナブルな素材開発やブランドのルーツについて、キャロウェイゴルフ株式会社 ジャック・ウルフスキン マーケティングマネージャーの喜田慎さんにお話を伺った。

狼の遠吠えを聞いてひらめいたアイデア

「ブランドの始まりについてお話しすると、Jack Wolfskinは1981年にドイツで誕生しました。創業者のウルリッヒ・ダウズィン氏は、もともとバックパッカーで、カナダのユーコン川近くを旅していたときに熊に襲われて怪我をしてしまいました。周辺の集落で療養をしていた際に聞いた狼の遠吠えからインスピレーションを受け、Jack Wolfskinが創業されたという経緯があります。

ブランド名はそのとき得たアイデアのWolfskinと、彼自身Jack London(ジャック・ロンドン)という作家が好きなこともあり、そのJack+WolfskinでJack Wolfskinと名付けられたということです。

『Wolfskin』ということにこだわっているのには2つ理由があって、狼は過酷な環境下に順応する毛を持っています。私たちもいろいろな環境の中に対応できる高い機能性を持ったアウトドアブランドを作っていきたいということ。

また狼の生態を調べていくと、自分たちの住処を壊さないという習性があります。私たちもその習性に倣って、ものを作る以上は環境に配慮したサステナブルなものづくりをしようという思いが、ブランド名に込められています」

岩の頂上にいるのがJack Wolfskin創業者のウルリッヒ・ダウズィン氏
岩の頂上にいるのがJack Wolfskin創業者のウルリッヒ・ダウズィン氏

ジャーマンエンジニアリングと3つのカテゴリー

Jack Wolfskinを理解するうえで「ジャーマンエンジニアリング」というキーワードと3つのカテゴリーについて知っておく必要がある。ここからはそれについて説明をしてもらおう。

「ジャーマンエンジニアリングとは、ドイツで広く使われている、ものづくりにおける技術力を表している言葉です。機能性とサステナビリティの2つの要素を実現するためには、ジャーマンエンジニアリングが不可欠となります。

たとえば、私たちが現在持っている代表的なテクノロジーのひとつに、TEXAPORE ECOSPHERE(テキサポール・エコスフィア)という業界で初めてメンブレン[1]まで100%リサイクルで作った素材があります。このような革新的な素材を実現するために相応の技術力が必要です。

機能性とサステナビリティというものは表裏一体なもので、その技術を紡ぐのがジャーマンエンジニアリングと解釈しています。サステナビリティ+テクノロジーを常に両立させるブランドということで、Jack Wolfskinを一言で言い表すならば、サステナテックなアウトドアブランドと言えると思います」

瓶の中に入るリサイクル素材、一番手前が100%リサイクルで作ったメンブレン
瓶の中に入るリサイクル素材、一番手前が100%リサイクルで作ったメンブレン

「私たちのブランドは、『CLASSIC&CAMP(クラシック アンド キャンプ)』『MOUNTAIN&TRAIL(マウンテン アンド トレイル)』『URBAN ACTIVITY(アーバン アクティビティ)』という3つのカテゴリーに分かれています。

私たちは、例えば山を登るときは、標高の高さを競ったりスピードを競ったりするためではなく、あくまで自然環境に身を置いたときに、そこで見つけた新しい発見などをサポートするというブランドです。

それはキャンプや、そこからもう少し足を伸ばして山の中など、自然に興味を持って1歩外に出てみたら、様々な発見があることをサポートしていこうということです。その幅広い定義をわかりやすくカテゴライズしたのが、今の形です。

『CLASSIC&CAMP』はキャンプを中心に、様々なアクティビティを楽しもうというカテゴリーで、『MOUNTAIN&TRAIL』は、その名の通り、山登りということになるんですが、先ほども言ったように、決してピークを目指したり、スピードを競ったりすることを目的としないというのが私たちの定義です。『URBAN ACTIVITY』は、都市での暮らしにおける日常着としての要素なども入ってきます。

それぞれのシーンに応じて求められるテクノロジーやデザインも異なります。そのため、アウトドアの機能を持ったアイテムを通じて、様々なアクティビティをサポートするという考え方で、それを総じて『WE LIVE TO DISCOVER』という言葉で当ブランドの価値観を打ち出しています」

WE LIVE TO DISCOVERを具現化する3つのカテゴリー
WE LIVE TO DISCOVERを具現化する3つのカテゴリー

Jack Wolfskinオリジナル素材TEXAPORE ECOSPHERE

ここからはJack Wolfskinが100%リサイクル素材で開発した機能素材TEXAPORE ECOSPHEREとそれを使ったアイテムについてお話を伺っていこう。

「まず、ものづくりにおけるサステナビリティについてお話させていただきます。従来の撥水加工のアイテムでは『PFC(Perfluorocarbon)』と呼ばれるフッ素化合物が使用されていたという歴史があります。このPFCは自然に返らないので、今はそれを100%使わないPFCフリーを達成しています。

私たちはアパレルだけではなくフットウェアしかり、テントしかり、すべてのアイテムにおいていっさいPFCを使っていません。PFCを使わないということは、当然その代わりとなる耐久撥水加工を施さないとアウトドアでは通用しません。そこで、DWRという生地の表面張力を下げることで水をはじき、水が水滴となって転がり落ちるような撥水加工技術を使っています。

1つの製品を作るにあたってさまざまサプライヤー(仕入れ先)が絡んできます。どんなサプライヤーにも採用してもらえるように、小さなパーツひとつでも100%PFCフリーだといえるアイテムを作っています。

TEXAPORE ECOSPHEREという素材ですが、メンブレンまですべてを100%リサイクルで作ったもので、アウトドア業界では私たちがはじめてだと思います。これが2017年に完成しました。

この春夏のアイテムから1つ紹介したいのですが、ELSBERG 2.5L JKTハードシェルです。私たちが開発したTEXAPORE ECOSPHEREから、さらに今年進化を重ねた2.5層の『TEXAPORE ECOSPHERE PRO(テキサポール・エコスフィア・プロ)』という素材を使用しています。

TEXAPORE ECOSPHEREというオリジナル素材ができてからも日々進化を重ねているというところが、まさにジャーマンエンジニアリングということだと思います」

オーガニックにも着目した素材開発

「さらにもう1つ、テクノロジー系の素材開発ではなく、オーガニックコットンとオーガニックヘンプを掛け合わせて作っている生地なのですが、このオーガニックコットンは落ち綿という生地にならなかった綿を集めたリサイクル素材も使用しています。古着などからリサイクルしたわけではなく、使われずに捨ててしまわれていた新品素材のリサイクルになります。

そしてゴアつきやすいヘンプという素材にコットンが混ざる事で、非常に着心地のよい肌触りになっています。ヘンプが本来持っている吸汗速乾性や抗菌消臭性が生かされています。

さらにヘンプもリサイクル素材を使用しているため、オーガニックコットン×リサイクルコットン×オーガニックヘンプ×リサイクルヘンプという4つの要素を掛け合わせた生地で、こちらも他にはないような素材になっています。こういうところからも、Jack Wolfskinというブランドが大切にしている価値観がおわかりいただけると思います。この素材を使ったトップスとパンツもご覧ください」

まだサステナブルという言葉がない頃から環境問題に取り組んでいたというJack Wolfskin。サステナブル先進のヨーロッパ圏の中でも、その姿勢はトップクラスといっていい存在だ。工場の労働問題から、消費者へ向けて生産過程が追求できるような情報公開なども、創業当時から取り組んでいるという。

環境問題について、ものづくりだけではなく全方位型で取り組んでいるブランドだ。選ぶならJack Wolfskinではないだろうか。

[1]メンブレン
3層素材などの、機能ナイロン素材の生地と生地の間に入る膜状の素材。水滴の侵入を防ぎつつ、水蒸気は外に排出してくれるという性能を持つ。

PROFILE|プロフィール
喜田 慎(きだ まこと)
喜田 慎(きだ まこと)

キャロウェイゴルフ株式会社
Jack Wolfskinマーケティングマネージャー
グローバルブランドとして一つのポリシーがあるなかで、Jack Wolfskinの意志を汲み上げ、日本市場へ普及させするための施策を計画。Jack Wolfskinのブランドコミュニケーション活動や、イベント企画にも取り組んでいる。また、同ブランドを保有するキャロウェイゴルフのキャロウェイ・サステナビリティ・コミッティのプロジェクトリーダーも兼務し、同社が展開するサステナビリティ活動「ALL FOR GREEN」の牽引役も務める。

#Sustainability
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