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2022.09.02

すべての人に「おしゃれな服が着られる喜び」をーーKANKAKU FACTORYの挑戦

今日はどんな服を着ていこう。大切な人に会うから精一杯のおしゃれをしよう、取引先に向かうので失礼のない服装にしなければーー。このように人は毎日服を選んでいる。だが、「服を選ぶことはおろか、着ることすら当たり前ではない」としたら、どうだろうか。
株式会社クリスタルロード代表の加藤路瑛さんは、自身が日常生活に困難が生じるほど様々な感覚が敏感な状態である「感覚過敏*」のため、服を選ぶ以前に「着ることが苦痛だった」と語る。この経験からKANKAKU FACTORYを立ち上げ、着心地を追求した衣服を届けようと日々取り組んでいる。
今回、ご自身の苦悩やその解決のために取り組んでいる事業について話を伺うだけでなく、感覚過敏をひとつの才能として捉える加藤さんの考えを深堀りした。

*「感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が過敏になっていて日常生活に困難さを抱えている状態をいいます。これは病気ではなく症状なので、診断されるというものではありません。発達障害に多く見られる症状ですが、それだけでなく、うつ病、自律神経失調症、認知症、脳卒中、てんかん、高次脳機能障害などさまざまな病気の症状としても感覚の過敏さはみられますし、最近、耳にすることが多いHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)でも感覚の過敏さがある人もいます。」(KANKAKU FACTORYのホームページより https://kankakufactory.com/pages/story

PROFILE|プロフィール
加藤路瑛(かとう じえい)
加藤路瑛(かとう じえい)

2006年生まれ。株式会社クリスタルロード代表取締役社長。感覚過敏研究所所長。聴覚・嗅覚・味覚・触覚の感覚過敏があり、小学生時代は給食で食べられるものがなく、中学生になると教室の騒がしさに悩まされ中学2年生から不登校。その後、通信制高校へ進学。子どもが挑戦しやすい社会を目指して12歳で親子起業。子どもの起業支援事業を経て13歳で「感覚過敏研究所」を設立。感覚過敏の啓発、対策商品の企画・生産・販売、感覚過敏の研究に力を注ぐ。著書に『感覚過敏の僕が感じる世界』(日本実業出版社)。

はじめに、起業した経緯と感覚過敏について教えてください。
僕が12歳だった2018年の12月に、親子起業という形で会社を設立しました。最初は社長にあこがれていたこともあり、誰もが起業しやすい世の中にするための事業を行っていました。
1年くらい経ったときに、父から「せっかく会社を持っているのだから、自分の困り事を解決したらどうか」と提案されて、そこから自分自身の悩みである感覚過敏の解決に取り組もうと思いました。それがきっかけで感覚過敏研究所を設立しました。
感覚過敏の度合いは人それぞれ異なりますが、僕の場合は周りの音や、においがとにかくダメでした。音はイヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンを使用し、においもマスクで対処してきました。
そのなかでも、一番つらかったのが衣服です。ちょっとした縫い目やタグが肌に触れると、とにかく「痛い」と感じます。そのため肌着を裏返したり、タグを取ったりすることで、なんとか着れないかと試していました。
とくに大変だったのは、せっかく苦労して着られる服が見つかったとしても、買った時期やロットによって感じ方がまったく違うことでした。たとえば、着られる靴下が見つかり10着ほど購入しても、そのなかで実際に着られるものは1つか2つ。服のトレンドも変わりやすいため、気に入った服も1年経てば店頭から消えてしまいます。そうしたこともあり、着られる服が見つかれば何年でも、穴が空いてでも着続けていました。
このような状態ですから、僕のなかで「服を選ぶ」という考え方はありませんでした。とにかく痛さを感じない服がほしい。それを実現するためにKANKAKU FACTORYを立ち上げました。
KANKAKU FACTORYでは、どのような服を製作しているのですか。
既存の衣服と大きく違うことは、縫い目が外側にあり、タグも付いていないことです。使用している生地も、僕が厳選したものを使っています。
生地の選定には本当に苦労しました。いままで500種類ほどの生地を触ってきましたが、そのなかで僕が合格を出せたのは多く見積もっても10種類くらいしかありませんでした。もちろん、そのなかでも触り続けていると痛かったり、不快だと感じたりするものはあります。100点満点の生地にはまだ出会えていません。
そこで衣服の製作だけでなく、生地の開発にも着手しています。現在、繊維商社の瀧定名古屋株式会社と信州大学の繊維学部に協力を仰いで、快適な生地の開発を行っているところです。
服のデザインには、どのようなこだわりがあるのでしょうか。
僕がこのアイテムを作りたいと提案したあとにデザインを考えていくのですが、基本的にはパタンナーさんと一緒に決めています。とくに日常の動作のなかで気になる点は、改善するようにしています。たとえば半袖のTシャツですと、肌が縫い目に当たらないように脇下のラインを後ろにずらしたり、リュックを担いだときに肩の縫い目が気にならないように、少しだけ背中側に縫いつけたりしています。
大前提として、着心地や性能を重視しつつも「福祉ファッション」にはしたくない、誰しもが着られるような服でありながら、感覚過敏の人にとっても良いものでありたいと考えています。
縫い目を外側にしただけでは裏返しに着ているようにみえてしまうので、機能だけを追求するとおしゃれから離れてしまいます。感覚過敏や様々な障がいがあっても、おしゃれを楽しめるブランドでありたい。そのためにいろいろなファッションブランドを参考にしていて、日々SNSやネット上でチェックしたり、直接アパレル企業の方にお話を伺ったりしています。
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