「LOOPWHEELER(ループウィラー)」というと、Made in Japanの高品質なスウェットシャツを作っているブランドという認識が一般的ではないだろうか。日本に現存する「吊り編み機」という機械によって編まれた生地のみを使用し、正統なスウェットシャツを作っているブランドだ。
LOOPWHEELERを語るうえで、吊り編み機というものは避けては通れない。
吊り編み機は、1960年代半ばまではスウェットシャツの生地を生産するためのごく一般的な編み機で、その出来上がった生地の最大の特徴は「やわらかさ」。くり返し洗濯してもその特性が失われにくい吊り編み生地は、スウェットシャツやTシャツの素材として最適だった。
しかし、衣料品においても大量生産・大量消費の時代が訪れ、効率重視の生産体制が築かれるなかで、吊り編み機は徐々にその姿を消すこととなる。
たとえば、吊り編み機でつくられたスウェット生地「吊り裏毛」は、1時間にたった1メートル程度しか編むことができず、さらに職人が常時編み機の調整を行いながら稼働しなければならないため、多くの工場がコンピューター制御の最新の編み機を導入することで、生産効率を上げていく傾向にあった。
現在、吊り編み機は日本では和歌山県に約400台存在し、そのうちの約200台が稼働している状況になっている。
今回は、LOOPWHEELER代表の鈴木諭さんに、ブランド誕生の頃のお話や、吊り編み機への思いを語っていただいた。
「ブランドを設立する前は繊維系の商社で働いていて、ニッター[1]さんに糸を売る仕事をしていました。職人さん相手の仕事であったため、糸の知識を多く得ることができました。その後、1980年代のDCブランドブームから1990年代の裏原宿ブームの頃は、製品を作る仕事の方が増えていき、31歳の時に独立して1999年にLOOPWHEELERを立ち上げました。
カットソーなどの知識が豊富になり、原材料や縫製工場とのネットワークもでき、多くのアパレルメーカーから仕事の依頼が増え、OEM[2]の仕事も始めることになりました。
カットソー類の生産の仕事をやっていくと、吊り編み機にたどり着くんです。昔は和歌山県に吊り編み機を使っている工場が10社ほどありました。今では2社だけ残っており、他は廃業や倒産などで会社をたたんでしまったんです。
1990年代に日本のアパレルメーカーが生産拠点を続々と中国へ移していた頃で、いわゆる『チャイナシフト』が始まったんです。
そういう時代背景のなか、このままもし、この2社の工場がなくなってしまったら、僕の大好きな生地でものが作れなくなってしまうと思いました。自分自身が1番着たいのが吊り裏毛で作ったものであったし、大袈裟な話ですが、日本の財産がなくなってしまうと思ったんです。
ヨーロッパでも小さな規模で吊り編み機を使った工場があるにはあるのですが、この吊り裏毛の生地は作れないんです。
日本唯一のこの技術を若い人に継承できれば、まだ間に合うのではないか。若い人に継承するには誰かがこの機械を動かして、その製品を世の中の皆さんに買っていただいて、そうやって循環していくことが必要だと感じました。
そこで、僕たちがこの吊り編み機で作った生地だけを使ったLOOPWHEELERというブランドを作って、自分たちや工場の皆さんが豊かな生活を送れたらと思い、始めたのが最初です。」
LOOPWHEELERのスウェットの袖口には、「ループウィラー」とカタカナで書かれたピスネーム(ロゴなどを入れるための小さなタグ)がついている。このカタカナピスネームの誕生には、ドラマがあった。引き続き、鈴木さんにお話を伺った。
「最初は普通に日本で展示会を開いて、全国のセレクトショップのバイヤーさんたちに来てもらってオーダーしてもらえればいいなと思ったのですが、始めた頃はなかなか評価が得られず、オーダーを頂くことができませんでした。
当時は裏原宿ブランドがすごくブームの頃で、無地のスウェットを扱うブランドも少なかったという時代だったと思います。当時、インターネットはまだそこまで普及していなかったし、雑誌でもなかなかその魅力を伝えきれず、八方塞がり状態でした。
その頃、日本で人気のデニムブランドが、ロンドンやヨーロッパで高い評価を得ていました。
イギリスはものづくりの国だから、こういうクラフトマンシップ的なものの良さを分かってもらえるのかなと思い、知り合いのつてをたどって、百貨店のSelfridges(セルフリッジズ)に営業に行ったところ、少量でしたがお店に置いて頂くことができ、そこから道が開けたように思います。
その後、パリのセレクトショップCOLETTE(コレット)[3]がまだ開店して3年目ぐらいの頃、オーナーのサラさんから突然連絡をもらいました。 『LOOPWHEELERのスウエットをオーダーしたい』と。すぐにサンプルを持ってパリに向かい、サラさんは一晩考えて、翌日すごい数のオーダーをくれました。まだ無名な日本のブランドでもこの良さが分かってもらえるんだという思いで、胸に刺さるものがありました。
日本では難しかったのですが、海外で認めてもらうことができとてもうれしかったですね。はじめはこのカタカナネームは付いていなかったのですが、海外展開する上で、日本製であるという証として、日の丸をつけるような思いで『ループウィラー』というピスネームを付けました。
カタカナにした理由は『カタカナってグラフィックに見えるよね』とロンドンで誰かが言っていたのを思い出して、カタカナは日本にしかないし、きっと分かってもらえるかなと思ったのです。」
ここからは揺るぎない定番アイテムを見ていこう。吊り編み機で編まれた吊り裏毛のクルーネックスウェット、プルオーバーフーディ、ジップフーディの3型。24年間変わらずにつくり続けているアイテムだ。
インタビューの中で「製造の手順はクラッシックで、出来上がったものはコンテンポラリー」というお話をしていた。ものづくりの部分のお話をもう少し聞いてみよう。
「吊り裏毛の丸胴仕様、セットインスリーブ[4]、両Vガゼット[5]、適所にフラットシーマ[6]を使用するなど、スウェットのクラシカルでオーセンティックな製法、ディテールを大切にしながら、現代にフィットするよう、素材、デザイン、パターン、縫製において、LOOPWHEELERが考えるベストな行程を経て、今着てちょうどよいコンテンポラリーなスウェットシャツを製作しています」
様々なブランドとのコラボレーションや大手セレクトショップ等で手にできるLOOPWHEELERのアイテムは、全て別注アイテムとして展開され、インラインは東京、大阪、福岡の直営店とオンラインストアのみで展開されている。
来年25周年を迎えるLOOPWHEELER。20周年の時にはNIKEとのコラボレーションがリリースされ話題になった。
25周年では何か特別なことを考えているそうだが、詳細はまだわからない。日本はもとより世界を探しても唯一無二のフィロソフィーを持ったブランド。だからこそ説得力があり、LOOPWHEELERに魅了されるファンが後を絶たないのであろう。
[1]ニッター:編み立て業者のこと。メリヤス製造業、ニット製造業とも呼ばれる。カットソーなどのニット生地を製造する業者、セーターなどのニット製品をつくるメーカーのこと。
[2]OEM:アパレルメーカーとパタンナー、生地会社、縫製工場の間に入り生産を一手に請負う会社のこと。
[3]COLETTE:フランス、パリで1997年に開店した世界的に人気を博したセレクトショップ。2017年に閉店。
[4]セットインスリーブ:肩から脇にかけて垂直に切り替えが入るよう縫製された仕様。
[5]両Vガゼット:スウェットの前後両方の首元にV字に付けられたリブを、ガゼットという汗止めのために取り付けられたと言われており、1930年代から1950年代前半にかけてのディテールとされている。
[6]フラットシーマ:特殊なミシンを使った四本針縫製のこと、縫い合わせる生地と生地が平らな状態で縫製されているため、縫い目(シーム)がフラットに仕上がる
LOOPWHEELER代表
吊り編み機で編まれた生地に惚れ込み、高度経済成長と共に消えゆく吊り編み機をなんとか残したいという強い思いから、1999年にLOOPWHEELERを設立し、「世界一、正統なスウェットシャツを」を掲げ、着心地の良い吊り編みスウェットを作り続けている。