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2023.03.07

吊り編み機への思いが作り出した、世界基準のスウェット「LOOPWHEELER(ループウィラー)」

LOOPWHEELER(ループウィラー)」というと、Made in Japanの高品質なスウェットシャツを作っているブランドという認識が一般的ではないだろうか。日本に現存する「吊り編み機」という機械によって編まれた生地のみを使用し、正統なスウェットシャツを作っているブランドだ。
LOOPWHEELERを語るうえで、吊り編み機というものは避けては通れない。
吊り編み機は、1960年代半ばまではスウェットシャツの生地を生産するためのごく一般的な編み機で、その出来上がった生地の最大の特徴は「やわらかさ」。くり返し洗濯してもその特性が失われにくい吊り編み生地は、スウェットシャツやTシャツの素材として最適だった。
しかし、衣料品においても大量生産・大量消費の時代が訪れ、効率重視の生産体制が築かれるなかで、吊り編み機は徐々にその姿を消すこととなる。
たとえば、吊り編み機でつくられたスウェット生地「吊り裏毛」は、1時間にたった1メートル程度しか編むことができず、さらに職人が常時編み機の調整を行いながら稼働しなければならないため、多くの工場がコンピューター制御の最新の編み機を導入することで、生産効率を上げていく傾向にあった。
現在、吊り編み機は日本では和歌山県に約400台存在し、そのうちの約200台が稼働している状況になっている。
今回は、LOOPWHEELER代表の鈴木諭さんに、ブランド誕生の頃のお話や、吊り編み機への思いを語っていただいた。
千駄ヶ谷のLOOPWHEELER直営店では吊り編み機がディスプレイされている
千駄ヶ谷のLOOPWHEELER直営店では吊り編み機がディスプレイされている

日本の財産「吊り編み機」をなくしてはならない

「ブランドを設立する前は繊維系の商社で働いていて、ニッター[1]さんに糸を売る仕事をしていました。職人さん相手の仕事であったため、糸の知識を多く得ることができました。その後、1980年代のDCブランドブームから1990年代の裏原宿ブームの頃は、製品を作る仕事の方が増えていき、31歳の時に独立して1999年にLOOPWHEELERを立ち上げました。
カットソーなどの知識が豊富になり、原材料や縫製工場とのネットワークもでき、多くのアパレルメーカーから仕事の依頼が増え、OEM[2]の仕事も始めることになりました。
カットソー類の生産の仕事をやっていくと、吊り編み機にたどり着くんです。昔は和歌山県に吊り編み機を使っている工場が10社ほどありました。今では2社だけ残っており、他は廃業や倒産などで会社をたたんでしまったんです。
1990年代に日本のアパレルメーカーが生産拠点を続々と中国へ移していた頃で、いわゆる『チャイナシフト』が始まったんです。
そういう時代背景のなか、このままもし、この2社の工場がなくなってしまったら、僕の大好きな生地でものが作れなくなってしまうと思いました。自分自身が1番着たいのが吊り裏毛で作ったものであったし、大袈裟な話ですが、日本の財産がなくなってしまうと思ったんです。
ヨーロッパでも小さな規模で吊り編み機を使った工場があるにはあるのですが、この吊り裏毛の生地は作れないんです。
日本唯一のこの技術を若い人に継承できれば、まだ間に合うのではないか。若い人に継承するには誰かがこの機械を動かして、その製品を世の中の皆さんに買っていただいて、そうやって循環していくことが必要だと感じました。
そこで、僕たちがこの吊り編み機で作った生地だけを使ったLOOPWHEELERというブランドを作って、自分たちや工場の皆さんが豊かな生活を送れたらと思い、始めたのが最初です。」
吊り編み機で編んだ吊り裏毛の裏面
吊り編み機で編んだ吊り裏毛の裏面

ピスネームに込めた思い

LOOPWHEELERのスウェットの袖口には、「ループウィラー」とカタカナで書かれたピスネーム(ロゴなどを入れるための小さなタグ)がついている。このカタカナピスネームの誕生には、ドラマがあった。引き続き、鈴木さんにお話を伺った。
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