2022.09.08

【大人は知らない】都内進学校の男子高校生が 校内の自販機で「メンズビオレ」を買う意外な理由

都内有数の進学校でありながら藤原ヒロシ氏に制服のデザインを依頼するなど、驚きのプロジェクトを展開する青稜中学・高等学校。2021年には「メンズビオレ」の自動販売機を学校内に設置した。次々と斬新なプロジェクトが生み出す意図を、話題の校長である青田泰明氏に伺った。

挑戦者たる姿勢やマインドを制服に落とし込みたい

東京都品川区にある私立青稜中学校・高等学校。同校の3代目校長としてメディアなどに取り上げられることも多い青田泰明校長。校長代行時代には同行の制服デザインを「ルイ・ヴィトン」や「ブルガリ」などとのコラボを手掛け、90年代の裏原ブームを牽引した藤原ヒロシ氏に依頼し、大きな話題となった。そんな校長が制服のデザイン依頼についてこう語ってくれた。

「元々、藤原ヒロシさんとは仲良くさせていただいていて、食事の席でヒロシさんに “学校の制服のデザインされたことありますか?” と伺ったら “ないね” とおっしゃったので、依頼してみたら “いいよ” とふたつ返事で快諾いただきました。ヒロシさんは、僕たちが学生の頃から数々のハイブランドとのコラボを手掛けるなど、挑戦を続けてきた方です。常に “挑戦者” であるヒロシさんに制服のデザインを手掛けて欲しかったという思いはありました。

それは本校の教育の信念に “挑戦” という言葉が出てくるから。そのキーワードやマインドを、生徒たちがいつも着る制服に落とし込んでもらいたかったのです。制服デザイナーも色々いらっしゃると思いますが、それこそヒロシさんは初めて制服を手掛けるので、挑戦するというコンセプトに合致すると思いました。

画像: 制服はSOPH.の清永文浩氏と藤原ヒロシ氏が手掛ける「uniform experiment(ユニフォーム エクスペリメント)」。制服の裏地には、こんな豪華なタグが配置される
制服はSOPH.の清永文浩氏と藤原ヒロシ氏が手掛ける「uniform experiment(ユニフォーム エクスペリメント)」。制服の裏地には、こんな豪華なタグが配置される

ヒロシさんはフレキシブルな発想で、さまざまな提案をしてくれました。最初はワイシャツとブレザーとパンツとスカートを……なんてシンプルに考えていましたが、重ね着するんだったらこんなアイテムもあるといいよね、なんてアイデアを沢山いただいて、ポロシャツやベスト、フーディやジャージ……結局、スクールバッグに至るまですべて監修していただきました」

青田校長が学校に制服デザインを藤原ヒロシ氏に依頼すると提案した時にも、自分たちと同世代の先生は「あの、藤原ヒロシさんに!?」という感じで驚かれながらも、賛成してもらったとのこと。

「生徒たちも制服が変わるということで、特に女子は喜んでいました。男子も重ね着ができるし、特にフーディが好評のようです。やはり我々世代の保護者の方からも『えっ!? 本当に藤原ヒロシさんが』などと好意的な意見をいただき、中には『藤原ヒロシさんに会えるんですか?』なんて保護者もいたほど(笑)。生徒からも保護者からも良い反応が多くて、取り組んでよかったなと思いました。

少し残念だったのは、生徒たちに藤原ヒロシさんの認知度が低かったこと。それをヒロシさんに伝えたら『逆にそれでいいんじゃない。いつか自分の存在に気づいたときに、また楽しんでもらえるし。知らないで、いい制服だなとか思ってくれたら嬉しいよ』と言ってくださったのが印象的でした」

画像: エリや腕に入ったパイピングテープがアクセントになったブレザーを筆頭に、春はワイシャツやベスト、夏はポロシャツなど生徒のアレンジ次第で自由に組み合あわせができる。青田校長も「生徒に着こなしのクリエイティビティを楽しんでほしい」と語る
エリや腕に入ったパイピングテープがアクセントになったブレザーを筆頭に、春はワイシャツやベスト、夏はポロシャツなど生徒のアレンジ次第で自由に組み合あわせができる。青田校長も「生徒に着こなしのクリエイティビティを楽しんでほしい」と語る

自分たちの時代は決まった制服を着ていたけど、ワイシャツやポロシャツ、ベストなどアイテムを多くしたことで、選択肢を与え、重ね着などして自分たちのユニークを作っていくことが今回の大きなコンセプトでもあったそう。制服を着こなすことで学校生活の日常の中に、クリエイティビティを落とし込みたいという青田校長の願いが込められている。

無意識のジェンダーバイアスを是正する取り組み

制服デザインの他にも青田校長のプロジェクトには注目が集まっている。校内に「メンズビオレ」の自動販売機を設置したのだ。青田校長はその意図もこう語ってくれた。

「元々は男子生徒との雑談から始まりました。男子生徒が『あいつ、肌が焼けるの気にして、めっちゃ日焼け止め塗ってるんですよ』といじられていたんです。BTSといった韓流アイドルしかり、男性も美肌になることがスタンダードになってきたことで僕的には『今の時代、男でも日焼け止めくらい塗るだろ』と思っていたのですが、生徒たちの考えの中には前近代的なジェンダーバイアスがまだあるんだなと感じたんです。

今の学生たちは、LGBTQに関してもフリーになってなってきているし、ジェンダーフリーも当たり前という感覚でいるのかなと思ったら、どうやら違うらしい。親の価値観や先生の価値観、そして閲覧するメディアや読むマンガ、もちろん昔のマンガも読むので、昔の価値観もその中には入ってくるわけです。そういった部分から、ジェンダーバイアスが再生産されているんだなと驚きましたね。

画像: 校内の吹き抜け近くに設置されたメンズビオレの自動販売機。これがあることで、男子生徒のスキンケアへの関心も高まる
校内の吹き抜け近くに設置されたメンズビオレの自動販売機。これがあることで、男子生徒のスキンケアへの関心も高まる

学校としては、ジェンダーバイアスについての講演を行ったり、そういった内容の授業を設ける選択肢はありますが、個人的には自分の実体験として生徒たちにはあまり響きにくいと思っていて。だからこそ日常の中から、生徒たちのジェンダーバイアスを変えていける仕組みがあれば……と思いついたんです。逆に、“男子がスキンケアをしてもおかしくないんだ” ということを、学校側が生徒たちに示してあげたいと。

そこで花王さんに連絡して、女性用のスキンケア商品と一緒に男性用のスキンケア商品も購入できる自動販売機の導入を持ちかけたんです。すると、面白い取り組みということで、何か協力できないかと何度もセッションを重ねました。最終的に学校側が自動販売機を用意して、花王さんから商品を卸してもらい、学校側が転売するということで話はまとまりました。生徒たちが手軽に買える価格設定にしてあるので、生徒たちに買われれば買われるほど赤字なんです」

画像: もちろん女子生徒も購入できる商品ラインナップに。最近の売れ筋は「めぐリズム」のアイマスクだとか
もちろん女子生徒も購入できる商品ラインナップに。最近の売れ筋は「めぐリズム」のアイマスクだとか

と青田校長は笑う。学校がお墨付きを出して販売を始めたことで、男子生徒もスキンケアしてよいという市民権が与えられた。女子生徒も男子が肌を気にするのが普通という感覚になる。無意識のジェンダーバイアスの芽生えを、自動販売機の設置という形で解消していく青田校長の発想や、それを実現する実行力はお見事という他ないだろう。

投票率の低下を見据えた大人との交渉で変わる未来

コロナウイルスが猛威を振るう昨今。常にマスクをするなど生活は大きく変わった。もちろん、学校生活も例外ではない。予定されていた合唱コンクールや文化祭など学校行事も中止になり、修学旅行といった思い出の中心となる行事の開催もままならない。そんな状況で、生徒たちから提案があったのが、アイスクリームの自動販売機設置や学内の電力を太陽光発電でまかなうものだった。

画像: プールなどではおなじみのグリコ「セブンティーンアイス」の自動販売機も、生徒たちからの提案で設置が決まった。理詰めで大人に提案することで、実現する未来を切り拓く教育を実践している
プールなどではおなじみのグリコ「セブンティーンアイス」の自動販売機も、生徒たちからの提案で設置が決まった。理詰めで大人に提案することで、実現する未来を切り拓く教育を実践している

「学校に来られない日々もあったり、コロナ禍では生徒たちの活動が自粛されました。その中で学校生活が面白くなるように……ということで、生徒たちから提案があったのが、アイスクリームの自動販売機の設置でした。また太陽光発電も生徒たちから『どうして学校は太陽光発電にしないのか』という意見から実現したものです。学校側がSDGsに注力する中で、太陽光発電もひとつのキーワードでした。ただソーラーパネルを設置するにはお金がかかるので、太陽光発電をする会社から電力を供給してもらうように変えました。

そうやって生徒たちからの『うそでしょ!?』というアイデアをもらい、それを実現していくことが多いです。生徒たちが声を上げて交渉して、論理的に整ったうえで主張すれば、ルールは変わることを知って欲しいのです。

画像: 取材時にも学校見学で中学生やその保護者がたくさん訪れていた。数多くのメディアに登場することで、学校自体も注目されているのだ
取材時にも学校見学で中学生やその保護者がたくさん訪れていた。数多くのメディアに登場することで、学校自体も注目されているのだ

僕は、若者の投票率が低いのは、学生時代に大人たちに主張をぶつけたら変わったという成功体験がないから、政治家に何をいっても無駄だというネガティブな発想が根底にあると思っています。“ちゃんと交渉したらルールは変わる”という経験をすれば意識は変わります。そういった成功体験がある生徒は、選挙権を得たときもきっと投票しに行ってくれるはずです」

青田校長の次なる一手は、学内へのモダンアートの設置だという。欧米のように当たり前にアートや文化遺産があることで感性が芽生えていくという情操教育に期待しているとのこと。自分の学生時代にいてほしかった先生の理想像を地で行く、青田校長の動向からますます目が離せなくなりそうだ。

PROFILE|プロフィール
青田 泰明(あおた やすひろ)
青田 泰明(あおた やすひろ)

1979年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科、同大学大学院社会学研究科を卒業。大学院在学中より、私立高校・中学生対象のサポート校に勤務。2008年から青稜中学校・高等学校に赴任。以降、校長補佐や校長代行などの役職を経て2020年春より校長に就任。通学時はスーツではなく、ストリート系の私服という生粋の服好きを見せる面も。

Text by  Yasuyuki Ushijima

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