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2024.10.25

パリで輝く日本人デザイナー:大森美希のランウェイデビューと教育への情熱

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海外在住24年のファッションデザイナー、大森美希。服飾学校教員を経て渡仏し、バレンシアガ(BALENCIAGA)、ランバン(LANVIN)、ニナリッチ(NINA RICCI)という名だたるブランドを渡り歩き、ニューヨークではコーチ(COACH)のシニア・デザインディレクターを務めるなど、ジョブ型雇用でラグジュアリーブランドのデザイナーを歴任。
現在はパーソンズ・パリの修士課程アソシエイトディレクターを務めている。先日行われたPARIS FASHION WEEK Spring/Summer 2025の4日目、リック・オウエンス(Rick Owens)のショーではモデルを務めた。パリ公式ランウェイでのモデル出演は、大森さんの幼い頃の夢だったという。
そのショーの直後に取材の機会を得た。今回は、先日のランウェイでの経験や、教育者としての活動について話を伺っていく。
PROFILE|プロフィール
大森 美希(おおもり みき)
大森 美希(おおもり みき)

文化服装学院アパレルデザイン科卒業後、服飾学校での教員生活を経て2000年に渡仏。複数の老舗ブランド本社デザインチームにデザイナーとして勤務、フランスのラグジュアリー業界に15年間携わる。2015年からはニューヨークに移住し、米ブランド、コーチ(COACH)ではウィメンズウェアのシニア・デザインディレクターを務めた。2019年にパリに拠点を戻し、2021年からパーソンズ・パリ(NYパーソンズ美術大学のパリ校)修士課程のアソシエイト・ディレクターとして世界各国から集まる学生達にファッションデザインのノウハウを伝授しながら、日本に向けてはSNSや講演、執筆活動を通して発信を続けている。
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53歳日本人女性、リック・オウエンスのショーでモデルデビュー

リック・オウエンス(Rick Owens) 2025年春夏ウィメンズショーのランウェイを歩く姿。「Hollywood」をテーマに、パリのパレ・ド・トーキョー (Palais de Tokyo) で行われた © Jesse Brouns
リック・オウエンス(Rick Owens) 2025年春夏ウィメンズショーのランウェイを歩く姿。「Hollywood」をテーマに、パリのパレ・ド・トーキョー (Palais de Tokyo) で行われた © Jesse Brouns
ショーの出演が決まったのはいつ頃だったのですか?
ショーの前日に正式に決まりました。ファッションショーの準備は通常、4、5日前から始まります。その後、メゾンから依頼されたキャスティング会社が候補者を用意し、キャスティングと同時にスタイリストやコンサルタントと一緒にショーのスタイリングを行います。
選ばれたモデルは2、3日前からフィッティングを行います。最終的な判断が下されると、前日の夜遅くにコンファームのメールが来ます。
私の場合、そのメールは前日の夜11時前に届きました。
かなりぎりぎりなのですね。
準備はしておくようにと言われていましたが、正式に決まるまでは不安でした。夜遅くの連絡は業界では普通のことですが、それまではドキドキしていましたね。
実際に歩いてみていかがでしたか。
転ばないように気をつけることだけを考えていました。直前まで雨も降っていたので注意が必要でしたね。靴のサイズも大きかったのですが、それで歩くしかありませんでした。
ファッションウィークでのショーには20年ほど関わってきたので、全体の流れは理解していました。モデルとしては、これまで見てきたモデルたちの動きを参考にして、意外にも、それほど緊張はしませんでしたね。
今回のショーでは、リック・オウエンスがファッションやアートに携わる学生とその教師たちをキャスティングしたいという意図がありました。多様性の面では、ファッション業界は日本より20年ほど進んでいると感じます。今や多様性は単なるトレンドではなく、業界の標準になりつつあります。
多様性の推進が進んでいるのですね。
ファッションウィークでは、多様性が非常に重要な要素となっています。たとえば、昨年のボス(BOSS)のショーでは渡辺直美さんが出演しましたし、バレンシアガのデザイナーであるデムナ・ヴァザリアは自身の家族や同僚、ジャーナリストなど、多様な人々をショーに起用しました。
これらの変化を見て、「身長が小さくても、いつかショーを歩けるかもしれない」と思うようになりました。私自身、小さい頃にモデルになりたいと思っていた時期がありましたが、20年前なら決して考えられないことでした。しかし最近では、「自分にもチャンスがあるかも」と思えるようになったんです。
そんななか、リック・オウエンスが学生と教師をモデルとして探しているという話を聞きました。前回のメンズでは身長制限で断念しましたが、今回は身長の指定がなかったのです。結果的に、ウィメンズでは多様な人々が起用され、私も「多様性枠」で参加できました。
この20年間でファッション業界の多様化は驚くほど進みました。53歳のアジア人で身長150cmという私が、パリファッションウィークという世界最高峰の舞台でモデルを務めることができたのは、その証しです。

日本とはまったく異なるファッション教育

教育者としてパリで活躍している日本人はほぼいないといいます。なぜこちらの道に進まれたのでしょうか。
20年間デザイナーとして第一線で働いてきましたが、そろそろ次世代を育てる時期だと考えるようになりました。きっかけは、ニューヨークからパリに戻ったタイミングでコロナ禍になり、転職に苦戦したことです。面接がすべてストップしてしまい、教育の道を選びました。
もともと教えることが好きで、日本でも教えた経験があります。定年後に教育のほうへ進もうとしていた計画が、少し早まった形ですね。当初は臨時的な仕事のつもりでしたが、予想以上に面白く、今も続けています。もう3年になりますね。
パーソンズ・パリでの講義内容について詳しく教えてください。
BFA(学士)とMFA(修士)の最終学年のための選択授業「Collection Development」で学生を指導する様子
BFA(学士)とMFA(修士)の最終学年のための選択授業「Collection Development」で学生を指導する様子
講義内容は主にデザインについて教えています。デザインのソースやインスピレーション、テーマを洋服というプロダクトに落とし込む過程、つまりデベロップメントのプロセスを教えています。意外とみんな知らないんです。
私の授業では、学生それぞれに課題を与え、個別に対応しています。一斉講義ではなく、学生一人一人の課題に合わせて指導しています。
2年間の修士課程で教えていますが、学生たちは世界各国のデザイン系大学で学士号を取得しています。しかし、デザインの展開方法については、ほとんどの人が分かっていません。この分野をきちんと教える先生が少ないのかもしれません。
パーソンズ・パリは国際色豊かで、フランス人学生はほとんどいません。英語で授業を行うため、世界中から学生が集まっています。さまざまなバックグラウンドを持つ学生たちに教えるのは大変ですが、やりがいがあります。
「Collection Development」の授業では、一般的なデザイン画→服作りという順序でなく、リサーチや立体裁断、コラージュなどの多角的な実験を繰り返してデザインを組みたてていきながら、最終的に一つのコレクションを作り上げる方法を指導している
「Collection Development」の授業では、一般的なデザイン画→服作りという順序でなく、リサーチや立体裁断、コラージュなどの多角的な実験を繰り返してデザインを組みたてていきながら、最終的に一つのコレクションを作り上げる方法を指導している
この教育方法は、日本とはまったく異なります。日本のファッション教育は洋裁技術を重視しますが、デザインの過程、特に実用性と創造性のバランスを取る部分が不足しているように感じます。
本当のデザイナーは、体の構造と機能を深く理解し、それに合わせて服を作ります。単に奇抜なデザインのものを作るだけでは不十分です。また、テーマの社会的背景や文化的意味、関連する音楽や映画、アートなどの知識を深く掘り下げることも重要です。
そのため、私の授業では徹底的なリサーチを求めています。服作りの構造も深く学んでほしいのですが、学生たちのパターンメーキングの知識はまだ浅いですね。
日本の学生が世界で活躍するためのアドバイスをするとしたら。
海外のファッション業界を目指す若い人たちには、一度は海外に来て、その雰囲気を味わってほしいですね。キャリアパスとしては、日本の専門学校から海外の大学に進学する方法や、逆に海外の学校から始める方法など、さまざまな選択肢があります。
重要なのは、海外と日本のファッション業界の違いを理解することです。実際に海外の業界に入り込むような経験が必要です。ワーキングホリデーを利用してコネクションを作る方法もありますが、とにかく積極的に行動することが大切です。
一方で、日本での経験も非常に価値があります。日本の洋裁技術やパターンメーキングの技術は海外でも高く評価されています。言葉が通じなくても、高い技術力があれば仕事を得ることができます。
結局のところ、日本人としての強みを生かしつつ、国際的な視野と経験を持つことが、グローバルなファッション業界で成功する鍵になるのではないでしょうか。
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