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2024.03.05

年間60万頭も駆除されている野生鹿を使ったジビエレザー「Portierra」

日本の野生鹿による農作物の被害額は、年間60億円にも上ると言われている。この被害を抑えようと、年間60万頭が駆除され続けているようだ。そうして駆除された野生鹿の一部は、ジビエ料理としてレストランで提供されている。だが、それ以外はどうだろうか。
今回取材した株式会社A.I.Cは、駆除された野生鹿の革を扱うジビエレザーブランド「Portierra(ポルティラ)」を運営している。もともと牛革を扱っていたが、上記のような社会的な問題の解決に関心を持ち方向性を変えたようだ。いまでは当たり前となったエシカルやサステナブルにも力を入れており、その魅力を広める活動も行っている。
なぜ、これほどまでに野生鹿が問題となっているのか。そして、鹿革の魅力はどこにあるのか。同社の三木大介さんにお話を伺った。
PROFILE|プロフィール
三木 大介(みき だいすけ)
三木 大介(みき だいすけ)

メーカーや大手アパレル企業にて生産管理に従事した後、現(株)A.I.C.にてレザーの営業を行っている。

野生鹿の存在

御社の活動内容を教えてください。
弊社は新規参入のタンナーで、もともとは家畜の革を扱っていましたが、いまは野生獣を専門としています。ブランド「Portierra」ではジビエレザーを扱っており、主に狩猟で捕獲した鹿の皮をなめして販売をしています。
本社は兵庫県のたつの市にあり、原皮収集は県内だけでなく近郊鳥取県や岡山県まで足を広げて行っています。
拠点を兵庫県に置いている理由はありますか。
兵庫県たつの市は、あまり知られていませんが牛革の生産量は日本一なのです。たつの市の皮鞣しは鎌倉時代から続く伝統産業で、皮革業者や工場がたくさん集まっているのは大きなメリットになります。皮革の加工は多くの工程に分かれているので、それぞれの工程を専門とする加工業者さんが必要になるからです。
また、現在事務所として使用しているこの古民家は僕の父の生家で、たつの市の産業を盛り上げたいという父の思いもあり使わせてもらっています。
駆除した鹿を扱われているとのことですが、野生鹿による被害はどれほどのものなのでしょうか。
昨今はニュースなどで熊による被害が良く報道されていますが、鹿による食害や環境破壊の被害規模はそれ以上に深刻なものです。現在、野生の鹿は爆発的に繁殖しており、日本全国で年間60万頭が駆除されています。この駆除数も倍程にしないと繁殖を抑制できないと言われています。

僕が住んでいる田舎では、電車と鹿がぶつかったり、畑が食害にあったりというのは日常茶飯事です。人里に降りてこなくとも、山の木の幹を食べつくされてしまうと、木々は立ち枯れして土砂崩れが起きやすくなったりもします。自然の植生にも広く影響を及ぼしています。

これほどまでに鹿が増殖してしまったのは、実は僕たちの生活の変化が大きな原因になっています。戦後復興の為の無計画な植林、過疎化による里山の消失、猟師さんの高齢化、大きいところでは地球規模の温暖化など、現在は鹿にとって快適な生活が送れる環境になってしまったのです。
そこから、どうして駆除した鹿を扱おうと決めたのですか。
展示会などで、野生の鹿が増えすぎて困っているという話を多くのお客様や他の業者さんから聞く機会がありました。調べてみると、どうやら僕らが活動している兵庫県の界隈でもかなりの数の鹿が捕獲されていることがわかりました。それがちょうど10年くらい前の話ですね。
そうした状況を知ったからには、牛革をなめしているだけでは駄目だと思い野生獣を扱う方向に一気にシフトしました。
牛革の方が供給量や質も安定しているため、商売を続ける点では有利だったのですが、グローバル化の流れを受けて、国内タンナー事業は下火になっているのは明らかですしこの状況を変えるためには、今までとは違うことをしていかなければならないと思ったからです。
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#Sustainability
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