サステナビリティに対する注目が高まり、企業各社でも持続可能な社会を目指すために、リサイクルやアップサイクルなどの取り組みが進んでいる。しかし、具体的にどのような活動をすればよいのか、どう継続していくのかという課題に直面しているケースも多い。
そうしたなか、ネスレ日本株式会社、日清紡グループのニッシントーア・岩尾株式会社などをはじめとする14の企業や団体が、廃棄される資源や食品残渣(ざんさ)のリサイクル率向上を推進する企業連携プラットフォーム「一般社団法人アップサイクル」を2月7日に設立し、第1弾プロジェクトとして「TSUMUGI」をスタート(現在は17の企業・団体が参画)。企業などから廃棄される紙資源や間伐材を、紙糸にアップサイクルする取り組みだ。
同団体は、循環型社会づくりのハブとなり、参画した企業や団体が持っている資源や技術、ものづくりの力、サービスなどを結集することで、新たな価値を生み出すことを目指しているという。
そこで今回、同法人の事務局長を務めている瀧井和篤さんに、設立の経緯やプロジェクトの概要、今後の展開まで伺った。
私は、現在もネスレ日本のコーポレートアフェアーズ統括部で、コーヒー製品などのPRを担当しながら、消費者のみなさんに製品の価値をどう届けるかを考える仕事をしています。そのなかで2021年、おいしさだけではなく、サステナビリティを絡めて魅力を訴求する企画ができないだろうか、と思い立ちました。
弊社では、製品パッケージの改善や、廃棄物の削減を目指して、サーキュラーエコノミーの構築に向けた取り組みを進めています。たとえば、「ネスカフェ」の詰め替え用製品や、「キットカット」の大袋製品はプラスチックの使用量を減らした紙パッケージになっています。一方で、工場で印刷が行われた際などに成形ロスとなる紙も発生しており、何らかの形で有効化できないか検討していたところでした。
そこで、当時はこれらやスーパーマーケットなどの店頭から回収した使用済み紙パッケージを使って、アート作品を作ったり、親子で工作をしたりするプロジェクトを行いました。結果として、参加者の方には好評だったのですが、プロジェクトとしては短期的なプロモーションに終わったという課題が残りました。
そのため「中長期に渡る持続的なプロジェクトができないか」と考えるようになり、私と日清紡グループさんにつながりがあったことから、ディスカッションを重ねて「廃棄された紙を使って繊維を作れないか」という話になりました。
さらに、日本には紙糸というものがあることを知りました。もともとは和紙などを活用して作られている糸ですが「廃棄された紙でも糸にできないだろうか」と考え、プロジェクトがスタートしました。
2021年3月頃から約1年かけて、再生紙の厚みや、糸にする際の細さや強度などを試行錯誤しました。一番大変だったのは、包装材料を使っているので、パッケージやインクの色が残らないようにすることでした。
また、再生紙を100%活用した紙糸が理想ではありますが、現時点では他の材料(針葉樹など)と掛け合わせています。そのなかで、できるだけ再生紙の比率を上げるための調整にも苦労しました。
最初は糸にならずに切れてしまうこともありましたが、やがて一定の品質を保てるようになり、2022年の2月に日清紡グループさんと弊社でアップサイクル衣服の製作を行い、具体的には、「ネスカフェ」の直営店のユニフォームなどとして活用しました。
実際に糸を作ることには成功したのですが、当初の目的であった継続性について課題が残りました。スポットで製品を製作するとコストがかかり、持続可能なサプライチェーンの構築も難しかったのです。
そこで次の一手を考えていたところ、私たちの取り組みに対して、いろんな企業や団体から問い合わせがありました。
たとえば、神戸市さんからは紙資源を回収していることから「廃棄紙資源を提供したい」というお話とともに「六甲山の未利用の間伐材を使えるのではないか」とご提案いただきました。
そこで、私たちだけで取り組むには資金面や継続性の観点で難しかったのですが、各企業が連携して強みを生かせるプラットフォームがあれば、そこで新たな取り組みが生まれていくのではないかと考え、一般社団法人アップサイクルを設立することになりました。
先ほどお話 しした技術を活用して、ネスレ日本の工場から廃棄される包装材料だけでなく、参画していただいた企業各社が独自に回収した紙資源や間伐材から再生紙を作り、紙糸にアップサイクルするプロジェクトになります。
従来に比べて、紙資源をさまざまな場所から回収するとともに、間伐材も活用することで、森づくりにも貢献するようになった点が、取り組みにおいて進化した点だと思います。
手触りが柔らかくて優しく、とても軽く着られます。また、素材づくりからすべて日本で行っているので、Made in Japanならではの、しっかりとしたものづくりになっています。良い服をできるだけ長く着用する習慣として広がっていけばいいなと思いますし、そのきっかけになりたいと思っています。
現状、資源を供給するところでいうと、ネスレ日本や凸版印刷さんが挙げられます。そして、日本ロレアルさんやメットライフ生命保険さんなどは、オフィスから出る紙や、コーヒーを淹れた後の粉などを供給していただいています。
また、車折神社さんからは、奉納から2年間経過した後の玉垣を木材としていただいています。そうした木材についての加工技術などを提供いただいているのが、SHAREWOODS.さんです。
さらに、ものづくりのところでいうと、ニッシントーア・岩尾さんが繊維に、備後撚糸さんが撚糸に関わり、艶金さんに染色や縫製を担当いただいています。
デザインについては、毎田染画工芸さんが友禅染めを制作しており、インクルーシヴ・ジャパンさんは障害者アートなどで関わります。
そのほか、ZEROさんはフードロスなどを担当、シーエヌシーさん、ダイイチさんには製品の企画や販売をお願いしています。基本的には参画いただいた企業や団体のすべてが第1弾プロジェクトに関わっています。
サステナビリティやSDGsというと、企業としては「やらないといけない」「必要経費だ」と捉えているところもありますが、実はそれ自体がサステナブルじゃないんですよね。
サステナビリティを実現することは、今後のビジネスに必要な、いわゆる「投資」として位置づけるべきだと思っています。その取り組みによって、最終的に消費者に評価され、選ばれるような製品や企業になるのではないか、ネスレ日本としても私個人としても、そう思っています。
現時点では、消費者や企業も含めて、使い道がなかったものをもう1回何か別の形で使うという考え方が、そもそも根付いていないと思います。そのため、私たちの事例を通して、行動変容につながればいいなと考えています。
日本には、ものづくりはもちろん、いろんな技術を持っている会社があることを、今回ご一緒して改めて知ることになりました。そうした技術が使えないことは、もったいないと思います。
アップサイクルを通して、1社の経験値からは全く思いもよらなかったものが生まれていく面白さを知りました。プロジェクトの第2弾も検討中で、フジワラテクノアートさん、リマテックR&Dさんらと食品残渣のアップサイクルに取り組む予定です。
一般社団法人アップサイクルを通して、今後は衣服に限らない、さまざまな取り組みを消費者のみなさんに届けていきたいと思っています。
一般社団法人アップサイクル
事務局長
産経新聞社を経て、ネスレ日本株式会社に入社。
使用後の紙資源や食品残渣の有効活用を模索する中で、企業や自治体が連携できる場を作りたいと考え一般社団法人アップサイクルを設立。
未利用な資源を価値あるものに生まれ変わらせながら、消費者に届けるために仕組み作りを目指している。