2022.09.16

京都伝統の「西陣織」が先端技術とコラボレーションして 究極の美を追求する「Ambient Weaving」

オーストリアのリンツで開催されるアルスエレクトロニカは、芸術、先端技術、文化の祭典で、メディアアートのイベントとしては世界最大級の規模を誇る。9月7〜11日に開催されたアルスエレクトロニカ 2022のSTARTS(Innovation at the Nexus of Science, Technology, and the ARTS)部門にて、株式会社ZOZO NEXTが東京大学筧康明研究室、株式会社細尾とともに共同開発した「Ambient Weaving」がHonorary Mention(栄誉賞)を受賞。

ZOZO NEXTでこのプロジェクトを担当した中丸啓氏、東京大学筧康明研究室を率いる筧康明氏に続いて、株式会社 細尾の代表である細尾真孝氏に話を聞いた。

今回の受賞作である「Ambient Weaving」について、株式会社 細尾の視点での想いをお聞かせください。京都伝統の「西陣織」という伝統工芸との関係性についてはどうお考えでしょうか。

何事においても、細尾として何かに取り組む際に、西陣織の1200年の歴史のなかで、「なぜ今これをやるのか」という問いは自ずと生まれてきます。1000年前、500年前と変わらない「究極の美の追求」 「美とは何か」という本質的な問いに答え続ける。その中でさまざまな技術が生まれてきた。それを踏まえると、このような問いに答えることはある種の使命のようにも感じるんです。

また、元々、多種多様なマテリアルを複雑な構造で織り込むことができるという西陣織の特性を活かし、先端的なマテリアルを織り込めないかという発想がありました。 現代のコンテクストにおいて、この発想をどのようにアウトプットするかということを考えたときに、有史以来、 環境と人との間に在り続けた「織物」を用いて、人と環境との関係性を再発見するような展示を開催しようと思いました。

美を通して環境の変化という目に見えない事象を感じることができるプロジェクト

受賞した感想をお聞かせ頂けますでしょうか。

工芸とテクノロジーの協業という挑戦的な取り組みが評価されたことを、非常に光栄に思います。

(株式会社 細尾からの視点で)今回のプロジェクトの醍醐味とはどんなものだったでしょうか。

テキスタイルを通して外部環境そのものを美しく展示することで、単に意匠的に美しいものを見るだけでなく、美を通して環境の変化という目に見えない事象を感じることができる、という点が大きいかと思います。

今回の展示では、意識の向け方や情報を感じ取るプロセスを変えるだけで些細な変化に気づくことができる、ということを表現できたかと思います。毎日同じ道を歩いていると、季節や気候による景色の微細な変化を楽しむことができる。そのような精神的な豊かさにもつながるのかなと思っています。

画像: 布の緯糸に特殊なチューブを織り込み、その中に色素の入った水が染み込んでいくことで色が変わる“Drifting Colors”。「Ambient Weaving」の作品の1つ
布の緯糸に特殊なチューブを織り込み、その中に色素の入った水が染み込んでいくことで色が変わる“Drifting Colors”。「Ambient Weaving」の作品の1つ
画像: 熱によって色が変わるロイコ染料を用いた“Wave of Warmth”
熱によって色が変わるロイコ染料を用いた“Wave of Warmth”
アルスエレクトロニカ 2022での出展についての想いをお聞かせください。

この取り組みを世界中の方々にご覧いただくことは非常に意味のあることと考えています。

新たなる挑戦への姿勢を常に持ち続けたい

普段の活動についてお聞かせください。他業界とのコラボレーションなども行っているのでしょうか。

常に織物の新たな可能性を模索し、挑戦を続けています。近年では、レクサスと協業し、西陣織を標準素材として車両内装に取り入れる業界では初の試みに挑戦しました。初めてオファーをいただいた時は、不可能だと思いました。自動車の内装材には高い耐久性や不燃性が必要であり、そのような素材を織物で実現することはとても困難だと思ったからです。しかし、工業品と工芸品の垣根を超え、新しいものを生み出したいという強い思いから、このコラボレーションに取り組むことを決意しました。実に4年かけて新素材を開発し、遂に実装に至った時の感動は忘れられません。

画像: レクサスとの協業で西陣織が内装に取り入れられた
レクサスとの協業で西陣織が内装に取り入れられた

また、昨年は、西陣織の歴史の中でまだ織り込まれたことのない「ヘンプ」を使用したコレクション「Heritage Nova」を発表しました。ヘンプは古来より神事に用いられ、1万年の歴史を持っています。江戸期の大麻布に触れた時、自分のイメージとは全く異なるその質感に衝撃を受けました。固くゴワゴワしていると思っていた大麻布が、これほど白く、柔らかいものであると知り非常に感銘を受けました。古いものの中に新しいものを見出した瞬間でした。

1万年前から人類と共にあった大麻の糸を、西陣の歴史に織り込むことで、西陣織の連綿たるヘリテージへと接続し、ヘンプとシルクが生み出す特有の質感を、細尾ならではの複雑な構造による立体的な表現で織り上げました。このコレクションは、今年6月に開催されたミラノサローネにも出展し、海外でも高い評価をいただきました。新たなる挑戦への姿勢を常に持ち、さまざまな開発を続けていきたいと思っています。

画像: 「Heritage Nova」の出展の様子
「Heritage Nova」の出展の様子
今回のプロジェクトについて、今後の展望を教えて頂けますでしょうか。

技術と素材のより高いレベルでの融合とそれにより生まれたテキスタイルと環境あるいは身体との調和。この2軸をどう交わらせるかが今後もテーマになってくると思います。布は常に身体と環境の間にあると考えると、「第2の皮膚」とも捉えることができます。今回の作品のように、布が身体機能を拡張する。あるいは シェルターとしての布そのものが空間に拡張し、「第3の皮膚」として建築のような役割を果たすことも考えられます。いずれにせよ、テキスタイルそのものだけに注目するのではなく、身体、あるいは空間を変容させるための膜として新たな可能性を見出す必要があるのだと思います。

パートナー企業である株式会社ZOZO NEXT、および東京大学筧康明研究室に対する想いをお聞かせください。

今回の取り組みを「Ambient Weaving」として展示発表し、光栄な賞をいただけたのは、ZOZO NEXTさん、筧さんの素晴らしい技術と知見のおかげだと思っています。この展示に留まらず、ぜひこの挑戦をその先へと共に進めていければと思っています。

西陣織が現代のテクノロジーと融合しながら、今後どんな姿を見せてくれるのか。非常に楽しみだ。

PROFILE|プロフィール
細尾真孝(ほそお・まさたか)

株式会社 細尾 代表取締役社長。元禄年間に織物業を創業した西陣織老舗、細尾家に生まれる。大学卒業後、音楽活動とジュエリー業界を経て、2008年に株式会社細尾に入社。2012年に京都の伝統工芸を担う同世代の若手後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。西陣織と最先端の技術の融合により、テキスタイルの可能性をさらに広げる活動を積極的に行なっている。

#Sustainability
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