2021.08.09

遊び心から新しい領域を導く:スマートテキスタイル開発から見えた可能性

#Project Foil
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ZOZOグループ初のテキスタイル開発に挑む“Project Foil”。株式会社 細尾ならびに東京大学大学院情報学環 筧康明研究室と共に取り組んだ「機能性と美を両立する新規テキスタイルの開発に関する共同研究」においては、伝統工芸と先端素材およびインタラクション技術を組み合わせた作品が生み出された。現在開催中の成果展示「Ambient Weaving ── 環境と織物」 では、環境温度による色彩の変化、コンピュータ制御による有機ELの発光、紫外線照射による硬化などを用いた、5つの作品が公開されている。

このような新たな領域に挑む研究開発プロジェクトは、どのように実現したのか?そこから見えてきた、スマートテキスタイル開発の課題と可能性とは?今回は、このプロジェクトを率いるZOZOテクノロジーズ・MATRIXの田島康太郎、中丸啓の両名にインタビューを行った。

PROFILE|プロフィール
田島 康太郎

Director、ZOZOテクノロジーズ新規技術開発とその事業化を行うMATRIX部門に所属。素材やデバイスを活用したスマートテキスタイル開発ならびにテーマとしてファッションテックを取り扱うオウンドメディアを統括。

PROFILE|プロフィール
中丸 啓

研究者、ZOZOテクノロジーズ新規技術開発とその事業化を行うMATRIX部門に所属。博士(政策・メディア)。柔らかな機能性素材やデバイスの開発と、それらを活用したインタラクション・UX設計を専門とする。論文や特許など技術領域を軸に、Ars Electronica Festival等での作品展示も展開する。ACM DIS 2019 Best Paperなどを受賞。

挑戦できる環境で何をやるのか

まず、今回のプロジェクトでのそれぞれの役割を教えてください。
中丸:

今回、3者の共同研究を進めていくにあたり、ZOZOテクノロジーズは織物に機能を付与するためのデバイスや材料の選定、パートナー企業様との交渉を中心に担いました。

私は元々、電子デバイスの研究開発の業務に10年ほど携わっており、素材そのものやそれらを応用したデバイスの開発を行ってきました。また、博士課程では布などの柔らかい素材に多様な認識機能や表出機能を埋め込む研究をしています。今回のプロジェクトメンバーである細尾真孝さん、筧康明准教授とは、特殊な機能を有したテキスタイルを共に開発した経験があります。

田島:

私は、パートナー選定を経てアライアンスを組むなどのディレクターのような役割を担当しました。

また、前職では中丸と同じメーカーに所属しており、6年間ほど半導体の製造や生産プロセスに携わっていたのですが、織物の構造を細かく見ると、電子デバイスや半導体ととても近いんですよね。初めて株式会社 細尾の工房に訪れた際に細尾さんと「織物はプログラミングの起源だ」という話をしました。そういった意味で、自分の過去の経験が活きた部分もあります。

今回のプロジェクトは、どういった経緯で立ち上げられたのでしょうか?


田島:

先ほども中丸が述べた通り、もともと中丸が博士課程在籍中に携わった細尾と東京大学のプロジェクトがあり、そこから弊社CINOの金山と共に「美しいスマートテキスタイル」について考え始めました。これまでのスマートテキスタイルは機能に焦点を当てたものが多かったのですが、ZOZOグループらしいスマートテキスタイルを考えたときに、意匠に目を向けた開発は新しい取り組みとなるのではないかと。

事業的な目線も必要なため、どうやってビジネスとして展開していくか、技術をどのように広げていくかを意識しましたね。

中丸:

スマートテキスタイルは、マーケットレポートですでに約6,000億円規模と言われていて、将来的には2兆円にもなると期待されています。本当にそこまでの規模となるかは疑問もありますが、逆にその不確実性の高いところに挑戦させてくれるような俎上がZOZOテクノロジーズにはあり、せっかくチャレンジできるなら、他とは違うことをやってみたいと思っていました。

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テキスタイルだからこそ、という問いへの対峙

では、実際に開発はどのように進められたのでしょうか?
中丸:

最初は、織れそうで面白そうな素材を可能な限り出してみることから始めました。プロジェクトメンバーで情報収集して共有し、試行錯誤しながら進めていきました。

田島:

制作を進めるなかで、却下になったアイデアもたくさんありますね。私は当初、スマートテキスタイルやヒューマンコンピューターインタラクション(HCI)の領域は全くわからず、潮流を把握するために論文は数百本は読みました。あとは周囲からの情報収集も積み重ねて、手当たり次第に当たって。

中丸:

私は、物理信号を光・水・温度といった視点から整理し、その掛け合わせからなる物理現象を書き出し、それに当てはまる材料を考えて「これなら織れるかも」と思ったものを出していくようなこともしましたね。また論文を読み、手付かずの部分を探したりもしていました。

数多くの候補にあたるなかで、特に興味深かった素材などありましたか?
田島:

ここはおそらく、それぞれ違う答えを持っているかと思いますが、織る材料を選定する際に意識したことは、通常の西陣織と織り工程を変えないことです。この前提のもとで色々な材料に当たっていきましたが、私が特に驚いたのはシリコンチューブが織れたことです。あの時はテンションが上がりましたね。シリコンチューブを西陣織の織機にかけても製造生産の工程が壊れないとわかったときは、すごく面白いなと思いました。

中丸:

縦糸にも織れたのは、発見でしたね。
私の方は、PDLCですね。柔らかいPDLCというのが、これまで用途として必要とされてこなかったこともあって、織られているものを見たことがありませんでした。今回、意匠にフォーカスした開発をすることで初めて、新しいリクワイアメントが出てきて、あれだけ長く、しなやかなPDLCを見れたのはよかったですね。

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では、スマートテキスタイルの開発というところで感じた難しさ、新しさみたいな部分があれば教えてください。
田島:

技術的なところで難しかったことは、あまり無いですね。ただ、踏み込めていない部分が結構多く残っています。ひとつは西陣織の織機そのもの、織り工程に対しては、もう少し違う変化をもたらせば、さらに新しいスマートテキスタイルの表現ができるのではと感じています。今回は織る素材そのものにフォーカスしたこともあって、他のところに目を向ける余裕がなかったかなと思います。

中丸:

今、世の中にある電子デバイスは中央集約型なんですよね。マイコンが優れた処理能力を持っていて、そこに半導体チップが乗っかるだけで様々な情報が取れてしまう。
それに比べてスマートテキスタイルの場合、構成要素にファンクションが入っているので、作用するエリアがすごく広い。構成要素の機能そのものはあまり複雑でないというトレードオフが一般的にはあります。

テキスタイルならではとするには、布としての質感を維持したまま、機能が統合されている状況を作って見せる必要があると考えていました。ディスプレイで色が変わるのはスマホ上では簡単ですが、大きなサイズの布をディスプレイ代わりとして、空間ごと変わるような形で変化を感じられると、変化の可視化をしている点では同じでも、印象自体が変わってくる。

ウェアラブルって、付けられる、着られるという意味ですよね。デバイスが小さくなれば、テープで貼ったり、縫いつけたりしてウェアラブルにすることはできますが、私たちが普段身に付けているものは、ある程度サイズ感があるもの。そこ全体に機能を埋め込むとなると、デバイス自体を薄めて伸ばす形になる。本当にその必要があるのか?という論点もあって、まだここにきちんと意味を提示できていないことが、スマートテキスタイルやウェアラブルデバイスが普及しきれていない現状の要因にもあると思っています。

遊び心から生まれる新しい領域への期待

プロジェクトを通じて、スマートテキスタイルの可能性として感じた部分はありますか?


中丸:

まだまだ意味づけのような部分に余白も多いからこそ、それがすごく簡単に作れたり、表現できる状態が広がっていったときに、人間は使い方を見出していくんじゃないかなと。たとえばハイパーヨーヨーは、ヨーヨーにベアリングひとつ乗せただけで流行りましたよね。人ってある程度アクセスができて、その使い方さえわかると遊び出すんですよね。

ファッションは機能から進んできたものと、人々の遊び心から来たものの両面があると思います。近年は機能面からの進化が大きいなかで、遊び心から新しい領域がやってくるのかなという淡い期待を持っています。

田島:

デバイスが中央集権型になっていることや、小型化していることを思うと、それこそ糸のような最小単位の構成要素にファンクションを持たせやすくなっていると思っています。すごく広いインターフェイスだけど、それぞれにマイコンが詰まってるみたいなことも、今の技術開発の進展では起こりうるのではないか。そういう意味で、スマートテキスタイルのもつ可能性は大きいと個人的には感じています。

画像: (左から)中丸啓、田島康太郎
(左から)中丸啓、田島康太郎
では最後に、次に挑戦してみたいことを教えてください。
中丸:

次は、素材から構造の方にも取り組みたいですね。今回は糸や箔といった織物の構成要素に組み込むというところを第一歩としましたが、織り機へのアプローチも並行して進んでいるので、素材×構造に踏み込んだときに、実現できることが指数的に広がるんじゃないかなと期待しています。

田島:

あわよくば、織物の構造の中で3次元的に展開したいですね、3次元だから成立する新しいスマートテキスタイルを提示して、テキスタイルの可能性の大きさを感じてほしいです。

Foilはテキスタイルへの取り組みということもあって、デザイナーやクリエイターの方々に見てもらいたいとプロジェクト開始当初から思っていました。僕らはものづくりが専門なので作ることにフォーカスしがちなのですが、一般消費者の方のニーズを理解し、スマートテキスタイルを使いたいと思ってもらうためには、彼らの役割が大きい。なので、デザイナーやクリエイターの方々が見て感性的に動かされる、そういったものを投げかけるテキスタイルを作ることが、僕らがやるべきことかなと。

次のプロジェクトでも同じように、訴えかけて反応してくれるようなクリエイターさんたちと出会えるといいなと思っています。

中丸:

私も同じ気持ちで、作ったものをエンドユーザーの方々に使ってもらいたいと思っています。今回は展示会という形式でお見せしましたが、そこからどう使い、どうやってプロダクトに展開していくかに今後は取り組んでいきたいですね。

プロダクト化したときに、世の中の人がどんなリアクションするのかにすごく興味がありますし、そこに取り組んでいくことで、スマートテキスタイルの可能性として自分のなかでさらに解が出来ていくような気がしています。

Photo by reckhahn

#Smart Textile
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