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2024.04.17

卵殻膜から生まれた滑らかな新繊維「ovoveil」のサステナブルな素材とは?

前回インタビューを行った京都大学教授 / アーティストの土佐尚子氏が手がけるファッションブランドの「Sound of Ikebana(サウンドオブいけばな)」。今年2月にニューヨークで発表された2024-2025年コレクションで一部のルックの素材として採用されたのが、卵殻膜(卵の卵殻の内側にある薄い膜)から作られた新素材「ovoveil(オボヴェール)」だ。
日本国内で年間26万t廃棄される卵殻のうち、1万t出る卵殻膜をアップサイクルし、新素材ovoveilを開発したのは京都に本社を構えるバイオテック企業の「ファーマフーズ」だ。長年、天然由来の原料から機能性素材を開発することをミッションに掲げ研究開発を行ってきた同社が、優れたバイオマテリアルとして注目し研究開発を行ったovoveil。昨年秋にデビューした注目の新素材の魅力について開発担当者に話を伺った。

神秘的な素材である“タマゴ”が発想の原点

はじめに、ovoveil開発のきっかけについて教えてください。
長年弊社では鶏の卵を研究し、さまざまな事業を行ってきました。21日間温めるとひよこになる鶏の卵は、生命の誕生に必要な物質が凝縮した神秘的な素材です。卵の中から生命の創造や維持に必要な成分を取り出すことに着目したのが弊社の原点です。
卵から創出される食品や化粧品の機能性素材を研究し、さまざまな商品の開発を行っているのですが、卵の白身や黄身の研究をしているなかで、卵殻膜(卵の卵殻の内側にある薄い膜)を使って何か新しい繊維が作れないかと考えるようになりました。
卵殻膜は多機能なタンパク質の膜で、抗菌作用や紫外線をブロックする機能を持った膜なのですが、腐りやすく、集めてリサイクルするのが難しいとされています。
年間1万t出る卵殻膜の一部は弊社でも開発をしている化粧品などに使われているのですが、卵殻膜を使ってテキスタイルを開発すれば、肌に優しい繊維ができるのではないかと考えました。
研究開発をスタートし、足掛け7年で昨年初旬にやっと製品化ができました。作った繊維の半分は生産量の多いアパレル業界で使用したいなと考えています。
また、卵は文化や宗教の制約があまりなく、世界中の多くの人に食べられているため、世界中のどこにでもビジネスチャンスがあると思っています。
ovoveilはどのような特徴を持っているのでしょうか?
シルクやカシミヤに近い滑り感のあるしっとりとした肌触りが特徴です。現在、開発した原綿、糸、テキスタイルをovoveilとして、いろいろなパートナーさんと協業して取り扱っているのですが、触り心地のよさは好評をいただいています。
また、肌への美容効果についてもエビデンスを取得しています。、被験者の左右の腕にOvoveilのアームカバーと通常のアームカバーを28日間つけてもらい、肌にどんな変化が出るかの実験を行いました。
その結果、ovoveilを使用した方の腕でのみ、肌のバリア機能が向上し、肌のうるおいも向上したという結果が数字で証明されました。コスト面においてもシルクなどと比較すると安価ですので、風合いの良い美容繊維としてご活用いただけると考えています。
ovoveilで仕立てたニット
ovoveilで仕立てたニット

サステナブルに作られる新素材

ovoveilの製造工程について教えてください。
割卵工場で発生する卵殻を衛生的に回収し、提携する企業の分離設備で分離して使用しています。回収した卵殻膜は特殊な条件で可溶化し、レーヨンの原料と混合して繊維化しています。製法は世界初のものとなりますので、現在特許を出願中です。
滑らかで独特な質感を持つ卵殻膜を使ったovoveil
滑らかで独特な質感を持つ卵殻膜を使ったovoveil
糸となったovoveil
糸となったovoveil
製造に使われる素材もサステナブルなのでしょうか?
再生セルロース繊維は環境負荷の低い繊維で、原料となるパルプもFSC認証(森林認証制度)のものを使用しているため、ovoveilはサステナブルに生産できる素材だと言えます。
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#Sustainability
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