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2024.01.30

ファスナー界のリーダー「YKK」のテクノロジー【後編】ファスナーとサステナビリティ

服・バッグ・ブーツなどあらゆるファッションアイテムにつけられている「ファスナー」または「ジッパー」。テントから自動車のシートまで「何かを包む」道具を成立させるために必須のパーツである。
その市場において絶対的と言える地位を築いている企業が「YKK」だ。年間300万km以上のファスナーを生産し、スナップ&ボタン・面ファスナーなどの「留め/外し=ファスニング」商品全般を含めると、商品総数は10万種類以上。
本記事ではYKK「テクノロジー・イノベーションセンター」の協力を得て、目立たない存在でありながらファッションに欠かせないファスナーに隠された技術の一端を取材した。
【前編】ではファスナーならではの品質要素「摺動(しゅうどう)感=ファスナーを開け閉めする際の引き心地」に焦点を当てた。そこには「触感をデザインする」ためのユニークな技術があった。
【後編】は近年ファッション業界でも大きな課題となっている「サステナビリティ」について。エシカルを掲げる新興ブランドや自然派のアウトドアブランドだけでなく、LVMH・ケリング・プラダなどの巨人が続々とリアルファーからの脱却やサプライチェーンにおけるカーボンニュートラルを進めていることからもわかる通り、持続可能性への取り組みはラグジュアリーの必須条件でもあるようだ。
では、ファスナーにおいてはどうだろうか?
本記事では特に「資源循環=リサイクル」について取材。ペットボトルや紙製品ではもはや当たり前になっているリサイクルだが、ファスナーというパーツを通して考えるとまったく違う世界が見えてくるという。
同社・嶌田和彦さんに話を聞いた。

再生材という「未知」の素材

ファスナーは、分解すると3つのパーツからなっている。手で持って動かす部分「スライダー」、噛み合う歯の部分「エレメント」、そして生地へ取り付ける際に縫製するなどの部分「テープ」である。
各部の素材は銅や亜鉛、ポリエステルなどからなり、複数の素材が組み合わされている場合がほとんどだ。
ファスナーの構造
ファスナーの構造
「NATULON®(ナチュロン)」は1994年に発売された、テープ部分に再生PETを使用した環境配慮型ファスナーだ。近年この商品をめぐる状況が激変していると嶌田さんは話す。
「YKKではサステナビリティへの注目が高まる以前から、環境配慮型商品の開発に取り組んでおり、近年ではそれらの商品に対する注目度の高まりを感じています。環境コンシャスな国・地域・企業のお客様が増え、こうした状況は今後も続くでしょう。YKKでは、2030年までにファスニング製品の繊維材料を『100%持続可能素材化』することを目標としています」
NATULON®
NATULON®
70ヶ国以上に進出しているYKKだからこそ、1本のファスナーから世界のファッションの潮流が見える。
NATULON®はテープ部分のみ再生材だったが、テープとエレメントに再生材を使用した「NATULON Plus®」というアップデート商品も販売を始めている。
ただし課題もあるという。
「再生材料はバージン材料と比べても品質は同等です。ただし、製造上の取り扱いは少し異なりますね。同じ品質を維持する為に様々な工夫や改善を重ねていますが、未知の素材と対面している感覚です」
YKKでは再生材を扱うノウハウを蓄積しながら新しい製法に取り組んでいる。そして、ゆくゆくはさらに越えるべき壁があるという。
「現在のNATULON®で使用している再生材は、必ずしも当社のファスナーから再生した素材ではありません。いずれはファスナーからファスナーを再生できればと考えています」

高すぎるリサイクルの壁

そう話す背景には、ファスナーが宿命的に背負っているリサイクルの難しさがあるという。
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