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【リレーコラム】「ハーフ」の身体とファッション・メイク――「#和顔ハーフ」から考える」(有賀ゆうアニース)

PROFILE|プロフィール
有賀ゆうアニース
有賀ゆうアニース

東京大学大学院学際情報学府博士課程、日本学術振興会特別研究員。専門は社会学、人種・エスニシティ研究。複数の人種的背景を持つ、いわゆる「混血」「ハーフ」「ダブル」と呼ばれる人びとについて研究している。論文に「「ハーフ」は偏見・差別経験をいかに語りうるのか」『ソシオロゴス』46号(2022年)、「戦後「混血児問題」における<反人種差別規範>の形成」『社会学評論』290号(2022年)などがある。

「#和顔ハーフ」

「ハーフ」を研究テーマにしている仕事柄、SNSで「ハーフ」に関係するトピックを確認することを習慣にしている。(1)最近、Instagramに「#和顔ハーフ」というハッシュタグがあることを友人に教えてもらった。「和顔」、つまり日本人らしい顔をした「ハーフ」のことを表すものらしい。試しに検索すると、たしかにそれらしき容貌をした子どもや若年女性のファッションやメイクを写した写真がたくさん出てくる。
インド人の父を持ち、初対面の相手から事あるごとに「どことのハーフなの?」とか「英語とかインド語できるの?」といった類の質問―というか詮索―を受けてきた筆者としては、「こういうのを『和顔』というのか」と膝を打つとともに、「なぜあえてこうした名乗り方をするのだろう?」という疑問も湧いた。

支配的な「ハーフ」像とその問題

「ハーフ」と聞いてどんなイメージを思い浮かべるだろう。俳優、モデル、アイドル、アスリート...…メディアで登場するさまざまな有名人の姿が思い浮かぶかもしれない。「ハーフ」研究では、日本における「ハーフ」像がある特定のイメージに偏ってきたこと、それをメディアが助長してきたことが指摘されてきた。(2)白人系で、堀が深くて、二重まぶたで、眼がぱっちりしていて、鼻が高くて、容姿端麗で、スタイルが良くて...…といった「ハーフ」像のことだ。
これを支配的な「ハーフ」像と呼んでおこう。美容・ファッション業界では「ハーフ顔」や「ハーフ風メイク」というように「ハーフ」を冠したジャンルが定着しているが、こうしたジャンルでも、支配的な「ハーフ」像に合った外見上の特徴が強調されたりしている。
もちろん最近では、大坂なおみや八村塁といった世界的に活躍する黒人系「ハーフ」のアスリート、齋藤飛鳥や池田エライザ、ゆきぽよといったアジア系「ハーフ」の芸能人も登場し、こうしたイメージにとどまらない「ハーフ」像も広がってきてはいるのかもしれない。けれども全体としてみれば、メディアに出たり、日常的にイメージされる「ハーフ」がこの支配的な「ハーフ」像に偏っているという現実がある。
当たり前だが、一口に「ハーフ」と言っても、その外見の特徴は極めて多種多様だ。白人系も黒人系もアジア系もラテン系もいるし、全員が全員二重まぶたなわけでも、スタイルが良いわけでもない。こうした実態とはズレた形で支配的な「ハーフ」像が強調されることは、当事者にも無視できない影響を及ぼす。
たとえば、「ハーフ顔」に対する周囲からの過剰な期待を受けたために、メンタルヘルスに問題をきたす人びともいる。(3)「メディアが勝手にやってるだけ」とか「大した問題じゃない」とは片付けられない現実がそこにはあるのだ。

「#和顔ハーフ」の新しさと古さ

「#和顔ハーフ」は、一方ではこうした支配的な「ハーフ」像に挑戦するものといえるかもしれない。堀が深く、鼻が高い「ハーフらしいハーフ」に注目が集まるなかで、それとは異なる「ハーフ」像を打ち出しているという意味では、一定の新しさがあるのかもしれない。
しかし他方では、それは旧来の支配的な「ハーフ」像に依存してもいる。なぜなら、「和顔ハーフ」という名乗りが意味をなすのは、「和顔」ではない、つまり支配的な「ハーフ」像を標準的・一般的な「ハーフ」として前提にしているからだ。あるいは、この前提があるからこそ、「#和顔ハーフ」は一つの特異なジャンル―いわば「ハーフらしくないハーフ」―として成立しているといえる。
既存の支配的な「ハーフ」イメージに対してオルタナティブな表現かもしれない一方、実際はそのイメージに依存してもいる。「#和顔ハーフ」にはそんな両面性があるように思われる。
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