京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程。専門は教育社会学。現在は、定時制・通信制高校を経由する女性の移行過程について質的調査を行っている。
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毎日登校できる自信がないから通信制高校にいきたい。でも、制服のある高校がいい。
――制服を着たいの?
女子高生になりたいから。JKになりたい。
リレーコラムがまわってきたとき、ぼんやりと「制服」をテーマに考えてみようとおもった。そんなときにふと、ある中学生との会話をおもいだした。
彼女の言葉について考えてみると、「女子高生になる」ことと「制服を着る」ことは、なにやら関係がありそうではないか。定時制・通信制高校(服装自由校)卒業生への聞きとりのなかでも、「“なんちゃって制服”を着ていた」というエピソードは、よく耳にする。
たしかに、公立の全日制なのに私服校だったわたしも、まわりの高校生をみかけたときは「わたしは女子高生っぽくないなあ」なんておもったりしていた。ふりかえってみると、文化祭でAKB48の衣装(言い訳Maybe)をマネしてつくり、クラス全員で着たときは、とても盛りあがった(とくに男子)。
やっぱり、制服を着ることって、「あこがれの女子高生のコスプレ」みたいなものなのかな……。
そんなことを考えながら、いつものようにある通信制サポート校にお邪魔していた。私服の生徒が多いなか、たまたま二人組の制服姿の生徒をみかけて、素直にかわいいなとかんじた。でも、買っても買わなくてもいい学校指定の制服(1) を、なんでわざわざ買ったのだろうと疑問にもおもった。そこでさっそく、彼女たちに話を聞いてみることにした (2)。
***
おおくぼ :高校生になったら制服着たいな、みたいなのはあった?
しおりさん・とうかさん:JK、JK。
とうかさん:なんか、たのしみたいなって。(中学時代の友達と)遊んだりするとき、まわりが制服だから自分らも制服ほしいよなって。
しおりさん:気まずい、かなしいよな。
おおくぼ:気まずい。
しおりさん:ほかの、ふつうの高校っていうか、全日いった子はみんな制服着ているから。ひとりだけ私服はかなしいし。
なるほど、二人のいう「JK」というのは、あこがれという意味だけではなく、「ふつうの高校」という言葉にヒントがありそうだ。
おおくぼ:中学のときはJKってどんなイメージだった?
とうかさん:かわいい、キラキラJK。
しおりさん:夢えがいていたよな(笑)。彼氏つくってバイトしてって。
おおくぼ:夢えがいてたんや。
とうかさん:しおりが中学の誕生日のときにストーリー送ってくれたよな(画像をさがす)。「15歳の私たちは必ず恋人をつくってすごく充実している日々を送ろうね。高校に金髪ロン毛がいますように。キラキラJKに俺はなる」って(笑)
しおりさん:(笑)
おおくぼ:キラキラJKのモデルとかっていたの?なんか、こうなりたい、みたいな。
しおりさん:……でもさ、しおりらさ、体育祭とかないからさ、キラキラの種類がちがうよな。
とうかさん:うんうん。だから、通信は通信生徒なりでがんばろう、たのしもう!みたいな。
おおくぼ:そうか。もともとは学校行事とかのイメージか。
しおりさん:そう。そっちのほうが「青春」ってかんじがする。
とうかさん:体操服とかあるほうが。それ着てスポッチャいったり。あと先生に怒られながらこっそりなんかやるのも青春、みたいなー。
先生:こっそりやってたやん、誕生日会。
おおくぼ:やってたのか。
とうかさん:えーでも許可はえていた。
先生:許可はしたけど、びっくりするくらいのことやっていたでしょ(3)。(しおりさん・とうかさん・先生で、誕生日会の思い出話になる)
二人は、「ふつうの高校」ではないといいつつも、自分たちなりの充実した高校生活をつくりあげているようにもかんじられた。それでも、彼女たちが制服を着ることにこだわる理由はなんだろう。
おおくぼ:やっぱり制服着るとちがうもの。
とうかさん:うん。電車で帰っているときとかに、制服着て帰っている人をみて、あ、自分も制服や、みたいな。ちゃんと同じ学生している気分になる。
おおくぼ:それが私服だったらどう?
しおりさん:たぶん向こうも、自分が制服やったらこの人(自分のことを)JKやなっておもう。けど、自分が私服やったら、自分は「あっちは学生やな」っておもうけど、向こうは絶対(自分のことを学生だと)おもわへん。「何者?」ってなるよな。
とうかさん:なんかなー。同じくらいの年齢なはずなのに、かなしい気分になる。
おおくぼ:かなしい気分かあ。
とうかさん:同じ(年齢)だけど、たぶん向こうからしたらきっと中学生の遊び帰りとかにみえるんかなって。
わたしはてっきり、「キラキラJK」というあこがれの姿になるために制服を着るものだとおもっていた。しかし、二人の話を聞いていると、まわりの人たちから「ふつうの高校生」にみられたい、そして、「ふつうの高校生」としてすごしたいといった、もっと切実な思いがあるようにかんじられた。
また、先生の話によると、登校しづらい生徒のなかには、「明日着る服で悩んで寝れない」と電話をかけてくる生徒もいる。「毎日同じ服を着ている」や「私服がダサい」とおもわれたらどうしようといったことで悩んでおり、ほかの生徒からの目を気にしているからだという。
制服があることで、「今日どの服を着るか」という悩みを一つ減らせることも、生徒らが制服を買う大きい理由であると語る。じっさい、入学時に制服を購入する女子生徒は増えてきているとのこと。
先生:昨日食べた物だって忘れてしまうのに、昨日と同じ服を着ているとおもわれないか、そこは気にするんですよ。やっぱりおとなが考えている以上に、まわりからどう見られるか、それは生徒たちにとってすごく気になること。
さいごに、いまの高校生活についてたずねてみた。
とうかさん:やっぱりおもっているJKとちがうところはあったよな。もっと遊べるかなっておもっていた。
おおくぼ:おもっていたのとちがう。
しおりさん:ずっとバイトしなくても、もっと学校とバイトうまく両立できるかなっておもっていた。
とうかさん:もうバイトバイトバイトってかんじよな。
しおりさん:バイトせな無理。
とうかさん:もっと遊びにいけるかなとおもったけど、おもった以上にお金なくて。
しおりさん:なんかさー。なんというか、まわりの友達にはいいひん生活してるくない? みんなは、朝何時から何時まで学校にいってとかだけど、しおりらは、昼から夜までバイトとか。きもい生活しているよな。
とうかさん:ちょっと違うよな。平日学校じゃなくて、平日のバイト、みたいな。
おおくぼ:そこの学校感が足りないってこと。
しおりさん:うん。でもお金がないから(バイト)するしかない。
おおくぼ:高校らしさってどっかで埋め合わせしてる?
とうかさん:遊びにいくとか。……制服でカラオケいったときとか高校生しているなって、ちょっとたのしくない? とうかだけ?
しおりさん:あー。友達から「学校帰りで何人かで集まっているから、いま制服だけどカラオケきい」みたいにいわれたら、その日ふつうにパジャマだったけど、制服に着替えていく。
とうかさん:わかるー! いまからご飯食べる?とか友達から連絡きて、その友達制服だったら、ちがう服着ていても、家帰って制服に着替えていく。
おおくぼ:わざわざ着替えるんや。
とうかさん:だから、いつ誘われてもいいように制服着て学校に来ている。
話の終わりがけ、しおりさんが一枚の写真を見せてくれた。それは、中学校の先生に同級生と会いに行ったときの写真だった。先生を囲うように写真に写っているが、しおりさんだけ私服姿で、ほかの高校生は制服姿であった。
しおりさんは、「これめっちゃ気まずいよな」「このときに、これから制服着ようとおもった」と話していた。まわりがみんな同じでひとりだけちがうというのは、たしかに気になるものだとおもった。
***
取材をした二人の生徒は、まわりの高校生よりも働かなくてはならない環境におかれながら、「体育祭がない」「平日にバイト」といった、一般的なイメージとはことなる高校生活をすごしている。そんな彼女たちにとって制服を着ることは、「JK」になることだった。
それは、高校生である自分が、あこがれの姿になっていくという意味ではなく、あくまで、まわりの高校生と同じ、「ふつうの高校生」になるためだという意味あいが大きくあるようにかんじられた。
服装自由校に通う彼女たちが制服を着る意味は、「あこがれの女子高生のコスプレ」ではなく、いわば、「ふつうの高校生のコスプレ」のようなものだといえるだろう。そこからは、着る服で悩む生徒にもみられるように、ときに過剰に、まわりの目を気にせざるをえない若者の状況も、垣間みえるものだった。
彼女たちは制服を着ることによって、自分たちがまわりと同じ高校生であることを守りながら、そして、自分たちなりの高校生活をつくりあげながら、日々をすごしている。
(1) この学校では、指定の制服は用意されているが、購入は生徒の自由となっている。
(2)2022年11月11日インタビュー。
(3)以下の 写真は全て、しおりさん・とうかさんによる提供。