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2023.05.22

【リレーコラム】魔女と蜘蛛とサイボーグ(まどかしとね)

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まどかしとね
まどかしとね

ウィッチクラフトの実践者・円香と野良のダナ・ハラウェイ研究者・逆卷しとねのキメラにしてスパイラル・ダンスの実践例。

どちらもスパイラル・ダンスのなかに拘束されているが、わたしは女神よりはサイボーグでありたい。[1]

今日、わたしたちが魔女という言葉から連想するのはどのようなイメージ、物語でしょうか。魔女狩り、マレフィキウム[2]、民間の医療家、美魔女? それとも羽の生えた恐ろしい怪鳥? あるいは、森に住む自立した賢い女性の姿でしょうか? 魔女は人々の望みやおそれが投影されるスクリーンの役割を果たしてきました。

とりわけ初期近代に宗教的異端者やハンセン病患者、ユダヤ人に対する蔑み・恐れが「魔女狩り」と呼ばれる大量殺戮を引き起こしたことは知られています。その被害者の多くが女性でした。女性の大量虐殺、いわゆる「フェミサイド」としての側面も、魔女のイメージを語る上では避けては通れません。

また、現代の魔女イメージは、産業革命の時代に流行したロマン主義と呼ばれる文化運動の影響も受けています。男性の領域とされていた科学や合理性、理性から外れる、主観性、感情、反抗、自然という女性に特権的だとされる要素を評価するロマン主義の影響のもと、男を誘惑し破滅に導く「ファム・ファタール(宿命の女)」のようなロマンティックな魔女像が19世紀に創造され、この魔女像は現在にも引き継がれています。

1950年代には、以上のような虚実ないまぜの魔女のイメージを寄せ集めながら魔女術を実践する、現代魔女術復興運動と呼ばれる新潮流が欧米に発生しました。この運動は、新異教主義運動と呼ばれる前キリスト教的な自然崇拝や多神教、アニミズム、シャーマニズムなどが混合した霊性運動のなかでもとりわけ大きな勢力として知られています。なかでも現代魔女宗「ウィッカ」は、キリスト教世界に対するオルタナティブな文化、カウンターカルチャーとして欧米で強い影響力を誇りました。

現代魔女術復興運動はおおまかな枠組みを共有しつつもさまざまな流派に分岐し、実践の水準に至ると一人一派といわれるほど多様であり、一概に語ることはとてもできません。現在ではソロで活動しているソロ魔女も多く、日本でも密かに広がりを見せています。

新しい魔女のイメージはポップカルチャーやファッションのなかにも見られます。CHANELは祖母の記憶につながる幻視的な映像作品『JellyWolf』(2017)を発表。DIORはタロットカードをモチーフにしたコレクションを近年出しており、Gucciのクルーズコレクション(2019)では魔術的実験映像で知られる映画監督のケネス・アンガーが有角神のスウェットシャツを着用しています。サンローランはギャスパー・ノエ監督を起用して魔女映画『ルクス・エテルナ 永遠の光』(2019)を制作しました。

このように多くのハイブランドが、魔女や異教主義のイメージをファッションに取り入れています。日本では、2022年にはフランスで大ヒットしていたモナ・ショレの『魔女 女性たちの不屈の力』が翻訳され、映画の世界では『ミッドサマー』、『ノースマン 導かれし復讐者』、『女神の継承』などのフォークホラーが人気を博しています。新しい魔女や女神のイメージはますますポップ化し、異教主義の世界はフィクションの世界を通して案外身近になってきているのかもしれません。

ポップカルチャーの影響によって魔女に親しみを感じるようになった人も多いでしょう。しかし現代の魔女たちの魔術は決して現実離れしたファンタジーにとどまるものではありません。特に80年代、多くの人たちを驚嘆させた、反核・反戦を趣旨とした魔女の編み物運動(Witch-Weaving)は、女性たちが世界最大の軍産複合体を封じ込めようとした類い稀な政治的アクションとして知られています。

現代魔女術の動向とは無関係ながら、1968年ニューヨークのウォール街に、反抗、知識、独立、女性の力のシンボルとして魔女を用いたラディカル・フェミニストたち「地獄からの女性国際テロリスト陰謀団」(W.I.T.C.H.)が出現し、翌日のダウ平均株価は急落しました。この運動は後に現代魔女術を実践するフェミニスト魔女たちにも影響を与えたと考えられています。このように魔女のイメージは現実を変える政治にも波及しています。

政治的なアクションを起こす現代魔女の潮流は、当然フェミニズムにも関係しています。たとえばアメリカ西海岸には、イギリスからアメリカへやってきた「ウィッカ」とは異なる流れを汲む、フェミニスト魔女が誕生しました。アメリカの70年代のフェミニスト魔女たちは、当時世界を席巻していたウーマン・リブから影響を受けつつも、自分たちの運動にはスピリチュアリティも必要だと考えていました。

魔女たちのスピリチュアリティはキリスト教文化の範疇には収まりません。家父長的な聖書の記述や解釈を女性の視点から批判的に検討するフェミニスト神学から影響を受けて、キリスト教やユダヤ教が家父長制を支える屋台骨であると見抜いた女性たちの一部は聖書を読み直すだけではなく、旧来の信仰を手放し、新たな自らのスピリチュアリティを探し求めました。そのなかには自ら魔女と名乗り、過去の女性たちの名誉挽回を要求し、父なる神ではない女神を崇拝し、家父長制に立ち向かった者もいたのです。こうして、夢の分析や神話の再解釈をするユング心理学や意識していなかった問題を集団のなかで各自が引き出しあう意識昂揚グループの実践が折衷されて、フェミニスト魔女たちの宗教が創造されたのでした。

スピリチュアリティという観点からいえば、女神運動[3]に共鳴していたのは魔女や異教主義者だけではなく、現代美術家もたくさんいました。ナナと呼ばれる巨大な女性の体内に鑑賞者を招き入れたニキ・ド・サンファル、女神の描かれた壁画をコラージュにより再構築したナンシー・スペロ、自ら異教的儀式を執り行い女神とのつながりを探求したメアリー・ベス・エーデルソンなどはその代表でしょう。これら女神アートも現代魔女術復興運動と並行して女性たちをエンパワーメントし、女神を再解釈していきました。

エコロジー運動、フェミニズム、反核運動、アートなどと結びついた魔女を含む霊性運動は、草の根的な豊かな広がりを得るに至りました。しかし他方で、キリスト教/ユダヤ教以前の古代の女神に思いをはせ、女性の身体を賛美したこの運動に対して、第三波のフェミニストから、女性を多産性と結びつけ自然との一体化を志向する傾向が当時の多様化した女性の役割を旧時代に引き戻す、本質主義的性質を帯びているのではないか、という批判を集めることもありました。

そのなかでも、エコロジカル・フェミニズムに対する批判は苛烈を極めました。日本では、80年代半ばに青木やよひと上野千鶴子によるエコロジカル・フェミニズムをめぐる論争(通称・エコフェミ論争)が勃発しました。文化/自然という二項対立のうち、女性を自然の側に配当するという男性優位の文化イデオロギーを前提として受け入れ強化している、という上野による青木批判は的を射ていたとはいえ、この論争の結果、日本ではエコロジー運動とフェミニズムは不幸な離別[4]の道を歩むことになり、エコロジカル・フェミニズムは退潮していきました。冷戦下のアメリカとイギリスでエコロジカル・フェミニズムや女性霊性運動が、国をまたいだ大規模な反戦・反核運動につながったのとは対照的です。

エコロジーとフェミニズム、スピリチュアリティが密接に結びついた欧米の政治的な動向を考えるとき、すべての存在物を機械と有機体のハイブリッドとして呈示する、フェミニズム科学技術社会論の論客ダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」(1985年)を外すことはできないでしょう。とりわけ同論稿の末尾にある「どちらもスパイラル・ダンスのなかに拘束されているが、わたしは女神よりはサイボーグでありたい」[5]という一文は、女神を崇拝するエコロジカルな魔女たちと先端の科学技術に親和的なサイボーグの対立の根拠として長い間誤解されてきました。

アメリカ西海岸における女神崇拝の運動を牽引しスパイラル・ダンスを儀式に採り入れている現代魔女スターホークと、科学技術を研究するアカデミアにいるハラウェイを、それぞれ、女性を自然に近い存在として規定する本質主義者と人間や女性という本質的な存在を否定する構築主義者として解釈してしまえば、青木と上野によるエコフェミ論争の轍を踏み、両者はまるで真逆の存在であるかのように見えてしまうかもしれません。もちろん「聖なるもの」や「母なる大地」という概念に対する忌避感を隠さないハラウェイの傾向に鑑みれば、女神とサイボーグのあいだにそのような懸隔を深読みしたとしても不思議ではありません。しかし確認しておきますが、女神もサイボーグもスパイラル・ダンスに縛りつけられていることに変わりはないのです。

Dedda71 / Starhawk, pagan and eco-activist (sicilian workshop) 2007 / CC BY 3.0
Dedda71 / Starhawk, pagan and eco-activist (sicilian workshop) 2007 / CC BY 3.0

魔女とサイボーグには共通点がたくさんあります。ファンタジーやSFなどの物語のなかに棲んでいる、キメラ的な存在である、テクノロジーに親しんでいる、冒涜的で不純で不自然な存在である、境界が好き、などなど。主題の共通点だけではなく、歴史的事実としてハラウェイはスターホークの活動の影響を受けています。ハラウェイは、80年代初頭、女性運動に発した反核運動が活性化していた頃、スターホークが北カリフォルニアの反核ネットワークであるリヴァモア・アクション・グループ(LAG)のなかで携わっていた抗議活動に触発を受け、自らもカリフォルニア大学サンタクルーズ校のアフィニティ・グループ「他者の代理(Surrogate Others)」の一員としてLAGに参加したという経緯があります。ハラウェイがスターホークから受けたこのような政治的薫陶を思えば、両者のあいだに対立関係を読みこんでしまうのは拙速でしょう。[6]

Fabbula Magazine / Donna Haraway en 2016 / CC BY 3.0
Fabbula Magazine / Donna Haraway en 2016 / CC BY 3.0

本当に魔女とサイボーグを、本質主義と構築主義の対立関係に対応させることができるのでしょうか。魔女についてはすでに紹介しましたので、今度はサイボーグの紹介をしておきましょう。

機械と有機体のハイブリッドと称されるように、サイボーグは自然な人間の血筋からは逸脱した「不自然な」存在です。サイボーグという形象は当時の政治状況と深い関係があります。個人主義を基盤に(白人女性、黒人女性、労働者の女性といった)血筋や生まれによる境遇に縛られた「自然な」カテゴリーの純化を推し進めるアイデンティティ・ポリティクスではなく、サイボーグは、アクションの親和度によってできる血筋とは無縁の「不自然な」つながりをつくるアフィニティ・ポリティクスを推し進めます。

スターホークとハラウェイの対立構図が立ち行かないのは「アジアでマイクロチップをつくり(making)サンタ・リタの監獄でスパイラル・ダンスを踊っている(spiral dancing)不自然なサイボーグの女たち」[7]という表現を見ればすぐわかるでしょう。ここでは第三世界の工場で先端技術の部品をつくる労働と、反核運動で投獄されたスターホークたちのスパイラル・ダンスの両方が、同じ「不自然なサイボーグの女たち」という主体(名詞)に発する実践(動詞)として記述されています。カテゴリー間の対立ではなく、実践のアフィニティによるつながりの政治を志向するサイボーグは、そもそも本質主義と構築主義という対立構図になじみません。むしろ、サイボーグの不自然さにかかれば、どのような陣営に属していようが、マイクロチップと核兵器という先端技術との接触を介して、自然なカテゴリー(名詞)にすんなり切り分けることのできない、汚染された実践(動詞)のキメラ化が進行していくのです。

なぜこのような複雑なことをハラウェイは考えているのでしょうか? アイデンティティで切り分けていけば簡単に世界を把握できるのにそうしないのには理由があります。「サイボーグ宣言」のなかで、サイボーグは一種の神話として呈示されているのですが、それは一神教とは異なり、世界の起源も終わりもない、世界を超越する神もいない神話です。天国や地獄のような世界の外部も、世界を内/外、自己/他者、自然/文化というふうに分けることができる超越的な視点も、どこにもありません。だから分けられないわたしたちはハイブリッドなサイボーグとして存在しているのです。

このように超越が否定された世界のありかたを「内在(immanence)」と言います。内在の世界では、何ごともきれいに切り分けることができないので、モノゴトを安定的に捉えることはできなくなります。ここにあるのはすべてが動いている世界です。このような動的な世界に住まうわたしたちはアクションを起こさずに安穏としていることはできなくなります。アクションを起こすこと。これがハラウェイの狙いです。サイボーグ神話はこの世界を超越した存在から与えられたものではなく、境界の崩壊した世界のなかで自分たちでアクションを起こしつくり続けていくものです。

ハラウェイはこのような内在の政治に、「俗世で生きのびるためのサイボーグ(Cyborgs for Earthly Survival)」というスローガンを与えています。内在するとは、世界の外部や全体を志向することなく、この大地=世俗(earth)にしがみつきながら実践を繰り返していくということです。

実はスターホークの女神の捉え方も、超越的な父なる神を否定する内在を志向しています。スターホークは、80年代を通して女性の神聖化を越えて女神のあり方を拡張し、大きく変化させていきました。スターホークが女神というとき、それは大地に根差したスピリチュアリティと関連しています。女神は必ずしも人格神ではありません。女神は信じるものではなく石のように経験できるものだとスターホークは言うのです。

女神と呼ばれるものは体験に先立つなにか超越的な存在ではなく、「神性が万物にあまねく内在し、万物に具現され、肉体、五感、物体との接触及び肉体に関連したメタファーによって感知しうるもの」の体験のことなのです。[8] たとえば、わたしたちが仲間の眼のなかを覗き込むとき、女神を体験することができます。この意味で神々や女神は力の道筋であり、わたしたちの潜在能力です。女神は、蜘蛛のようにウェブを編む存在[9]でもあります。蜘蛛がその体から糸を紡ぐように、わたしたちも女神の内在的体験を通じて、体からエネルギーの糸を引き出して力のウェブを編むことができるのです。

女神とサイボーグが参加しているスパイラル・ダンスは、まさしく内在の実践例です。スパイラル・ダンスとは、数百人の魔女たちが手をつなぎ、螺旋を描きながら行うダンスです。魔女たちは蛇のようにつながり、渦の中心の方を向いた状態から、中心に向かって時計回りにリーダーが進んでいきます。円の中心に近づいたらリーダーは180度向きを変え、反時計回りに円の外側に向かいます。これを何度も繰り返します。お互いの顔を見つつ、手を握りあったまま歌い、決して手放すことなく、力強く回転し、反復していきます。スパイラル・ダンスの渦中にいる魔女たちは、お互いの眼のなかに自らの姿を見て、自分たちが変化し続ける存在であることを確認し、世界に変化を引き起こすエネルギーの昂揚を共有していくのです。

スパイラル・ダンスには内部も外部もありません。そこには世界の始まりも終わりも現実の問題を解決する答えもありません。そこでどのような力が生成するのか、事前に知ることはできません。けれどもそれでも互いに力を生み出すアクションはその体験を通じて共有されています。つまり、スパイラル・ダンスというアクションがわたしたちの生きている世俗世界そのものであり、その運動だけが世界を生成させることができるのです。[10] 

このような内在の世界という観点からいえば、魔女が世界に感じとるつながりである女神と、技術によって自然と文化が混淆してつくられているサイボーグは、共にスパイラル・ダンスのなかで実践を積み重ね、同時にスパイラル・ダンスという躍動する世俗世界を生み出す同志であるといえるでしょう。魔女やサイボーグといった内在の神話を生きるには、対立ではなくつながりを前提として、この世界をつくりなおす実践を続けていく他ありません。大地に足をつけて、この世俗世界を生きるために。

宇宙に行くことを夢見るテクノロジストは多いけれども、この惑星に足をつけて生き続けていく方法は未だ確立されていません。蜘蛛の巣のように張り巡らされた世俗世界のウェブに手を加えて、今まで誰も思いつかなかった網目模様をつくる技術が、土を離れては生きていけないわたしたちには必要です。

ceridwen / Greenham Common women's protest 1982, decorating the fence / CC BY-SA 2.0
ceridwen / Greenham Common women's protest 1982, decorating the fence / CC BY-SA 2.0

[1]Donna J. Haraway. Simians, Cyborgs, and Women: The Reinvention of Nature. Routledge, 1991. 181. 本文中の邦訳はまどかしとねによる。
[2]家畜や人に害悪を与える魔術、妖術のこと。毒や薬物の使用を含む場合もあり、中世近世には魔女や悪魔と関連づけられていた。
[3]女神運動や現代美術家に大きな影響を与えた考古学者にマリヤ・ギンブタスがいる。古ヨーロッパの石像や女神像を研究し、インド・ヨーロッパ語族によって侵略される以前には母権制社会が存在したと主張した。「ロサンゼルス・タイムス」のウーマン・オブ・ザ・イヤーに選出されるほどの人気を獲得していた。
[4]横山道史「日本におけるフェミニズムとエコロジーの不幸な遭遇と離別」、『技術マネジメント研究』 6 (2007): 21-33頁。
[5]Haraway 181. 
[6]Joan Haran “Bound in the Spiral Dance: Haraway, Starhawk, and Writing Lives in Feminist Community” a/b: Auto/Biography Studies 34.3 (2019): 427–43を参照。
[7]Haraway 154. 
[8]スターホーク『聖魔女術 スパイラル・ダンス』(鏡リュウジ+北川達夫訳、国書刊行会、1994年)201頁。
[9]Starhawk. Dreaming The Dark: Magic Sex & Politics. Beacon Press, 1982. 74.
[10]スターホーク 373-74頁、註4。

好評につき発売と共に瞬く間に完売した、2023年3月25日に開催されたサイボーグと魔女の絡まりあいについてのまどかしとねのトーク「Cyborging, Withcrafting——ダナ・ハラウェイと現代魔女の邂逅」のアーカイヴ(ハラウェイ瞑想つき)を再販します。販売期間は5/22~5/28 17:00まで(視聴期間 5/22~6/30 24:00まで)。価格は3,000円。Gallery Soap Online Shopにて→https://gallerysoap.stores.jp/

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