PROFILE|プロフィール
山下 港(やました みなと)
東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学(2024年度、博士取得予定)。修士(東京大学)。
生物学を中心とした研究に従事しながら、アートの場での活動も幅広く展開。アートとサイエンスの根底に共通してある人の素朴な関心に、新鮮な気付きと感動が生まれる企みをしている。アーティストとサイエンティスト、そのどちらでもない人とが接し、繋がり、刺激し合い、創発が起こるような時間と場を生むための触媒になりたい。11月に自身の個展「単位―Unit―」(gallery DEN5)を予定。
普段、バイオテクノロジーの研究をしている。今、これを書いているのも大学の研究室だ。
正直なところ、「研究者」と聞いて、オシャレだとか、ファッションに力を入れてるだとか、そういうイメージはあまり無いと思う。
それは、正しい。
みんなお互いの服を気にしている雰囲気は無いし、同僚と服の話をしたことなんてほとんど無い。強いて言えば、服の機能性(どういう服を着ると実験しやすいか等)ぐらいか。
僕は服が好きなので、たまにお気に入りの服を着ていったりする。それが目立つのか、秘書さんの中には、僕は「オシャレ」のイメージが刷り込まれているらしい。時々褒めてくれる。僕もうれしい。
一方で、服の中にはたくさんのテ クノロジーが詰まっている。機能性を追求したものにせよ、ひたすらオシャレなものにせよ、現代の服は、そのほとんどが数学と物理学と化学と工学のミックスによる結晶だろう。研究者たちはみんな、どんな服を着てその研究成果を出したんだろうか。よもや自分の合成した化合物がパリのランウェイを歩くとは思いもしなかったのではないだろうか。
そんなことを考えていると、学問の話には常に付いて回る「役に立つ・立たない」論争のことが頭に浮かぶ。役に立つ研究にお金を集中させるべきだとか、どうして役に立たない研究をするのかとかいう、あれ。時に、ノーベル賞受賞者が「これは何の役に立つんですか?」と聞かれたりもする。
僕はそもそも純粋にサイエンスが好きなので、「役に立たない」こと、いや、正確に言うと「役に立つかどうか、その時点でははっきりしない」ことや、そうした評価に馴染まないことを純粋に楽しみ、擁護したい気持ちがある。そんな僕の立場からささやかなお願いをさせていただけるとすれば、今度「役に立つ・立たない」の話を聞いたときには少し想像してみてほしい。今、身にまとっている服に詰まる研究成果を生み出した研究者の姿を。