クイーンズランド大学人文社会科学部卒業後、現在は大阪大学大学院人文学研究科修士課程に在籍。専門はフェミニスト哲学とファッションスタディーズ。理想的な外見をもつ女性を手がかりにして、規範として生きることの苦しみを分析し、衣服によってそこから脱出する方法を模索している。
ファッションには、どこか底知れぬふまじめさ、いいかげんさがつきまとっている。くそまじめを鼻であしらうようなところがある。きまじめさへの深い不信感がある。そして奇妙にもそういう不良性が、ある種の美意識、ある種の倫理感覚と強くむすびついているところが、なんともおもしろい。ダサいという感じ、共謀してでっちあげられた秩序の固さ、ファッションはそれをもっとも嫌う。
おなじようにというべきか、あるいは逆にというべきか、ファッションという現象はだから、権威や体制や権力機構(とりわけ国家や学校)がもっとも嫌うものでもある。(…)が、体制がファッションを嫌悪するそのほんとうの理由は、それが嫌悪するそのふまじめさが、あるいは確とした根拠がないという事実が、じつは体制の根底にあるということではないだろうか。
(…)まじめを称揚する社会が、ほんとうはもっともふまじめな構造をもっていることを露出する。そしてそういうふまじめさに徹することすらしないふまじめさがある。(鷲田 2012:241-2)