2022.10.24

【リレーコラム】「日韓ハーフ」からみた「韓国風」というトレンド(佐藤祐菜)

PROFILE|プロフィール
佐藤祐菜
佐藤祐菜

慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程。2020年4月~2022年9月まで日本学術振興会特別研究員。専門は、社会学、人種・エスニシティ研究。「ハーフ・ダブル・ミックス」をめぐるカテゴリー化やアイデンティティについて研究している。直近の論文に、“‘Others’ among ‘Us’: Exploring Racial Misidentification of Japanese Youth” Japanese Studies 41 (3)がある。
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1.「非日本人」を判断する指標としてのファッション

「お国は、韓国ですか。中国ですか」 

数年前、そんな質問を男子高校生から受けたことがある。お互い日本語で会話をしていたのに、不思議だ。親切にも私は、「父が日本人で、母が韓国人だよ」と教えてあげた。大学の学部生だったときには、クラスメイトの女性に、どんぴしゃに「韓国とのハーフ?」と聞かれた。私がなぜわかったのかと聞くと、彼女は「メイクが、(韓国)っぽかったから」とつぶやいた。

私が中国人や韓国人に間違えられるとき、服装やメイクは、ひとつの判断基準とされているのではないかと思っている。具体的には、「典型的な日本人女性」(1)と違って、前髪を作っていないから、韓国人や中国人に思われるのかもしれない。あるいは、服やメイク道具を韓国で買うことがあるからかもしれない。

ファッションは、その判断が合っているかどうかは別として、誰が「日本人」で誰がそうではないか、誰が「われわれ」で誰が「かれら」か、見分けるひとつの指標になるらしい。

2.「韓国風」というファッション・トレンド

しかし最近、私は韓国人と間違えられることが減ってきた、と感じる。私のおでこは相変わらず全開だし、服装の好みもそんなに変わっていない。変わったとすれば、社会の方だ。

2000年代から韓流ブームと呼ばれるものはあった。だがそれは、一部の層に限られてきた(韓国ドラマが好き、という私に対して「おばさんみたい」と笑った友人のセリフを私は忘れていない)。けれども、ここ数年の韓国ブームは、もはやブームを超えて日本社会に定着してきた感がある。

今では、日本のNetflixでは韓国ドラマが視聴ランキングで上位にくるし、近所のスーパーに行くだけで辛ラーメンやトッポギが買えるし、「韓国インテリア」なんていう言葉まで登場している。そうした韓国文化の主な消費者は、10代20代の若い世代、特に女性である。

一部では、「韓国人になりたい」という若い女性まで登場しているそうだ。(2)それは、韓国人のような考え方を身に着けたいということよりも、メイクや服装、髪型を通して、「韓国人のような見た目」になりたい、ということであるらしい。(3)

「韓国メイク」、「韓国女子」、「韓国風ヘア」、「韓国人風カラー」、「韓国っぽ」といったハッシュタグがインスタグラムでは見受けられる。「日本人」でありながら、「韓国っぽい」メイクや服装をする人が多くなったから、私の「違い」が相対的に目立たなくなり、韓国人や中国人に間違えられることが減ったのかもしれない。複雑な心境である。

韓国人と思われることは、日本の美の基準に当てはまっていないことだと私は解釈していたのに、「韓国人風」は突然トレンドになった。例えば、私が高校生の頃は、K-POPアイドルは一部で流行っていたものの、「ハーフ顔メイク」の方が化粧品売り場ではよく見たし、「韓国人風」という言葉はほとんど聞いたことがなかった。

「ハーフ顔」は、明らかに、わたしたち=「日韓ハーフ」のことを指してはいなかった。トリンドル麗奈、ローラ、ベッキー。「ハーフ」といったとき、西洋系のバックグラウンドを持つ人を指すか、そうでなくとも、「白人」的な身体的特徴を持つ人ばかりを、人は想像する。
 
では、「韓国人風」の「韓国人」とは、いったい誰のことを指しているのだろう? K-POPアイドルのことを指すのかもしれない。あるいは、『梨泰院クラス』や『愛の不時着』といった韓国ドラマに出てくる俳優を指すのかもしれない。けれど、日本に住む朝鮮半島にルーツをもつ人々は、ほとんど想定されていないだろう、きっと。

3.韓流ブームと朝鮮半島にルーツをもつ人々

それでも韓流ブームは、日本に住む朝鮮半島にルーツをもつ人々に対しても、さまざまな影響を与える。私がインタビューをしてきた「日韓ハーフ」は、韓流ブームに対して様々な意見をくれた。とある20代男性は、ルーツを隠さなくてもよいというポジティブな影響を以下のように語る。

「相手が韓国好きそうだなって思ったら、その話の話題で、そういえば(自分の)親、韓国人なんだよね(って言う)。で、あーそうなんですかっつって、話が盛り上がれば、俺は別にそれでいいぐらい」。(4)

別の20代の女性は、自分よりも「普通にその辺の、韓流好きなおばさん」の方が、韓国語を喋れると思うと語ると、「ちょっと複雑」だと笑った。(5)
 
一方、20代の女性の真紀さん(仮名)は、韓国のポップカルチャーが好きな人であっても、在日コリアンや日韓の歴史問題に理解があるとは限らないと認識している。

「やっぱり K-POP 好きっていうのと、韓国人に理解があるっていうのは、似てるようで根本的に違うなっているのに感じ始めて。(…)友達で、結構K-POPとかも好きで、コンサートも行くぐらいの子がいるんですけど、その子となんとなく喋ってたときに、慰安婦問題のこととか色々言ってて、(韓国人は)ほんま嘘ばっかり言ってるわ、みたいなことを言われたんですよ。

なんかその時に、あ、やっぱりそれってなんか、別物なんだっていう風に感じるようになって。やっぱりその、なんとなく他の子としゃべってても、 K-POP 好きな子でも、政治に何も全然興味ないみたいな。国同士の関係はそんなの関係ないよね、みたいなスタンスの子には、すっごく、やっぱり多いなっていうところですね」(6)

真紀さんは、日韓の歴史や政治への理解なしに韓国発のポップカルチャーだけを好む人について、「一方的に韓国文化を消費されることを見るのがちょっと辛くなってきた」と感じている。

4.韓服レンタルとチマチョゴリ切り裂き事件

韓国・ソウルの景福宮前には、周辺エリアのレンタルショップで借りてきた韓服を着て歩く外国人観光客――もちろん「日本人」も含む――を見ることができる。何もソウルまで行かなくとも、日本のコリアンタウンとして知られる新大久保や鶴橋などに行けば、韓服をレンタルできるようだ。インスタグラムやYoutubeには、韓服、そのなかでも女性用の鮮やかで色とりどりのチマチョゴリを着た若い女性の写真が、日本語で書かれた文章とともに投稿されている。
 
だが、こうしてチマチョゴリを「体験」する人たちのなかで、果たしてどれくらいの人が、かつて「チマチョゴリ切り裂き事件」が日本で起きていたことを知っているだろうか。

「チマチョゴリ切り裂き事件」とは、日本の朝鮮学校で採用されるチマチョゴリ制服(7)――韓服が洋服化され、学校制服化されたもの――を着た女子生徒が、通学途中に制服を何者かに刃物で切り付けられた事件で、1980年代から90年代にかけて起こった。その時期の「大韓航空機事件」やメディアによる「北朝鮮バッシング」などが事件に影響したという。(8)

つまりこの事件では、チマチョゴリ制服が在日コリアン、すなわち、「日本人」にとっての「かれら」――そのなかでも特に女性――を見分ける指標となり、暴力に結び付いたのである。

5.韓国文化の表面的消費を超えて

「チマチョゴリ切り裂き事件」は、今から何十年も前に起きたことだが、在日コリアンを狙ったヘイトクライム(さらに一般的にはヘイトスピーチやレイシズム)は、残念ながら過去のものではない。

2021年、在日コリアンが多く暮らす「ウトロ地区」を意図的に狙った放火事件が起きた。(9)2022年には、大阪の中高一貫校であるコリア国際学園を狙って放火未遂事件が起きた。(10)どちらも、20代の男性による犯行で、在日コリアンや韓国人への差別意識が背景にあったといわれる。私自身も、そうした憎悪の対象に含まれていたかもしれない、と想像することがある。

ちなみに、コリア国際学園の「K-POP・エンターテイメントコース」の2021年度の入学生は、全員「日本人」だったという。(11)「韓国好きな日本人」も、日本社会の「嫌韓ムード」や朝鮮半島と日本の歴史や関係と、まったく無関係ではいられないのかもしれない。

「政治と文化は関係ない」。そうした中立に見せかけた政治的な立場は、「一方的に韓国文化を消費している」と、ある人の目には映りうる。歴史や政治と向き合わざるを得ない人、国家間の関係に翻弄されてきた(いる)人にとっては。

でも最近は、K-POPをきっかけとして、日韓の歴史や在日コリアンの歴史を学ぶ大学生もいるという。(12)韓国風ファッション・トレンドや韓流ブームが、消費だけで終わらないでほしいと願っている。

(1) 「日本人」という言葉は多義的で、場面によって定義は変わるだろうが、一般的には文化・見た目・先祖・名前・行動・居住地といった点の同質性が想定されている。本稿では、そうした「日本人らしさ」に疑問を呈すとともに、この語を批判的且つ便宜的に用いるために、鍵括弧付きで表記している。
(2)例えば、以下の記事を参照。もーちぃ、2018、「いま日本で『韓国人』になりたがる女子高生が…なぜ?:おじさんは理解不能?オルチャンの魅力」、現代ビジネス、(2022年9月7日アクセス、https://gendai.media/articles/-/55941?page=2)。
(3)同上。
(4)2017年9月23日筆者実施のインタビューより引用。
(5) 2017年9月22日筆者実施のインタビューより引用。
(6) 2020年12月4日筆者実施のインタビューより引用。
(7) 韓東賢、2006、『チマ・チョゴリ制服の民族誌:その誕生と朝鮮学校の女性たち』双風舎。
(8)同上。
(9) 千金良航太郎、2022、「京都・宇治のウトロ放火:ウトロ放火、懲役4年 『在日韓国人らに偏見・嫌悪』京都地裁判決」、毎日新聞大阪朝刊2022年8月31日。
(10) 山本康介、2022、「建造物損壊:被告、起訴内容認める コリア国際学園に火 地裁公判/大阪」、毎日新聞地方版大阪2022年8月26日。
(11) 宮崎亮、2021、「コリア国際学園にK-POPコース 入学者は全員日本人」、朝日新聞デジタル(2022年9月7日アクセス、https://www.asahi.com/articles/ASP4P3V33P4MPTIL037.html
(12) 加藤圭木 監・一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール 編『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』大月書店。

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