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【リレーコラム】「日韓ハーフ」からみた「韓国風」というトレンド(佐藤祐菜)

PROFILE|プロフィール
佐藤祐菜
佐藤祐菜

慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程。2020年4月~2022年9月まで日本学術振興会特別研究員。専門は、社会学、人種・エスニシティ研究。「ハーフ・ダブル・ミックス」をめぐるカテゴリー化やアイデンティティについて研究している。直近の論文に、“‘Others’ among ‘Us’: Exploring Racial Misidentification of Japanese Youth” Japanese Studies 41 (3)がある。
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1.「非日本人」を判断する指標としてのファッション

「お国は、韓国ですか。中国ですか」 
数年前、そんな質問を男子高校生から受けたことがある。お互い日本語で会話をしていたのに、不思議だ。親切にも私は、「父が日本人で、母が韓国人だよ」と教えてあげた。大学の学部生だったときには、クラスメイトの女性に、どんぴしゃに「韓国とのハーフ?」と聞かれた。私がなぜわかったのかと聞くと、彼女は「メイクが、(韓国)っぽかったから」とつぶやいた。
私が中国人や韓国人に間違えられるとき、服装やメイクは、ひとつの判断基準とされているのではないかと思っている。具体的には、「典型的な日本人女性」(1)と違って、前髪を作っていないから、韓国人や中国人に思われるのかもしれない。あるいは、服やメイク道具を韓国で買うことがあるからかもしれない。
ファッションは、その判断が合っているかどうかは別として、誰が「日本人」で誰がそうではないか、誰が「われわれ」で誰が「かれら」か、見分けるひとつの指標になるらしい。

2.「韓国風」というファッション・トレンド

しかし最近、私は韓国人と間違えられることが減ってきた、と感じる。私のおでこは相変わらず全開だし、服装の好みもそんなに変わっていない。変わったとすれば、社会の方だ。
2000年代から韓流ブームと呼ばれるものはあった。だがそれは、一部の層に限られてきた(韓国ドラマが好き、という私に対して「おばさんみたい」と笑った友人のセリフを私は忘れていない)。けれども、ここ数年の韓国ブームは、もはやブームを超えて日本社会に定着してきた感がある。
今では、日本のNetflixでは韓国ドラマが視聴ランキングで上位にくるし、近所のスーパーに行くだけで辛ラーメンやトッポギが買えるし、「韓国インテリア」なんていう言葉まで登場している。そうした韓国文化の主な消費者は、10代20代の若い世代、特に女性である。
一部では、「韓国人になりたい」という若い女性まで登場しているそうだ。(2)それは、韓国人のような考え方を身に着けたいということよりも、メイクや服装、髪型を通して、「韓国人のような見た目」になりたい、ということであるらしい。(3)
「韓国メイク」、「韓国女子」、「韓国風ヘア」、「韓国人風カラー」、「韓国っぽ」といったハッシュタグがインスタグラムでは見受けられる。「日本人」でありながら、「韓国っぽい」メイクや服装をする人が多くなったから、私の「違い」が相対的に目立たなくなり、韓国人や中国人に間違えられることが減ったのかもしれない。複雑な心境である。
韓国人と思われることは、日本の美の基準に当てはまっていないことだと私は解釈していたのに、「韓国人風」は突然トレンドになった。例えば、私が高校生の頃は、K-POPアイドルは一部で流行っていたものの、「ハーフ顔メイク」の方が化粧品売り場ではよく見たし、「韓国人風」という言葉はほとんど聞いたことがなかった。
「ハーフ顔」は、明らかに、わたしたち=「日韓ハーフ」のことを指してはいなかった。トリンドル麗奈、ローラ、ベッキー。「ハーフ」といったとき、西洋系のバックグラウンドを持つ人を指すか、そうでなくとも、「白人」的な身体的特徴を持つ人ばかりを、人は想像する。
 
では、「韓国人風」の「韓国人」とは、いったい誰のことを指しているのだろう? K-POPアイドルのことを指すのかもしれない。あるいは、『梨泰院クラス』や『愛の不時着』といった韓国ドラマに出てくる俳優を指すのかもしれない。けれど、日本に住む朝鮮半島にルーツをもつ人々は、ほとんど想定されていないだろう、きっと。
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