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【リレーコラム】疾走する変身願望 ―仮面ライダーとファッション―(鷲見友佑)

PROFILE|プロフィール
鷲見友佑(わしみゆうすけ)
鷲見友佑(わしみゆうすけ)

1996年静岡県生まれ。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科ファッションコース卒業。同大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了。現在、同大学美学美術史研究室教務補助員。幼い頃からの強い変身願望を原動力に、変身の可能性を模索している。現在は移送の視点から変身を捉え、「着用と梱包」を切り口に制作・研究を進めている。

変身しなければならない。私は使命感のような、強い変身願望に駆られて生きてきた。この意識は幼少期に見ていた特撮や、アニメ、漫画の影響が大きい。私が生まれた平成の時代では、変身はとてもポピュラーな価値観だ。
無論、現実世界での変身は容易ではない。よって、私は美術作家として変身の在り方を模索している。
変身という意識が広まった起点には、特撮番組の『仮面ライダー』が挙げられる。この作品は、1971年にテレビ放送がはじまり、日本中の子どもたちに変身ブーム[1]を巻き起こした。現在も平成・令和ライダーとして毎年、新たなヒーローが誕生している。今年(2023年)には、庵野秀明監督の映画『シン・仮面ライダー』が劇場公開され、初代ライダーに一層の注目が集まった。
なぜ『仮面ライダー』は変身ブームの起点となり、昭和から令和の今日まで特別な作品であり続けているのか。そのカギとなるのは、『仮面ライダー』とファッションの関係なのだと私は思う。

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最近発行された、牧村康正氏と山田哲久氏による共著『「仮面」に魅せられた男たち』(講談社)は、ライダー誕生の聖地、東映生田スタジオをめぐる時代状況に光を当てている。『仮面ライダー』の魅力を考える上で興味深いのは、1966年放送開始の特撮番組『ウルトラマン』との比較だ。それについて、メカニックデザイナー・大畑晃一氏はこう語る。
〈仮面ライダーの顔はウルトラマンと違ってすごく人間臭い感情が出ています。ウルトラマンはやっぱり子供の目から見ると宇宙人であり神様に近いんですよ。でもライダーは、血と肉のある人間。感情のある人間が正義を行うためにマスクをかぶるという、そんな印象が画面から伝わってくるんです。〉
日本古代の仏像にも見られる、アルカイックスマイルをもつウルトラマンは、どこか超越的な印象を受ける。その姿は、人間がマスクやスーツを装着しているというよりは、別種の皮膚のようだ。対してライダーは、その名にも表れている通り、「仮面」である。その姿態からは、衣服/着用のイメージが感じ取れる。
さらに、敵キャラクターを比較してみると、意識の違いはより明確だ。ウルトラ怪獣は、全身を異形の骨格と異質な皮膚が覆っている。しかし、ライダー怪人では、頭部や腕は異形に変形しながらも、人間としての輪郭がはっきりと残っているのである。これは、「怪獣」と「怪人」といった名付けの違いにも現れている。怪人の呼称が示唆するように、怪しくも「人」のイメージが基盤にあるようだ。
つまり、衣服/着用のイメージと、人間としての輪郭が『仮面ライダー』というコンテンツの基本にはあるのだ。また、輪郭のみならず、ライダーや怪人の内側には、生身の身体が存在しているとも言える。

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生身の身体という意味では、大野剣友会という殺陣師集団が重要な役割を果たしている。特撮美術によるミニチュアの都市や森林などを舞台に、巨大怪獣との闘いが描かれる『ウルトラマン』に対して、『仮面ライダー』は背景美術をほとんど使用せず、怪人との一騎打ちがヒューマンスケールで繰り広げられる。つまり肉体と肉体での生々しい戦闘が見せ場であった。そのアクションの中核を担った集団こそが、テレビ時代劇の殺陣を担当していた大野剣友会である。
上述した『「仮面」に魅せられた男たち』では、ライダーのアクションを担当していた、若手殺陣師・高橋一俊氏の役割への言及がある。
〈『仮面ライダー』の台本では「ここで立ち回りよろしく」という程度の記述が多かったという。その一、二行の文章と前後のシーンを考え合わせて、高橋が立ち回りを仕上げていったわけである。〉
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