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【連載】ものと人のための補助線 #14:パリ・ファッションウィーク24SS

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
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今年9月、パリはまたファッションウィークのシーズンを迎えた。2024春夏のコレクションを、各ブランドがこぞって発表する機会だ。昨年に引き続き、今年もいくつかのブランドのショーやプレゼンテーションを見るために行ってきた。きらびやかな空気のなかで、街には少しばかりの警戒心がただよう。
余談だが、このパリのファッションウィークというのはミラノのデザインウィークとは本当に雰囲気が異なる。基本的にオープンなデザインウィークに対して、ファッションウィークは非常に閉鎖的だと感じる。ショーやプレゼンテーションは基本的に一部の招待客しか入れず、人気ブランドの場合、招待枠の椅子取りゲームのような状態である。著名人やセレブリティが各地から招待され、会場の外では情報を聞きつけたファッションフォトグラファーがカメラを持って待ち構える。
ミラノのデザインウィークにもVIP枠やプレス枠はもちろんあるものの、多くの展示は入場無料で学生や一般客にも開放されるため、街全体がお祭りのような雰囲気になる。タクシーの運転手と、見た展示の話をしたこともある。
それに対してファッションウィークは、ホテルは高騰し、レストランの席は埋まるものの、どこで何が起きているのかを街の人は知らないというのが実情である。産業の特性なのか、面白い違いだなと感じながら、相変わらずファッションライターではないわたしは、ショーを駆け回るバイヤーや雑誌のエディターたちに混ざりながらも、ややのんびりと過ごしていた。
今年もCFCLやMame Kurogouchi、ISSEY MIYAKEのショーやプレゼンテーションを見せてもらった。半年に一度という目まぐるしいサイクルのなかで、デザイナーやブランドの企画チームは毎度新しいテーマを携えてパリにやってくる。
CFCLのVOL.07は「Knit-ware: New Land」がテーマ。どこまでも続く砂漠とデジタル空間を対比しながら、乾いた大地に降り注ぐ日差しと近未来を予感させるテクノロジーがコンセプトとなっている。会場にはベルリン在住のアーティスト、三家俊彦氏の作品である銀色の草花が据えられて、まだ見ぬ新しいオアシスの存在を感じさせた。
今シーズンも引き続き、コピーライターとして関わらせてもらったのもあり、新しいショーの成功を陰ながらうれしく思った。
Mame Kurogouchiの24SSのテーマは「Fragments」。パリ3区にある「オガタ・パリ」でショーとプレゼンテーションが開催された。
今シーズンは伊万里焼の陶器や製法を着想源に、黒河内氏自身が何度も佐賀県有田市を訪れながらイメージを衣服に落とし込んでいったという。
「陽刻」と呼ばれる、型に粘土を押し当てて紋様を浮かび上がらせる、初期伊万里の特徴的な技術を参照した、草花の図案がエンボス加工されたシャツドレスがファーストルックに選ばれた。
© 2023 ISSEY MIYAKE INC. Photo: Olivier Baco
© 2023 ISSEY MIYAKE INC. Photo: Olivier Baco
ISSEY MIYAKEの2024年春夏コレクション名は「Grasping the Formless―見えない形が見えるまで」。風や光など、自然にある輪郭のないもの、あるいは偶発的な儚い事象をつかもうとする発想から見出された形という、抽象的な印象に近い瞬間が、衣服に表現された。
会場に足を踏み入れると、不思議なベルやバードコールのようなもの、名前の知らない楽器を演奏する人々が点在していた。眺めているとどこからともなくダンサーが少しずつ集まり、あちこちでパフォーマンスが起きる。床に無造作に置かれていた楽器が一つずつ取り上げられたかと思ったら、演奏が始まり、モデルが現れ、ランウェイショーが始まった。
© 2023 ISSEY MIYAKE INC. Photo: Olivier Baco
© 2023 ISSEY MIYAKE INC. Photo: Olivier Baco
会場全体を覆うようなインスタレーションは和紙でできており、出演者たちの動きに合わせて静かに揺らめく。今回のインスタレーションのコンセプトデザインは、デザイナーの田中義久氏が担当した。いかにもISSEY MIYAKEらしい、遊び心にあふれた演出のショーだった。
ファッションウィーク中ではあるが、街にはたくさんの美術館やギャラリーがあり、少し足を延ばせば郊外の街にも行ける。そんなのただの旅行じゃないか、と誰かから怒られそうだなと思いながらも、空き時間はパリをはじめとしたフランスを満喫していた。この手の出張は大概が自費のためいつも大赤字だが、自由な時間は完全なる仕事からは受け取れない贅沢である。
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