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【連載】ものと人のための補助線 #15:花のための器

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
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2023年も終わりが見えてきた。数年前まではその年に購入したものなどをSNS上で振り返ることがあったが、最近はそんなこともしていなかったので、久しぶりにここ数年、自宅にやってきたものたちを思い返してみた。そうすると、意外と花器やそれにまつわるものが多かったと気づく。機能のある道具のひとつとして、花器が好きだ。
日頃から花をいけて使っているものも、ただオブジェとして飾っているものもあるけれど、今回は自宅にある花器を少し紹介したい。ちなみにわたしには華道などの心得はないので、完全に我流である。
OPEN OBJECTは、上海を拠点に陶器のデザインを手掛けている。对(duì)シリーズの花瓶は、わたしが所有する下方に丸みのあるものと、上方が丸いもの、名前の通り対になるデザインで構成されている。どこかで見てから憧れていたブランドだったが、出産祝いとして、当時上海を拠点としていたコダマシーンの2人が贈ってくれた。幾何学的な数理模型のような純粋さが気に入っている。どんな花でも似合うので、いつもダイニングに置いてある。
イラストレーターの一乗ひかるさんは、最近は陶芸作品でも人気がある。彼女の作品集『WORK OUT』への寄稿をきっかけに、花瓶をモチーフとしたシルクスクリーン作品とともに、彼女の手掛けた花瓶を福岡で開催された展示に伺って購入した。
一乘さんのイラストレーションを感じさせる鮮やかな配色は、大胆な花に似合うと思う。人をモチーフにしているけれど、キャラクタリスティックになりすぎないのがさすがだ。イラストレーションとおそろいにしたいので、チューリップの季節が待ち遠しい。
植田佳奈さんの作品は、もはや花器と呼べるかはわからないが、ギリギリ細い小枝が刺さるくらいの穴が開いている。水を入れ替えられる気がしないので、ドライフラワー以外は入れられない。植田さん自身も、話を聞いた段階では陶器における機能性は基本的に興味がなかったらしいので、それで問題はない。彼女の特徴のある象嵌の技法が美しく、陶芸のオブジェとして愛でている。
花器は壁にもかけられる。木工作家である小山剛さんの一輪挿しは、コロナ禍に本人から購入した。彼の他の作品と同様に、一本の木材をくり抜いて製作されている。このときの材料は北海道産のイタヤカエデ。細い銅製の角筒が入っており、そこに花を入れる。「ツルの植物が合うよ」と小山さんに教えてもらったが、あちこち向いているような自由で少し粗野な雰囲気の草花の居場所になる。和風とも洋風とも言えない、彼ならではの木彫の花器だ。
鹿児島睦さんのキツネのオブジェは、我が家にやってきたばかりだ。2024年1月まで立川のPLAY! MUSEUMで開催中の「鹿児島睦 まいにち」展で一目惚れして、ミュージアムショップで購入した。「En Liten Vän」(小さな友達)というシリーズで、スウェーデンのKeramikstudion社が製作を手掛けており、他の動物もいる。鹿児島さんの展覧会の構成も非常によくできており、道具としての陶器やテキスタイルと、美術館という空間を結びつける楽しい工夫として「まいにち」の時間の流れがあった。サルもほしい。
他にもタイのマーケットで購入した花瓶もあるし、Aesopの化粧水やワインの空き瓶に花を入れることもあるが、いずれにせよ花と花瓶を選び、いける行為には、生活者としての喜びがある。仕事に追われる年末だけれど、花を愛でる時間くらいは残しておきたい。
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