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【連載】ものと人のための補助線 #17:本の話

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
Instagram / Web

本の話は、なんだかあまり得意ではない。SNSでも基本的にしないし、思い返せば大事な友だち以外には読んだ本のことはあまり話してこなかった。しかしもちろん、お気に入りの本はたくさんあるし、ちょっと誰かに聞いてほしいような話もある。
最近、仕事の関係で本棚を見渡す機会があり、自分のなかで少し分類をした。そこでなんとなく、大切な本のことを書いてみようかと思った。いろんな本があるけれど、今回は「収集」を一つのテーマにした書籍を紹介したい。本当は1冊でこの短いエッセイを埋め尽くせるほど語れる内容があるが、今回は5冊集めてみた。すでに絶版のものもあるが、気になったらぜひ読んでみてもらいたい。

本多沙映『Anthropophyta / 人工植物門』

デザイナーの本多沙映さんはプラスチックゴミから人工石を作り出したり、人工真珠に新しい価値を見出したりと、これまで日の目が当たらなかった素材に価値を与えるような視点が面白い。この本は「人工植物」、つまり造花と称される植物たちを、正式な植物学として仮定して分析・分類している。
「はじめに」では「人工植物が植物学上で正式に植物と認められた」という、ストーリーから始まっている。タイトルの『Anthropophyta (アンソロポフィタ=人工植物門)』は、造花に与えられた空想の植物分類名として生まれた本多さんによる造語。どこまでも学術的に真面目に、プラスチックや布製の葉っぱのことが語られており、セミフィクショナルな図鑑として楽しめる。ちなみに、昨年には夢の島熱帯植物館で、本物の植物たちにまぎれて人工植物を楽しむ特別展が開催されていた。本当に植物学として認められる未来もある? のかもしれない。

Ryan Thompson & Phil Orr『BAD LUCK, HOT ROCKS』

米国アリゾナ州にあるペトリファイドフォレスト国立公園は、「化石化した森」という名の通り、2億年前の森が化石化した石が転がっている。石化木の保護のために設立された公園なので、落ちている石を拾って持ち帰ることは禁じられているが、持ち帰る人は後を絶たない。しかし、持ち帰られた石はしばしば後悔の手紙付きで戻ってくるという。その数は、1930年以降、1,200通以上のアーカイブとなっていた。
この書籍は観光客が一度拾って持ち帰り、そしてまた公園に戻ってきた石と、それに添えられていた手紙の写真で構成されている。手紙の内容はさまざまだが、車の事故にあったとか、猫が癌になったとか、家族が亡くなったとか、身に降り掛かった「不幸」について書かれているものも少なくない。これらの手紙と戻ってきた石は、園内にある博物館に展示されているという。皮肉なことに送り返されはしたものの、正確な落ちていた場所が不明なため、公園内には戻せないからだそうだ。誰かの意思で収集されたものではないが、結果として集まっているので、今回のリストに載せた。

Christien Meindertsma 『Checked Baggage』

オランダのスキポール空港のセキュリティで、1週間で没収された私物を掲載した本。デザイナーのクリスチャン・メンデルツマ氏の卒業制作のうちのひとつである。2004年に1,000冊が出版され、1冊ごとに「没収品」が手渡されたそうだが、まだ1,843個の没収品が彼女の手元にあったため、2022年に再販されることとなった。すべての本に1つの没収品がシュリンクラップで包まれており、オンラインで購入したところ、わたしのはジレットの剃刀の刃だった。第2版であり最終版だというので、お気に入りの「没収品」を見かけたらぜひ。
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