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【連載】ものと人のための補助線 #18:未来のかけらを探す旅へ

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
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3月29日から、企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」が六本木の21_21 DESIGN SIGHTで始まった。わたしの恩師である山中俊治氏がディレクターを務めるこの展覧会は、科学者とデザイナー(あるいはアーティスト)とのコラボレーションにより生まれた作品群を紹介するもので、わたし自身もテキストと企画協力に携わっている。
この原稿を書いている今はまさに設営中で、現場では材料を切る音が鳴り響き、カッティングシートが壁に貼られ、着々とプロトタイプが設置されている。展覧会の仕事はさまざましてきたが、設営中のほどよい緊張感と現場の一体感は何度経験しても愛しい記憶として残る。
今回の展覧会は、山中氏が率いる山中研究室が多様な研究者たちと協業して制作してきたプロトタイプが中心であるが、新たに7組の作家を迎えてさまざまな「未来のかけら」を散りばめている。
東京ミッドタウンなどに貼られているポスターから、建物の外に吊られたバナーまで、今回の展覧会はアイコニックな緑色のビジュアルが目を引く。全体のグラフィックは岡本健デザイン事務所が担当した。会場のキャプションも緑色で統一されており、鮮やかながら可読性にもこだわったカッティングシートのキャプションはレイアウトも美しく、テキストを書いた自分としてもうれしい。
Photo:Keizo Kioku
Photo:Keizo Kioku
建物に入り階段を下りると、まず目に入るのは「骨」である。nomenaと郡司芽久氏による「関節する」という作品は、郡司氏の専門である解剖学をエンジニア集団のnomenaが体験するなかで生まれた「触れる骨格標本」である。いろいろな動物の脚や腕、あるいは顎(歯)のリアルな模型に手で触れて、骨と骨がピタリとハマる瞬間を味わうと(この気持ちよさは文章にしにくい)、解剖学という学問の魅力がうかがえるだろう。
Photo:Keizo Kioku
Photo:Keizo Kioku
ギャラリー1と呼ばれる部屋では「Robotic World」が展開される。千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)が、山中氏とともに開発してきたロボット群が一堂に介するこのスペースでは、実物のロボットたちが見られるだけでなく、巨大なスクリーンで彼らが動く様子をインタラクティブに楽しめる。iPadや「ON THE FLY」というインターフェースで操作してみてほしい。
Photo:Keizo Kioku
Photo:Keizo Kioku
もっとも大きな部屋であるギャラリー2は、漂うように空間に設置された軽やかな天板がまず目に留まるだろう。展覧会全体の空間設計は、萬代基介建築設計事務所が担当した。世界3ヶ国にあるJAPAN HOUSE(外務省が設置した日本文化の発信施設)を巡回してきた、山中研究室による「Prototyping in Tokyo」という展覧会の展示台がもととなっている。薄さゆえに起こる緩やかな金属のたわみをいかしており、今回は塗装ではなく無垢の金属板がその上に載ることで、その湾曲面がより強調されている。
Photo:Keizo Kioku
Photo:Keizo Kioku
この展示台をワークショップスペースのように活用したのは、東京大学 DLX Design Lab(以下、DLX)と東京大学 池内与志穂研究室のペアである。池内研究室は脳の神経細胞(ニューロン)を体外で培養する研究を進めており、DLXはそのニューロンとどのようにインタラクションできるかを考えた。「Talking with Neurons」はニューロンと(まさかの)「会話」を試みたインスタレーションだ。
Photo:Keizo Kioku
Photo:Keizo Kioku
村松 充というデザインエンジニアは、今回の展覧会で唯一、一人二役を任された。エンジニアでありデザイナーでもある彼は「場の彫刻」と題し、新しいウェアラブルプロダクトのデザイン手法そのもののソフトウェア開発から、最終的なアウトプットの提案までを一貫して行った。会場ではそのソフトウェアを体験することもできる。
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