2022.12.27

【連載】ものと人のための補助線 #05:陶芸の石ころ

#ものと人のための補助線
PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
Instagram / Web

植田佳奈さんという陶芸家がいる。陶芸家ではあるけれど、彼女の主な作品は食器や花瓶ではなくて、陶芸?と疑問符をつけたくなるようなものが多い。石ころのような、サンゴのような、知らない生物の骨のような、どこか遠い昔からそこにあったような風貌をしている。一見しただけでは素材もよくわからない。自分たちの知っている陶器とは違うものを、彼女はつくっている。

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植田さんの個展が、墨田区・京島の「Green thanks supply」で今月開催された。小川 武さんがオーナーを務めるこの店は古い長屋にあって、2019年から観葉植物を販売しながらさまざまな展覧会を企画している。もともとインテリアの仕事をしていた小川さんが、ほぼ朽ち果てていた長屋の2部屋分を地元大工と共に自身でも改修したという。2階部分もぶち抜いているので天井が高く、背丈の有る木々ものびのびと収まり、下町に小さな植物園が現れるようだった。植田さんも3年ほど、この場所で毎年展示をしていると言っていた。

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細長い金属の展示台には、大小さまざまな作品が並んでいた。ほとんどが「なんのため」にあるのかはわからないものだけれど、ただ有るだけで魅力的で、かつてどこかで見せてもらった博物館の資料室のようだなと思った。あるいは、どこかの海の水を顕微鏡で覗くと、こんな世界が見えるかもしれない。

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植田さんは、ずっと実験を繰り返している。明確な目指す形があるわけでも、メッセージ性があるわけでもないそうだが「こうしたらどうなるか?」を日々、手と窯で繰り返していると言う。頻繁に個展も開催しているけれど、並ぶのは「そのときにできたいいもの」だ。だから、どんな作品に出会えるのかは行ってみないとわからない部分もある。大学生の頃から象嵌(ぞうがん)のシリーズは続けているけれど「無限に新しい表現が見つかる」と話してくれた。

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よく、職人が手掛けるような緻密で永遠に続くような行為を見ると「気が遠くなる作業」と人々は表現するが、彼女の象嵌シリーズはまさにその典型のようなプロセスで出来上がっている。花瓶のような形の塊に(小さな穴は空いているが花はほぼ入らない)、永遠に手で小さな線を彫り続けている。しかし植田さんはこれを「連続作業の副産物のようなもの」と話す。淡々とした行為が好きで、これを続けた結果ふと最後に出来上がるのが作品なのだ。「作ろうとせずに作る形」の模索を続けているという。たまたまInstagramでつながって、今年の夏にアトリエにも伺ったが、小さな一室で土作りから焼成までしていると聞いて驚いた。

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今回の新作は、南国の鳥のように鮮やかな色彩の象嵌シリーズだった。新しく手に入った顔料を用いて、真っ白な粘土に色を練り込んでいるという。これまでは白や茶色がメインだったので「新しい領域」と言っていた。同じ技法でも、工程によって生まれるものは異なる。木々に囲まれてギュッと配置された象嵌シリーズは、なにかの木の実のような、不思議な生き物の卵のような印象だった。

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彼女の作品について「まるで、河の石のようですね」と言ったら「あ、私もそれに気づいたんです」と返ってきた。「作っているうちに、自然がやっていることを理解していけるんだなと」と、彼女は話す。水の流れに揉まれ、長い時間をかけて少しずつ角を削られ、丸みをおびていく川石のように、植田さんの手が長い時間をかけることによって、粘土は新しい形を得ていく。実際に、彼女にとっては石ころが「ランキングの1位」だそうで、なんでもないけど道具にもなりえる、そんな存在を目指しているそうだ。新しい手作業を施すことで生まれる新しい形は「現象を見つける」ことだという。

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人類は2万年ほど前から、土でものを作ってきた。それでも陶芸という文化が廃れないのは、きっと道具を作る以上の意味があるからなのだろう。「私のつくるものは自己満足でしかないし、道具としては役に立たない。でもつくることで知るために、石ころのことをわかるためにやっているのだと思います。自然には、勝てません」と、話す植田さんの姿勢は、潔く美しい。人工物を超える人工物も、人の手で生まれている。

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展覧会名:excavation sign
期間:12/10(土)〜12/25(日)
会場:Green thanks supply
植田佳奈さんインスタグラム:https://www.instagram.com/uedakana_/

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