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【連載】ものと人のための補助線 #08:企画展「The Original」が教えてくれる、デザインの味わい方

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
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「デザインミュージアム」と聞いて想像するのはどんな会場だろう。椅子がたくさん並んでいたり、有名なロゴが貼られていたり、その国の著名なデザイナーの紹介があったり。多くの人にとっては(これは若い時の自分も含むけれど)、お店に売られている商品に近いものがただ並んでいて、一つひとつのものの見方がわからず、単純に「きれいな椅子だな」以上の感想がわきにくかったかもしれない。
現在、21_21 DESIGN SIGHTで開催中の企画展「The Original」は、ある種とても堅実なデザインの展覧会である。19世紀以降のプロダクトデザインが集められ、会場に陳列されている。しかしまさにこの連載自体のタイトルにもしているが、家具や道具を見せる際の補助線としての一つひとつのテキストの役割がすばらしく、「デザインってよくわからない」という人にこそ見てほしい企画展だと感じた。
3月3日より始まったこの展覧会のディレクターはデザインジャーナリストの土田貴宏氏。土田さん(普段こう呼んでいるのでここでもそう書く)は何度か仕事でご一緒したことがあるが、デザインの知識が凄まじく、大御所と呼ばれるようなデザイナーはもちろん、国外の20代の若手デザイナーまで幅広い情報と知識を持っている。ただ情報を集めるだけでなく、その価値を常に判断していて、彼がデザインジャーナリストであるならば、わたしはライターだなあと思って、自分の肩書きを決めた背景も若干ある。
展覧会ポスター(©21_21 DESIGN SIGHT)
展覧会ポスター(©21_21 DESIGN SIGHT)
そんな土田さんがディレクターを務める展覧会なので、かなり期待をして伺った。展覧会のビジュアルはゴッティンガム氏が撮り下ろしたフェイ・トゥーグッド氏によるRoly Poly Armchairだが、よく目にする現行品から、日本に代理店がないような、なかなかお目にかかれないようなプロダクトまで、約150点が会場に並ぶ。
ディレクターズメッセージでは、今回のタイトルでもある「The Original」を以下のように定義している。
「確かな独創性と根源的な魅力、そして純粋さ、大胆さ、力強さをそなえたデザイナーによるプロダクトを、この展覧会では『The Original』と呼びたいと思います」(一部抜粋)
世の中には「デザイン」されたものが溢れていて、そこには「あれに似てない?」と思ってしまうものも数多くあるのが事実だ。だからこそ、これが本質的なオリジナルと呼べるものではないのかというプロダクトを、土田さんのほか、プロダクトデザイナーの深澤直人氏とライター/キュレーターの田代かおる氏が共同で選んだのが、今回の企画展である。
会場で土田さんにお会いできたので、今回の展示作品の選定について伺ったところ「デザイン史として入れるべき、というようなある種の惰性での選定ではなく、自分たちが魅力的だと思う数多くのプロダクトから「The Original」のテーマに沿って、その価値や意味を客観的に説明できるものだけを選べたのはよかった」と話してくれた。よい意味で、展示されたプロダクトにある種の好みの片鱗が見えるのも、この展覧会の醍醐味だと思う。
少しデザインに対する知識があったり、興味があったりする人だと「あのプロダクトはこの展覧会に入らないのかな?」という想像がわくと思う。その点も、議論の余白としてもちろん想定しているとのことだった。わたし自身も、あれこれと帰り道に考えていた。あの照明器具は入らないのかな? わたしだったら、あのカメラも入れるかもな、などと。そもそも道具に近づけば近づくほど、「The Original」の所在はわかりにくい(フォークは誰が発明したか? ということになる)。だからこそ、キュレーターの個人的な視点で選ばれていることにも面白さがある。
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