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【連載】ものと人のための補助線 #09:ミラノデザインウィーク2023

PROFILE|プロフィール
角尾舞 / デザインライター
角尾舞 / デザインライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、メーカー勤務を経て、2012年から16年までデザインエンジニアの山中俊治氏のアシスタントを務める。その後、スコットランドに1年間滞在し、現在はフリーランスとして活動中。
伝えるべきことをよどみなく伝えるための表現を探りながら、「日経デザイン」などメディアへの執筆のほか、展覧会の構成やコピーライティングなどを手がけている。
主な仕事に東京大学生産技術研究所70周年記念展示「もしかする未来 工学×デザイン」(国立新美術館·2018年)の構成、「虫展―デザインのお手本」(21_21 DESIGN SIGHT、2019年)のテキスト執筆など。
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4年ぶりのミラノデザインウィークだった。快晴の青すぎる空がなつかしかった。
私的な事情で実質3日間しか見られなかったが、それでも久しぶりに最大のデザインの祭典に触れられたことで、世界のデザインとの接点が改めて持てたような気がした。
見られた展示数が多くはないので、ここで包括したコメントをすることが適切かはわからない。しかし、数年前まで「サステナブル」が最大のブームにすら感じられた作品コンセプトの語り口は、自動生成や機械制御に取って代わられていたように思う。コンピュータとの共同作業とでも言うようなCGやテクノロジーを駆使したデザインとともに、その対極を押し出すかのごとく手の気配が物理的に残る作品が目立った。
プレスプレビューで登壇したRossana Orlandi氏
プレスプレビューで登壇したRossana Orlandi氏
有数のデザインギャラリーであるRossana Orlandiは、傾向が明確でわかりやすい。ミラノの南西部に位置するこのギャラリーは、若手デザイナーが毎年数多く選ばれて出展しており、ここから一躍有名になる人も珍しくない。現在も再生プラスチックのアワードを実施する彼女のギャラリーであるが、今年の展示ではそこまでサステナビリティを押し出した作品は目立たなかった。そのようななかで、記憶に残った作品がいくつかある。
一つ目は、Sarah Collins氏による”Soup Collection”。テーブルや椅子の画像をコンピュータに大量に取り込み、コンピュータ上でシームレスにそれぞれをつなぐことで、あいまいな瞬間が生まれる。そのある一瞬を切り取り、手作業で木製椅子を削り出した作品である。マホガニー製のまるで「CGのような」椅子の背後で、椅子のなりそこないのような形状がグネグネと動き続けている。
もう一つ、デジタル制御ならではの魅力があったのが、Dolomitischによる”Topographic Furniture”である。家具デザイナーと山岳環境についての研究者によるユニットで、さまざまな山岳の地形データをCNC加工で家具のデザインに取り込んでいる。こちらも木材や自然素材、メイドインイタリーにこだわる点など、機械の利点とものとしての強さの対比があり、単純に山のデータがベンチに乗っているだけ、となっていないことが重要だった。
これらと同時に、Michela Castagnaro氏のハンドメイドのセラミック作品が同じ会場で販売されていたのもギャップがあって面白かった。手仕事そのものの、まるでイラストのようなキャンドルのオブジェはモチーフも含めて利便性や機械化とは無縁という魅力が確かにある。
もう一つ、ここから増えるかもしれないと感じたのは、パフォーマーとの共演だった。照明ブランドのFlosによる”Six Acts”と題したプレゼンテーションは、毎日パフォーマーが会場にやってきて、照明器具のある空間で「日常生活」を題材にしたパフォーマンスをし続ける。しかも、レイアウトは毎日変わるという。たとえば初日はリビングルームのようなしつらえの空間で、チェスを並べたり、インスタントカメラで撮影をしたりという「ふるまい」を数時間に渡ってし続けていた。
今回発表された照明器具”My Circuit”は、近年注目が高まり続けるMichael Anastassiades氏によるデザイン。天井に配置するトラックとペンダント照明を自由なかたちで組み合わせられ、部屋のレイアウトによって吊り下げる照明や位置が可変なことから、毎日違う空間でのパフォーマンスが行われるアイデアにつながったそうだ。プロトタイプの発表から約3年間の開発期間を経て商品化となった。
昨今は建築部材に近い部分の照明器具の発表を各ブランドがしているが、この製品もトラック部分からの提案という意味では近い。しかし、天井に這う「サーキット」の部分が「カンディンスキーの絵画のように美しい」と同社グローバルマーケティングトップの Barbara Corti氏が話すように、機能部品を超えた見せ方がそこにあった。
国外のアートシーンでは、数年以上前からパフォーマンスアートは当たり前のようにインスタレーションとして取り入れられてきたが、ここ数年の記憶にある限り、ミラノデザインウィークではレセプション以外でこのようなパフォーマンスを見せることは珍しかったと思う。新鮮であると同時に、ここからの可能性も感じた。
Gubiの展示会場となった市民プール施設
Gubiの展示会場となった市民プール施設
それは、年々展示会場が郊外化している点についても言える。単純に新しいものをきれいに並べて見せるだけでは飽き足りず、場の力を借りるとでも呼べる展示がどんどん多くなってきた。たとえば教会や使われていない市民プールなど、そこに行く価値があると思える場所でのインスタレーションが増えている。限りなく消費財に近いデザインを見せるうえでも、より文脈を感覚的に伝えることが必要になっているのだろう。
展示箇所が点在すると見て回る側は大変な部分もあるが、例年ミラノの4月は過ごしやすく晴れが多い。今回も時間のないなかでの取材ではあったが、ジェラート休憩や、夕飯のピザやリゾットを楽しみに、ときに公園へと遠回りをしながら、ミラノの散歩を満喫した数日間だった。
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