2021.07.28

【連載】上海ファッションシーンにおけるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #002

#Culture Studies: Fashion after 2010
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PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

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前回の連載でまとめた2010年初頭にロンドンから世界へと起きた「ゲームチェンジ」をベースに、今回は上海を中心に2015年頃に中国から世界へと今も更新し続けている「ゲームチェンジ」について書いていく。
 
ファッションにおける中国の立ち位置を考えたときに、「パチモン」や「大量生産/消費」といったキーワードを想像する人は少ないだろう。そのイメージを塗り替えたのは、ここ5年程のことである。
 
わたしが初めて中国・上海に訪れたのは、2016年頃。当時の合同展示会「MODE SHANGHAI」の雰囲気としては、前日まで工事が入り、会場中に砂埃が立っているような光景にびっくりしたことを覚えている。といっても、その段階ですでに世界の名目GDPではアメリカに次ぐ2位に位置し、2015年に108.2兆元、2016年に157.6兆元、2017年には202.9兆元と年間のモバイル決済額の急激な成長とともに、キャッシュレスを中心としたライフラインを獲得していた。

経済成長に伴う新しいライフラインの構築、そして全世界的に価値観の変化をもたらしているZ世代の動向などあらゆる社会的な要因が背景にあったとしても、5年間ほどで起きた上海のファッションシーンにおけるゲームチェンジのキーは一体なんだったのだろうか?

プラットフォームの拡大

独自のプラットフォーム

2016年当時、初めての上海ファッションウィークにさまざまな驚きや楽しさを感じつつも、片一方で同時期の上海ファッションウィーク期間中に「LABELHOOD」の開催がスタートしている。
「LABELHOOD」は、これまでもインタビューやコレクションレポートで伝えてきているので、以下リンクを参考にしてほしいが、前回の連載で紹介したロンドンでいう所の「NEWGEN」「FASHION EAST」のような役割として中国のファッションシーンに新しい息吹を吹き込んだ重要なプラットフォームだ。

彼らのここ4~5年で広がる影響力は、これまでに輩出したブランドから明確に感じ取れる。Netflixの「Next in Fashion」に出演したAngel Chen、LVMH Prize2019のショートリストにノミネートしたSusan Fang、LVMH Prize2021にはRuiがファイナリストにノミネート、ミラノと東京のファッションウィークに参加したSHUSHU/TONG、ロンドンファッションウィークに参加するFeng Chen Wang、Guccifestで映像作品が選ばれたYueqi Qiなど多種多様なブランドが「LABELHOOD」でデビューを果たし、世界へと飛び立っている。

オーディエンスを巻き込むフラットさ

「LABELHOOD」の自国の若手ブランドを育成・輩出する仕組み自体は、前回連載で取り上げた「NEWGEN」「FASHION EAST」と重なる部分があるが、ネット普及以降に立ち上げられたことによるロンドンのそれとは違うポイントが2つある。
 
ひとつめは、従来のファッションウィークで守られてきた「エクスクルーシブ」という価値観をフラットにしたこと。
本来ファッションショーは、上流階級向けに行われるオートクチュールから始まっているため、ブランドから選ばれた者のみがインビテーションを片手に入れる世界だ。その「エクスクルーシブ」さは、ある意味ファッション独自の価値としてハイエンドなファッションブランドのプレミア感を保っているとも言える。いわゆるその「エクスクルーシブ」の最上級を担うパリファッションウィークにおいて、2015年頃にGosha RubchinskiyやVETEMENTSなどが登場したことは価値を激震する「ゲームチェンジ」だった。
そうして2020年パンデミック後の現在においては、それが全世界的にオンラインで配信されるようになったからこそ、ハイブランド側はデジタル上で感じさせる「エクスクルーシブさ」を模索している。

その状況を先見したかのように「LABELHOOD」は、開催当初からショーを業界関係者以外にも一般のオーディエンスに向けても解放していた。
「LABELHOOD」の共同創設者であるTasha Liuに始まりの経緯を聞くと、もともと2009年に「棟梁(現 LABELHOOD)」というセレクトショップから始まり、いつでもお店というスペースを通して、現地のオーディエンスと対話してきたバックグラウンドに由来していると語る。実際にショーの会場では、ワークショップを行うスペースやスナップ写真が撮影できるような溜まり場など、お店でのコミュニケーションを拡大するようなスペース作りが広がっている。

同時に、当時多種多様なブランドを輩出するもののマーケット自体は、まだまだ成長段階だったことで、必然的にオーディエンスも同じ速度で育てて行かなければいけなかったのも事実。
「この5年間を振り返ってみると、私たちはマーケットをまずはcultivate(育てる)期間だったと思う。その中で、中国ならではの美意識というものが輪郭を帯びてきたように感じます」とTasha Liuはこの5年間を振り返る。

そのようにオーディエンスを巻き込むフラットさを開催当初から続けていたからこそ、パンデミック後のオンライン配信に移行してもしっかりとオーディエンスのリアクションを得られていたのではないだろうか。
もちろん、もともとパンデミック以前からオンライン販売を配信型で行なっていた背景も要となり、今回「LABELHOOD」は、「口紅王子」と呼ばれるビューティーブロガー・Li Jiaqiとコラボレーションを行い、Ming Ma、Swaying、Mayaliなど若手デザイナーの商品を紹介。Li Jiaqiは2017年に300種の口紅をテストする配信を通して、たった1日7時間で1億8000万円を稼いだとして有名なこともあり、今回のコラボレーションでも2時間で300万から1000万のビューを獲得。そして、Gong LiやGuo Yirantianなどファッションデザイナー本人も配信に登場することで、KOLに頼るだけではない「LABELHOOD」ならではのオーディエンスとの対話を図ることで売り上げも伸ばした。

シーン全体での「自国らしさ」の形成

ふたつめは、ブランド ⇄ オーディエンスの育成と同じく、フォトグラファーやスタイリスト、ヘアメイクなどのビジュアル表現の担い手も育成したこと。
『DAZED』や『A magazine curated by Simone Rocha』など数々の雑誌を手がけるLeaslie Zhangは、いまや中国を代表するフォトグラファーとして飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍している。ほかにも、Feng LiやZeng Wu、Xiaopeng Yuanなど多種多様な表現のフォトグラファーが活動。

スタイリストは、Audrey HuやLucia Liuなど雑誌に所属しているケースもあれば、フリーランスで行なっているケースもある。メイクでは、自らをフェイスペインターと名乗るValentina Liが上海ファッションウィークシーズンでの活躍はもちろんのこと、Dazed 100にも選ばれている。

さまざまなビジュアル表現の担い手が登場する中で、いずれの表現においても、モデルキャスティングからモチーフまで「自国らしさ」を意識しているように映る。
 
Tasha Liuに、その「自国らしさ」の形成はどのくらい意図的なものだったのか尋ねると「90年代生まれのデザイナーが、5年前からヨーロッパの大学に留学するようになり、バックグラウンドや幼少期の記憶を強く問われるようになりました。そこで、ただ単にインターナショナルな雰囲気だけではなく、アイデンティティを強調しないと、と気がついたんだと思います。その流れが、全ての始まりに関係しているんじゃないでしょうか。あとは、アウトプットした後に国外からのリアクションを受けてさらに強固になった部分もありますね」と話していた。
 
一方で、すでにその「自国らしさ」に反発するように、2022A/Wシーズンでデビューを果たしたファッションブランド・Louis Chen Taoは1granaryのインタビューでこう話している。
「自分のブランドのキーポイントのひとつは、中国の伝統にこだわらないことだと思います。服のデザインから起用するモデルに至るまで、よりグローバルな見せ方にしたいです。デビューコレクションのスタイルは、アジアテイストかヨーロッパテイスト、どちらにも断定できないようなあらゆる国からの影響を受けています」

「自国らしさ」の形成からそこへの反発、一連の流れをTasha Liu自身も予想し、ようやく色々なスタイルが生まれ、よりダイバーシティなオーディエンスのリアクションが相互作用していくと話していた。
その予想はすでに実行に移され、次なるポテンシャルを秘めているマーケットを育成すべく、「LABELHOOD Youtopia」というイベントも2018年にスタート。業界を目指す高校生〜大学生を対象にした支援プログラムとなり、Anno Mundi、Fivekoh、Momonar、Sorgenti、Toileといったデビューしたての若手ブランドがショーを発表。また、あまり古着文化が容認されにくかった中国において珍しく、「LABELHOOD Youtopia」による古着やアップサイクルされた服を販売するポップアップが上海の高級ショッピングセンター「Taikoo Hui」で開催された。

飛び火していく勢い

メディアコンプレックスな展開

そのように従来の価値観とは異なる手法で、今後成長の可能性のあるマーケットを育てることにより、その影響力はファッションブランドやプレイヤー以外にもほかのプラットフォーム、メディアやショップへと飛び火していく。
 
まずは、Tasha Liuも審査委員のひとりとして参加しているプライズ「Yu Prize」。ほかにも ANDREW BOLTONやSIMON COLLINSなどグローバルな審査委員を迎え、2020年にローンチした。第一回目には、Chen Pengが最優秀賞を受賞し、賞金として100万人民元(約1,705万)、ハロッズでのコレクション販売の機会、Renzo Rosso氏による1年間の指導プログラムを受けられる。ここにも「LABELHOOD」から輩出されたデザイナー勢もノミネートを果たし、おそらく今後も育成システムが相互によって循環されていくのだろう。
 
そのような若い才能は、ファッションデザイナーだけにとどまらず、メディアからも生まれて生きている。
2021年春に『VOGUE CHINA』の編集長が27歳のMargaret Zhanに交代したことは世界的なニュースとして記憶に新しい。VOGUE史上最年少の編集長となり、エディター以外にもKOL(キーオピニオンリーダー、いわゆるインフルエンサーのことを中国ではそう呼ぶ)としての顔を持っていたことから新しい時代の交代劇として注目された。
 
ほかにも、2019年にローンチした『DAZED CHINA』は、現地の雑誌『YOHO!』とライセンス契約を結んだ上、C VentureのAdrian Chengから投資を受けたことで中国でのDAZED創刊を実現させた

契約を結んだ『Yoho!』は2005年にファッション&ライフスタイル雑誌として創刊したのち、瞬く間に国内最大のストリートウェアEコマースとして規模を広げ、現在では「Yo’hood」という名前のもと世界各国の150ブランドが出展する巨大なトレードショーも開催している。『Yoho!』のようなストリートウェアを中心とした雑誌のほかに、カルチャーやエディトリアルを含む『DAZED CHINA』が創刊したことは、また異なるストリートファッションの価値やマーケットを国内に広げるカンフル剤になるのではないだろうか。

そのようにオンラインショッピングとメディアを通して国内コンテンツの循環が活発化する傍らで、大型のショッピングモールは、輸入コンテンツの体験の場としてうまく機能しようとしている。
今年6月に刊行された『System Magazine』でもFarfetchに並びメインコンテンツとして取り上げられていた北京の大型ショッピングモール「SKP-S」は、2019年オープン当初からインパクトのある店内がSNS上で話題を集めた。

特にその中でも、韓国のアイウェアブランド・GENTLE MONSTERによるディスプレイエリアは、いくつかの場所で近未来的なディスプレイを発表し、注目を集めていた。GENTLE MONSTERは2011年に韓国で誕生したサングラスブランドで、これまでにFENDI、BLACKPINKのジェニ、Marine Serre、AMBUSHなどとコラボレーションを行い、3DCGを使ったインパクトのあるビジュアルと各店舗の装飾で話題をつくってきた。

今までオープンしてきた各国の店舗のコンセプトや装飾も大胆なものだったが、今回の「SKP-S」では「Digital-Analog Future」をテーマに4つのエリアで展開。そのうちの一つである「Future Farm」では、世界初のクローン羊・ドリーを彷彿とさせるようなロボットで出来た何十匹もの羊の牧場のインスタレーションが登場。商品が置いてあるスペースはほんの少しだけだが、オンライン販売では得られない体験をしっかりと店舗であらわしている。

加熱するシーンの裏側で

今まで紹介してきた通り、この5年でもともとの人口数の多さも相まってファッションシーンのプレイヤーとオーディエンスどちらも巻き込みながら、「ゲームチェンジ」を仕掛けつづけている中国。
 
といっても、世界の流れから孤立して独自のスピードを描いているわけではない。
2021年春にネット上で流行った「躺平主義(寝そべり主義)」は現在の加速する社会に逆行する姿でもあり、全世界中に漂うヒッピーなムードとも同期している現象だった。
 
実際、「LABELHOOD」から輩出されるファッションデザイナーや取り巻くクリエイターも、もともと留学できるほどの家庭環境に支えられ、ブランドデビュー後も家族経営で行っていることも稀ではない。そのような家庭環境による格差、社会での競争、ファッション以外の業界でいえば学歴など圧力が、加速してアウトプットする風潮と相まって重圧となることもある。
 
以前、上海で開催していたアートイベントに訪れた時に、とあるブースでシルクスクリーンの一点もののTシャツが展示されていた。ブースに立つデザイナーと話すと「一度は「LABELHOOD」に参加したこともあったが、自分の創作のスタイルがあの勢いとは相性がよくなくて。最近、こうやってファッション以外の場所で発表するようになった」と話していたことを覚えている。
 
中国に限らず、日本でも全世界でも貧困格差、それに伴う資源の貧困などが起きている。ファンタジーをまやかし的に見せるファッションにおいて、その現実はこれからどのように「ゲームチェンジ」に影響を及ぼしていくのか。
 
次回記事では、そのように現実とファンタジーの間を切り取る近年のファッションフォトグラフィーについて語る。

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