2021.09.22

【連載】ビジュアルコミュニケーションをめぐるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #003

#Culture Studies: Fashion after 2010
heroImage
PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

Instagram / Twitter / Web

2010年以降、企業からファッションブランドまで規模に問わず、Instagramやtiktokなどビジュアルを通したオーディエンスとのコミュニケーションは欠かせないものになった。むしろ、その一瞬でオーディエンスが共鳴するか否か決まるといってもいいほどの影響力をもっている。
 
そのある種の依存関係のようなブランドもしくはデザイナーとSNSの密着度は、2021年にBottega VenettaのInstagramが閉鎖したニュースへの反響からも窺いしれるだろう。この一件は、ケリングの表明によれば、SNSはアンバサダーやコミュニティに託すものだと語り、一方でブランド側からはデジタルジャーナル「Issue」を刊行することで、雑誌をめくるようなインタラクティブな仕掛けがSNSの規定のフォーマットを超えたブランドの世界観を表現できる最適なツールとして導入し始めている。それは、SNSのスピーディーな競争とは逆行しながらも、ブランドのペースに合わせて独自のコミュニティを形成するようにも感じられ、その新たなビジュアルコミュニケーションの力は、しっかりと売り上げの数字にも反映されている。

さまざまなデジタルツールが飽和状態になった2020年のいま、全世界がオンラインを通してファッションショーを見ることも解放される中、SNSの2Dの世界で試行錯誤するブランドもいれば、PRADAやBottega Venettaのようにアプローチごと変えるブランドも出てきた。
2010年から今に至るまで、一体ビジュアルコミュニケーションにおけるゲームチェンジはどのように変容してきたのだろうか?

フィルム回帰がもたらしたもの

連載の第1弾で少し触れたように、2010年以降のファッションのコンテクストにおいて「ジェンダーレス」「多様性」などのキーワードの源流のひとつには、2013年に発表したJ.W.Andersonのコレクションがあった。
そして第1弾では触れられなかったが、アメリカではストリートからHood by Airも、その源流をさまざまなコラボレーターと一緒に広げていっていた1人であることを忘れてはならない。
 
彼らが大きな反響をもたらすまで、いわゆるハイブランドから提示されてきた美意識は、背が高く細いモデルとフォトショップで艶やかに加工された写真。それは、まだSNSが普及する前の雑誌→オーディエンス / 広告→オーディエンス という一方向でのコミュニケーションだからこそ可能とするものでもあったが、2010年以降SNSでオーディエンスが多様に自己表現をするようになってから、その美意識は憧れではなくなった。SNSに広がる「PR」のハッシュタグによるリコメンドや過剰にまで加工した美しさよりも、ありのままの自分でも等身大に感じられるものへの共感が強まっていったのだ。

その潮流の後押しのひとつには、フィルム写真の回帰と同時にストリートキャスティングが影響してきている。
例えば、J.W.Andersonは2013年に発表したショーのあとに、クリエイティブディレクターにBenjamin Brunoを起用し、当時無名に近かったフォトグラファー・Jamie Hawksworthとともに3年以上にわたってキャンペーンフォトを打ち出してきた。そこには、日常的なモデルが身体の動きやプロップを使って奇妙なフォーム描く姿が映し出される。

同時期に登場したフォトグラファー・Harley Weirも、現在はより身体の造形にフォーカスをおいているが、活動初期にはStella McCartneyやBALENCIAGAのキャンペーンでいびつなポージングをするモデルたちを捉え、Jamieと同時期に活躍し始めたフォトグラファーとして注目を集めることになった。

そして、ストリートの印象が強いHood by Airでさえも、2015年にColin Dodgsonを起用し、彼が撮影するSimone Rochaのキャンペーンビジュアルとはまた違った雰囲気でストリートキャスティングによるキャンペーンビジュアルを発表していた。
牧歌的なフィルム写真とオーディエンスの等身大になりうるようなキャスティングは、これまでの理想美を掲げる消費者主義とは違った美意識として、ブランドが持つコミュニティの輪を広げるものになった。

そのように次世代の価値観によるビジュアルメイキングでアプローチするブランドの姿は、2015年前後にIDEA BOOKS、OK-RMなどから数々のブランドの写真集が出版されていた時代性からも読み解けるのではないだろうか。
2013年にGosha Rubchinskyに惚れ込み、少部数から出版業をスタートしたIDEA BOOKSは、その後2015年にGUCCI、2016年にPALACEとタッグを組み、DOVER STREET MARKETでの販売をメインにすることでブランドと写真集の架け橋を担っている。OK-RMも2017年にJ.W.Andersonが開催した展示にもとづいた写真集「Disobedient Bodies: JW Anderson at The Hepworth Wakefield」を発売。そこでは、20〜21世紀にかけてデザイナーやアーティストがどのように身体のかたちを捉えてきたかまとめている。

もちろん過剰な消費者主義に対抗した美意識は、2010年に目新しく起こったものではなく、Kate Mossの活躍を促したCornney DayやMario Sorrenti、David Simなどの写真家たち、そしてインディペンデント雑誌―Purple、Self Service―の登場など90年代に起きた価値観を大前提としている。その時代へのリスペクトをなしに、2010年以降iPhoneで気軽に誰でも写真が撮れる時代の特異的な技術としてフィルム写真が流行ってしまったことに対する賛否両論も一時期起きていた。

回帰だけではない、身体の美意識の変容

しかし、ただ単純に「フィルム写真の再ブームだった」と一概に言い切れない理由には、2010年以降に変容した身体の美意識へのアプローチがある。
 
第1弾で話した通り、J.W.AndersonやHood by Air が登場した当時は、まだ「ユニセックスウェア」「ジェンダーレス」という言葉も追いついていなく、デザイナー本人も「Androgyny」という言葉でその現象を捉えていた。だからこそ、Jamie HawkesworthやHarley Weir率いるフォトグラファーたち、クリエイティブディレクターがデザイナーと手をとることで、まだ形容しがたい身体のシェイプをシュールなポーズで表現していたのではないだろうか。
 
次回は本稿の続編として、2010年以降のビジュアルメイキングにおいて変容する身体へのアプローチについて語る。その変化は誌面ではなくSNSを通じてコミュニケーションされることでよりリアリティを持って伝播していく。

LINEでシェアする