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【連載】多層なるゲームチェンジ:Culture Studies: Fashion after 2010 #005

PROFILE|プロフィール
Yoshiko Kurata
Yoshiko Kurata

ライター / コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM & PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。[Photo by Mayuko Sato]

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いままで数回にわたって、わたし個人の視点で触れてきた2010年代ファッションのビジュアル表現におけるゲームチェンジ。もう少し俯瞰した視点で2010年代の輪郭をなぞっていきながら、まだ言語化できない現在進行形のことまでまとめられないかと思い、今回はゲストに村上由鶴さんを招き、紐解いていきます。村上さんは、現在研究者・ライターとして、The Fashion PostPopeyeで写真の美学を軸に連載を行い、最近では「発明」という視点からファッションフォトの歴史をまとめています。これまで連載で焦点を当ててきた2010年代に起きた新しい身体表現の起点を探りながら、現在進行形で変容している表現や価値観についてお話させていただきました。
そしてこの回をもって、この連載は一区切りとなります。またどこかでゆっくりとファッションにおけるゲームチェンジを語れる機会があれば、そこで皆さんと再会できることを楽しみにしています。

50年代を起点に始まる「女性性」への意識の変容

前回の記事で触れた、モデルキャスティングの変化と新しい身体表現は、理想の美への価値観を崩すカンフル剤としてあらわれ、そこに拍車をかけるようにSNSでのオーディエンスの声は、よりダイレクトに「理想の美」に対しての意識を覆していった。その変革によって「性」に対しての固定概念が取り払われていったわけだが、村上さんの視点から見ると、それらの変革の大元となるファッションフォトの起点は、50年代に活躍していたアーヴィング・ペンやリチャード・アヴェドンらの表現がベースにあるという。
「男性目線からのグラマラスな女性モデルという見られる存在としての『女性性』の捉え方に、新しい女性像を示して台頭したのが70年代に登場したヘルムート・ニュートン、デボラ・ターバヴィル、ギイ・ブルダンなんですよね。1960年代から70年代にかけては社会的背景としても、女性たちによる女性解放のための運動としてウーマン・リブが起きていたことも影響していたと思います。そうした背景をもとに、70年代に活躍した写真家たちはそれぞれが思い描く自立した女性を表現するために新しい『女性性』を写真を通じて表現していました」。

90年代のスーパーモデルブームが打ち出した新しい身体表現

といっても、グラマラスな身体の女性像というイメージは50年代から変わらず写し続けられていた。その固定概念を打ち破ったのが、90年代のスーパーモデルブームだったと村上さんは続ける。
「スーパーモデルブームが与えた影響は大きく、憧れの対象がファッションブランドや商品から、ファッションモデルに移り変わり、ファッション産業におけるパワーバランスが変わったのです。だから、ブランドも写真家もスーパーモデルブームに属していたモデルの起用を申し出て、モデルの方が仕事を選ぶという優位な立場でした。ケイト・モスを始め、彼女たちの身体は50年代〜70年代に主流だった”グラマラス”ではなく、細身で雰囲気のあるモデルたちで『ヘロイン・シック』と称されていました。ちょうど当時は、ストリートファッションやクラブカルチャーが盛り上がってきていて、特にヨーロッパでは大手のファッション雑誌媒体だけでなく、〈Purple〉や〈Self Service〉〈i-D〉などインディペンデントでニッチなファッション雑誌も台頭し、スーパーモデルたちはそれぞれの媒体で違った表情を見せていたんですよね。例えば、〈VOGUE〉ではゴージャスでラグジュアリーな雰囲気、一方で〈Purple〉では家で着替えている途中のようなリラックスなムード、そのどちらの顔も持っているモデルこそが”スーパー”だとされていたのではないでしょうか」。
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